第83話 魔神竜と戦う



 しばらく歩いて行くと、別の空間へと到着した。


 地面は、草一本も生えていない。乾き、ひび割れた大地が広がっている。


 その奥には、1本の大樹があった。

 見上げるほどの大樹は……しかし、葉がほとんどない。


「あれが世界樹? モリガン」

「ええ……ただ、おかしい、世界樹は光り輝く大樹だったはずです」


 枯れかけで、今にも倒れてしまいそうな木にしか見えない。


「ミカお母様、木の根元……なんか変じゃあないですか?」


 ウゾウゾと根っこが動いてるではないか。


「ミカ。邪悪なる気配を、世界樹の根元から感じます」


 森の女神モリガンが木の根を指さしながら言う。


 私たちに気づいたのか、それが動き出した。

 ず、ずずずず……!


 木の根っこだと思っていたのは、巨大な……胴体だ。

 蛇のごとく長い胴体を持つ……。


「ニーズヘッグです! ミカ!」


~~~~~~

魔神竜ニーズヘッグ

→蛇の魔神。

あらゆるものを飲み込み、体内は異空間となっている。入ったモノは二度と外には出れない

~~~~~~


 腐葉土みたいな肌。

 ぶっとい胴体。そして……巨大な蛇の頭。


 巨大な蛇が、世界樹に噛みついているのだ。


「蛇の毒で、世界樹が枯れてるってことか」

「あ、あの、モリガン様。魔神とは、なんでしょう?」


 リシアちゃんが説明を求めてくる。


「魔神とは、地上に降り悪さをする神のことです」

「神……で、ではあのニーズヘッグさんは、ミカお母様たちの仲間……?」


「いいえ、悪しき行いをする神は、我ら善なる神とは対極なる存在です。そもそも、神は地上の事柄に不干渉なのです。魔神はそのルールを犯す、犯罪神なのです」


 ……私バリバリ地上に干渉してるんですが?


「ミカは例外です。元々人間ですし、そもそも神々のトップ、最高神ですから」


 最高神は干渉して良い的なルールがあるんだろう。


「み、ミカ神様。どうなさるおつもりか?」


 ルシエルが怯えながら尋ねてくる。


「やめて貰う。モリガンたちは、こっから動かないでね」


 黒姫くろひめの結界で、リシアちゃんたちを覆う。

 私は一人、ニーズヘッグのもとへ行く。


「こんにちは。私は長野 美香」

『じゅるじゅる……じゅるじゅる……』


 一心不乱に、ニーズヘッグは世界樹に噛みついて、何かを吸い取っている。

 牙のあたりから、世界樹は枯れていってる。


 多分木の養分を、ニーズヘッグが吸い取っているのだろう。


「やめてくれないかな? 世界樹が無くなると、魔素マナが作られなくなって、この森や、世界がヤバいことになっちゃうの」


 世界樹から放出される魔素マナは、森に、世界に恵みをもたらす。

 ここの世界樹が死んでしまうと、りしあちゃんの領地が死ぬことになる。


 そんなことは、リシアちゃんの母が、許さない。


『じゅるるる……じゅるるるう……』


 駄目だ。聞く耳を持たないようだ。


風刃ウィンド・エッジ


 手加減して魔法を放ってみる。

 ザシュッ……! とニーズヘッグの肌を、風の刃が傷つける。


『なにすんだぁあああああああ!』


 ニーズヘッグが大きな尻尾を動かして、こちらに向かってたたきつけてくる。

 黒姫くろひめの結界を発動。


 しかしこれはまずい、という直感が働く。

 結界はまるで濡れた紙のごとく簡単にぶち破られる。


 ズドォオオオン!


 私の持つ最高神スキルの一つ、絶対防壁ファイアーウォール

 あらゆる攻撃を、無効化し、受け付けない。

 それは魔神の攻撃であってもだ。


「しかし玄武の結界を破ってくるとか……とんでもないパワーだね」

『うるさい! 邪魔するなああああ!』


 ニーズヘッグがまたぶっとい尻尾で攻撃してきた。

 でもいくら殴ってきても、ダメージが入ることはない。


『くそぉおおお!』


 がばっ、とニーズヘッグが世界樹から口を離す。


「やった! 世界樹から離れたぞ!」

「ルシエル、結界から出ないで。何かしてくるっぽい」


 ニーズヘッグが大きく口を開くと……。


 ゴオォオオオオオオオオオオオ!


「体が……吸い寄せられる……!」


 ニーズヘッグが凄まじい吸引力で、私をまるごと吸い込んでいく。

 ふわり……と私の体が浮くと、ニーズヘッグの中へと引っ張られる。


「ミカお母様ぁあああああああ!」


 ……。

 …………。

 ………………気づけば、私は暗い空間の中に居た。


 足のあたりまで水で浸されてる。

 そして、奥の方まで暗いトンネルが続いていた。


~~~~~~

現在の状況

→ニーズヘッグの体内。体内が結果異空間となっており、中にいる存在を、外に決して逃がさないようになってる

~~~~~~


 試しに大転移グレーター・テレポーテーションを使って見るも、やはり、外に出れる気配はない。


「困った。閉じ込められちゃったかぁ」


 どうするかなぁ……って、ん?


「これって、ゴミ……?」


 岩とか、壊れた建物の破片とか、明らかにゴミっぽいもので溢れている。


 気になったので、私はニーズヘッグの事情を、全知全能インターネットで検索してみた。


「なるほどね……」


 そういうことか。

 なんだか、可哀想な子なんだな。


「助けて上げないと。ボックス!」


 空間に黒い箱が出現。


『きたでー!』『ごじゃーる!』


 朱羽あかはね、そして、白猫はくびょうがやってきたのだ。


『ミカやんっ、心配したでっ!』

『ごじゃるっ!』


 二人とも、洗礼を浴びた結果、しゃべり方に変化が見られるようになった。

 朱羽あかはね白猫はくびょうは言語能力が強化された。


~~~~~~

ボックスが使えた理由

→ニーズヘッグの結界は、内側にいるものを閉じ込める結界。

外からの侵入にはもろい

~~~~~~


 ということで、こっちから転移して外に出ることはできないけど、外から呼び出すことは可能なのだ。


 まあ、結界内に外からわざわざ入る必要性ってないしね。


朱羽あかはね白猫はくびょう。ちょっと手伝ってほしいんだ」

『ええでっ。何を手伝えばええんやっ?』


「ちょっと、ゴミ処理をね」


 私は朱羽あかはねたちに指示を出す。

 二人はうなずくと……。


『いくで!』

『ごじゃるっ!』


 朱羽あかはねから凄まじい量の炎が吹き出す。

 白猫はくびょうは爪で、ニーズヘッグの体を切りつける。


『いだいぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!』


 トンネルの奥から風が吹き出す。

 私たちはその風にのる。


 突風は私たちの体を、外へ通しだした。


「地上、でたー」


 空中で朱羽あかはねが私の襟首をつかみ、空中でホバリング。

 白猫はくびょうは私が抱きかかえてる。


 ニーズヘッグはみるみるうちに体のサイズを小さくしていく。


 地上ではモリガンたちがこちらに向かって手を振っている。

 心配させちゃったようだ。

 

 私たちは地上へと降り立つ。


「ミカっ!」「お母様っ!」


 二人が私に抱きついてきた。


「ごめんね、不安にさせちゃって」

「いえ……無事で何よりですっ」


 ぐすぐす……とリシアちゃんが鼻をすすってる。


「しかし、ミカ神様。いったいどうやったのですか?」

「ニーズヘッグの中にあるゴミ、燃やしたんだよ」


 私は中で見たことを説明する。


「あんなかめちゃくちゃゴミがあってさ。要らないモノ食べ過ぎた結果、あんな風に太っちゃったわけ。で、二人にゴミを処理して貰ってたんだ」


 朱羽あかはねの炎は万物をもやし、白猫はくびょうの爪は万物を切断する。

 二人の力で、ニーズヘッグ体内の、消化できないゴミを処理した結果……。


「こうなったわけ」


 ちっちゃくなったニーズヘッグを、私が持ち上げる。


「ずいぶんと可愛くなりましたね……」


 外見はもちもちの、小さな蛇だ。

 蛇っていうより、ツチノコって感じがする。


「では、処分しましょうか」

「待ってモリガン。この子……不憫な子なのよ。この森のゴミを、一人で掃除してくれてたんだ」


 私はニーズヘッグ体内で調べた、事情について、皆に教える。


~~~~~~

ニーズヘッグの事情

→世界樹が腐らぬよう、瘴気やゴミを一人で食べていた。誰からも感謝されなくなり、魔神に反転してしまった

~~~~~~


「つまり……世界樹を守るために、やっていたと?」

「そう。でもいつしか世界樹に憎しみを持つようになったんだろうね」


 ぐぅう……。

 手のひらの上で、ニーズヘッグの腹の虫がなる。


『おなかすいたよぉ……』


 また世界樹にかじりつこうとする。


「そんな美味しくないもの、食べなくて良いよ」


 私も社畜だったから、頑張っても報われない苦労は、理解してる。

 この子に……美味しいものを、食べさせてあげたかった。


 KAmizonで買った、もちもちの豆大福を取り出す。

 そして、ニーズヘッグに食べさせる。


『これ、とぉってもぉ……おいち~♡』

「そうでしょう? もっと食べる?」

『うんー』


 いっぱい私は豆大福を食べさせた。


「一人でよく頑張ったね。食べたくないゴミを食べて、世界樹を守ってえらかったね」


『う゛ん゛……ありがとぉ~……おねえちゃん……』


 モリガンはニーズヘッグを見て目をむく。


「信じられない……魔神の気配が、消えた……!」

「ミカお母様のおかげで、憎しみの感情が消えたからでしょうっ! さすがですっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る