第81話 魔族を殺す魔法を完成させる


 魔除けの匂い袋を設置し終え、これで魔物は襲ってこなくなる。

 となると、次の対策は魔族だ。


「ミカならその辺も簡単に対策してしまうでしょうっ。なにせ、ミカはすごいですからねっ!」


 森の神こと、上級神モリガンが言う。


「あのねモリガン、あんまり私を持ち上げないでくれないかな……?」

「? どうしてですか?」


 私はハーフエルフたちを指さす。


「森の神が、ミカりん殿を持ち上げてる……?」

「ミカりん殿は森の神の眷属ではないのか……?」


 ハーフエルフたちにとって、モリガンは信奉するべき神。

 一方、彼らは私が、モリガンの配下(眷属)だと思ってるらしい。


「貴方たち! 不敬ですよ!」


 モリガンが、ずんずんとハーフエルフたちに近づく。


「ミカが眷属? バカ言ってはいけま……もがもが」

「はいはい、魔族の対策かんがえよーねー」


 モリガンから離れて、ルシエルに尋ねる。


「ハーフエルフたち、魔族が現れたとき、戦えそう?」

「……無理だな。我らはエルフより魔力量、魔法力で劣る」


「でも魔法の扱いは、人間よりは得意なんでしょう?」

「ああ。だが……それでも魔族には及ばない。魔族は極大魔法を受けても、生きてると聞く」


~~~~~~

極大魔法

→才能ある人間が、長い修練の末に使えるようになる、人類魔法の極致。広範囲、高火力の殲滅攻撃魔法。消費魔力量が多い

~~~~~~


 ハーフエルフはそもそもこの極大魔法すら打てないらしい。

 うーん……どうするかなぁ。


 と、そのときだった。


 ズドンッ……!

 私の、目の前で……ルシエルが突然倒れたのだ。


「ルシエルさん!」


 リシアちゃんがルシエルに近づいて、肩を揺する。


「し、死んでる……」

「なん……だと……?」


 ルシエルの心臓には大きな穴が空いていた。

 いったい……だれが……? どうやって殺した……?


「はーっはっはっはぁ! どうだぁ見たか! 【魔族殺し】ぃ!」


 ……頭上を見上げると、見覚えのある顔がいた。


 色違いイチワ・デ・キエリュウ、とでも言うべきそいつが、上空にいた。

 背後には、転移門ゲート


「我が輩の名前は【ビョウ・デ・キエリュウ】! イチワ・デ・キエリュウの従兄弟……」

究極闘気砲アルティメット・オーラキャノン


 私は闘気オーラを手のひらに集めて、ビョウ・デ・キエリュウに放つ。


「ホギャァアアアアアアアアアア!」


 上空へ放たれた強力な砲撃によって、ビョウ・デ・キエリュウは消滅した。


「起きて! ルシエルさん……!」


 心臓を失って、ルシエルは死亡してる。

 私は【蘇生魔法】を試みる。


 が。


「起きない……」

「そんな! どうして……!?」


 すると……。

 

「ふははははは! 見たかぁ……!」


 殺したはずの、ビョウ・デ・キエリュウが復活していた。


「なんで生きてるのあんた?」

「我が能力アビリティ起死回生オート・リバース】の効果だぁ!!」


~~~~~~

起死回生オート・リバース

→死亡すると発動する。死ぬたび強くなる

~~~~~~


 リシアちゃんは泣きながら、領民ルシエルを揺すっている。


 ……娘を、こいつは泣かせた。

 それが……許せない。


「蘇生魔法? むだむだむだぁ……! 我が輩の開発した魔法……【人殺呪文ヒュプノス】! これを受けた人間は、完全なる死を迎えるのだぁ!」


~~~~~~

人殺呪文ヒュプノス

→最小限の魔力量で、最高の貫通能力の光線を放つ。相手の急所を自動で狙う

また、魔法を分解する呪いを付与することで、蘇生を阻害する

~~~~~〜


「リシアちゃん、ちょっと待ってて。あの虫けらを、消してから……ルシエルを生き返らせるから」


 私は飛翔魔法で空を飛ぶ。

 皆に下がるように指示。


 私とビョウ・デ・キエリュウが、空中で相対する。


「無駄無駄ぁ……! 我が輩の説明を聞いていなかったのかぁ? 人殺呪文ヒュプノスは、完璧な【人類を殺す魔法】! これが破られることは、絶対にない!」


「あ、そ。じゃ、やってみなよ」


 すっ、と私は両手を広げる。

 片手にはスマホ。


 私の口から出る言葉には、感情が乗っていなかった。

 激しい怒りは、不思議とない。


 私にはやるべきことがわかっていた。

 やるべきこと……すなわち、このゴミを速やかに抹殺すること。


「お望み通り撃ってやろう」


 バッ……! とビョウ・デ・キエリュウが手を前に出す。


人殺呪文ヒュプノス!」


 ズドオォオオオオオオオオオオン!


「はーっはっは! 勝った! イチワ・デ・キエリュウ! ジカイ・デ・キエリュウ! 見ているか! 今、我が輩がおまえたちの敵を……とってやったぞぉぉ!」


「とってないよ?」

「なにぃいいいいいいいいい!?」


 ビョウ・デ・キエリュウの攻撃が、確かに、私の心臓を打ち抜いた。

 蘇生阻害の呪いも発動してる。


「ば、ばばばっ、バカな!? ありえん! 人類を殺す魔法をうけて、なぜ生きてる!?」


 するとモリガンが、どや顔で、大きな声で言う。


「はんっ! 最高神たるミカが! 人類を殺す魔法ごときで、死ぬわけないでしょうがっ!」


「「「「え゛……?」」」」


 ハーフエルフたちが、ぎょっ、と私を見てる。

 まあいいや。それは後で。


人殺呪文ヒュプノス! 人殺呪文ヒュプノス! 人殺呪文ヒュプノスぅ!」


 ビョウ・デ・キエリュウがビームを連発してくる。

 でも私は死なない。当たり前だ。


 モリガンが言うとおり、私は人間じゃあないのだから。


「何度もお手本を見せてくれて、ありがとうね。おかげで、【完成】したから」

「か、完成……? 何を……?」


 私はいったん地上に降りる。

 そして、ビョウ・デ・キエリュウに背を向けて、ルシエルのもとへ向かう。


「お、おい! なに戦闘中に背中を向けているのだ!? 舐めてるのか!?」

「当たり前でしょ? おまえは、もう死ぬ。お望み通り、秒で、死ぬ」


「いやべつに望んでないが……どういうことだ!?」

「首を洗ってそこで待っておけ、という意味だよ」


 私はビョウ・デ・キエリュウを放置して、ルシエルのもとへ。


ボックス、おいで、四神の皆」


 ボックスの中から、黒姫くろひめ白猫はくびょう青嵐せいらん朱羽あかはねが出てくる。


「皆、力貸して」


 こくんっ、と皆がうなずく。

 私は手を差し伸べて、放つ。


 神の力、そのもののを。


「【神・完全蘇生アルティメット・リバース】」


~~~~~~

神・完全蘇生アルティメット・リバース

→神の力で、死者を完全な状態で復活させる

〜〜〜〜〜〜


 黒姫くろひめの結界で魂を留め、

 白猫はくびょうの爪で無菌状態を作り、

 青嵐せいらんの水で失った部位を補完、

 朱羽あかはねの炎で病・呪を祓う。


 神獣たちの力と、最高神の力を組み合わせた、複合奥義。


「魔法で蘇生が阻害されるなら、神の力で生き返らせれば良い! ということですね! さすがですミカ!」


 全知全能インターネットでやり方を調べたら、できそうだったから、やってみたのだ。


 四神たちはボックスの中に戻す。 


「う、うう……はっ! ここは?」

「ルシエルさん! 良かったぁ……! 良かったよぉ!」


 リシアちゃんがルシエルに抱きつく。

 

人殺呪文ヒュプノスで殺したものを、蘇生させた!? そんなのもはや……人間業じゃあない!」


 さて……。


「もう、おまえ良いよ」


 上空のビョウ・デ・キエリュウを見やる。


「とても、勉強になったよ。ありがとう。じゃ、」


 私は右手を前に突き出す。


「消えろ」


 右手に魔力が集中し、前方めがけて、光線が放たれる。

 それはビョウ・デ・キエリュウの心臓を正確に打ち抜いた。


「ば、かな……これは……人殺呪文ヒュプノス……!? しかしこれは……人間を殺す魔法……」


 ぱらぱら……とやつの体が炭化していく。


「起死回生が、はつどう……しない……どう……なって……」

人殺呪文ヒュプノスを、術式解析ハッキングさせてもらった」


~~~~~~

術式解析ハッキング

→魔法等の構造を調べる


術式改良プログラミング

→魔法等の構造を組み替える

~~~~~~


「人を殺す魔法から、魔族を殺す魔法……作らせて貰ったよ」


 人殺呪文ヒュプノスの、人間をって部分を、魔族を、に変えた。それだけだ。


「我が輩の……魔法を……対魔族魔法に……かえたのか……なんて……やつ……だ……」


「ありがとうね、ビョウ・デ・キエリュウ。君は魔法の教科書に乗れるよ」


 魔族を効率よく殺す魔法の開発に協力した、愚かな魔族ってね。


「そんなぁ……」


 最後はチリとなって、ビョウ・デ・キエリュウは消えていった。


「おまえの名前をとって、魔殺呪文ビョウ・デ・キエリュウ、って名前にしてあげる……って、もういないか」


 私は振り返る。

 リシアちゃんの頭を撫でる。


「ごめんね、悲しませちゃって」

「いいんですっ。ルシエルさんを助けてくれて、ありがとうございますっ!」


 リシアちゃんがうれし涙を浮かべて、抱きついてる。うん、良かった……。


「「「「ありがとう! 最高神ミカ様!」」」」


 ハーフエルフたち、私の前で全員土下座してるのだった。

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