第59話 やばい能力を眷属神に与えてた



 デッドエンドの、私の小屋にて。


「ミカお母様〜♪」


 リシアちゃんが私の膝の上に乗っかってる。


「お母様お母様っ」

「どうしたの?」

「呼んだだけですっ♪」


 可愛い……


「母様、このご本はなんですか?」


 リシアちゃんが眷属神になったときに、出現した、ちょっと厚めのノートみたいなサイズかんの本。


〜〜〜〜〜〜

全知全能の書ミネルヴァ

→触れた相手の人生を本に転写できる。

本にはその人の人となり、経歴、能力、本心といった個人情報が乗ってる。

本に命令を書き込むことで、その通り動かすことが可能。

※ナガノミカの庇護の範囲内でのみ使用可能

〜〜〜〜〜〜


「このご本は、私の庇護下でのみ、触れた相手の人生を本に転写するみたい」


 たとえば、相手が考えてることとか、相手のもつ能力とか。


「とてもすごい鑑定能力ということですねっ」

「まあそんな感じ。あと本に書き込みもできるんだってさ」

「!? 書き込み。なるほど……」


 と、そのときだった。

 ドンドンドン!


『リシア様! 大変でございます!』

「どうしたの、セバスチャン?」


 扉を開けると、そこにはリシアちゃんの老執事が立っていた。


「大変です! ソクタイジョーが来ました!」

「! ミカお母様が追い出した、あのソクタイジョーが!?」


 冒険者ギルドに居座っていた、高ランクの嫌なやつか。


「ここは、わたしにお任せください! 母様から授かった神の力で、追い払って見せます!」

 

 私はリシアちゃん、セバスチャンとともに、ギルド会館前へと移動。


「おらぁ! 領主とミカりんを出せやごらぁ!」


 ソクタイジョーの周りには、さらに柄の悪そうな連中がいた。


 全知全能インターネットで調べたところ、どうやら訳あって冒険者を追放された連中らしい。


〜〜〜〜〜〜

ソクタイジョーの目的

→自分に恥をかかせたミカりんに復讐し、そのまま領主を脅し、この領地を手に入れようとしてる

〜〜〜〜〜〜


 どうしようもないクズだった。


「ミカお母様に、復讐……ですって……?」


 リシアちゃん?

 なんか君の目から、ハイライトが消えてません?


 リシアちゃんは全知全能の書を手に、すたすたと、ソクタイジョーに近づく。


「あの!」

「おお、リシアぁ、へへっ。久しぶりだなぁ」


 ソクタイジョーはロリコンで、リシアちゃんと結婚したいとか思ってるやつなのだ。


 ぽん、とリシアちゃんがソクタイジョーに触れる。


「えっへっへ、おれの女になる気になったかぁ?」

「黙れ、ロリコン」


 え? リシアちゃん……?


「ろ、ろろろ、ロリコンちゃうわ!」


 と強く否定するソクタイジョー。 

 だが、リシアちゃんは全知全能の書を読み、周りに聞こえるようにいう。


「毎晩幼女の■■■■で■■■■を■■■■してるくせに」


 幼女の口から、とんでもないセリフが出てきたんですけどっ?


「おいおいまじかよあいつ」「とんでもないど変態じゃあねえか」


 引き連れてきた冒険者崩れたちが、ソクタイジョーに対してドン引きしていた。


「て、てめえ! なんてこと言いやがるっ!」


 ソクタイジョーがリシアちゃんにぶん殴りかかろうとする。

 私が魔法で、リシアちゃんを守ろうとする……。


「ぶげやぁあああああああああああああ!」


 だが、それより前に、ソクタイジョーが後ろにぶっ飛んでいった。

 冒険者崩れたちにぶつかる。


「どうしたんだよソクタイジョー?」「急に後ろにぶっ飛んできたぞ?」「あの幼女が何かしたのか!?」


 リシアちゃんは全知全能の書を開いて、片手にペンを持っていた。


~~~~~~

ソクタイジョーがぶっ飛んだ理由

→リシアが全知全能の書ミネルヴァに、【後ろにぶっ飛ぶ】と書き込んだから

~~~~~~


「なんだ、なにがどうなってるんだぁ?」


 怯えるソクタイジョーを、リシアちゃんが冷たく見下ろす。


「わたしがあなたを強制的にぶっ飛ばしました」


 すっ、と本を皆に見せる。


「わたしの能力は、相手の人生をこの本に転写する。そして、書き込んだ命令の通りに、相手を動かせるのです。これがどういうことか……わかりますか?」


 さぁ……と全員の顔から血の気が引く。


「ど、どうなるっていうんだよぉ!」


 リシアちゃんが本を開いたまま、ページに書き込みをする。


「【ソクタイジョーは、息が出来なくなる】」

「ガッ……!」


 ソクタイジョーがその場に崩れ落ちる。


「ソクタイジョーが苦しみだしたぞ!?」

「書き込んだとおりに、呼吸ができなくなってるんだ!」

「ひぃいいい! なんて恐ろしい能力だぁあああああああ!」


 ソクタイジョーのやられっぷりを見て、冒険者崩れたちが戦慄の表情を浮かべる。


 ソクタイジョーはアワ吹いて気絶する。


「ひぃい!」「ソクタイジョーぉ!?」「死んだのかぁ!?」


 死んではいない。

 ただ窒息で気を失っただけだ。


「ぎゃああああ!」「ひいぃいい!」「デッドエンドの領主は恐ろしいやつだぁああああああああ!」


 冒険者崩れ達がソクタイジョーを置いて逃げ出す。

 ぽつん、と私達だけが残される。


「リ、リシアちゃん、さすがに殺しは駄目よ?」

「ええ、わかってます」


「そうだよね、わかってるよね」

「こんな外道に、ミカお母様からもらった力を使ったら、力が穢れてしまいますから」


 あなたちょっと病んでませんか……?


 リシアちゃんはペンで、【ソクタイジョーは、息が出来なくなる】の部分に斜線を入れる。


「かはっ! はぁ……! はぁ……! はぁ……はぁ……!」


 どうやらノートの記述を消すことで、命令を取り消すことが可能のようだ。


「お、おれは……いったい……?」

「あなたは一度死にました」

「「ええ!?」」


 驚く私とソクタイジョー。

 いやいやいや、死んでないですがっ?


「こちらの大賢者ミカりん様が、あなたを蘇生させたのですっ!」

「「ええええっ!?」」


 驚く以下略。

 いやいや、そんなことしてませんがっ?


「あ、あなた様が……お、おれを……? どうして、あんたに報復しようとしたのにっ!」


 するとリシアちゃんが微笑みながら言う。


「大賢者ミカりん様は、矮小なるあなたの、愚行を許すどころか、あなたを哀れんで蘇生までしてくださりました」

「うおおおお! なんて慈悲深いおかた! ありがとうございますっ!」


 ざっ、とソクタイジョーが私の前に跪く。


「大賢者ミカりんさま! どうかこのおれを、あなたの配下にしてくださいっ!」


 普通に嫌だ。

 眷属には(養子には)したくないし。


「お願いします! なんでもしますので!」


 まあでも、こいつ確かAランク冒険者だった。

 中々強いんだけっか。


 戦力はあればあるほどいい。


「じゃあ、リシアちゃんの手伝いして。あとこれからは、新人イジメみたいなせこいことしないで」


「わかりましたっ! このソクタイジョー・ニドトアラワレン! これより、ミカりん様と領主様のために、一生懸命働きますっ!」


 リシアちゃんの全知全能の書ミネルヴァに、変化が訪れる。


【ミカりん様に、心からの忠誠を誓うぞ!】と書いてあった。


 全知全能の書ミネルヴァにそう書かれてるのだから、本当に改心したのだろう。


「ミカりん様の子として相応しい行動を取らねば、と思ったら、自然と力を使いこなせるようになりました」


「そうなんだ……」


「はいっ。ミカりん様のおかげですっ! これからも、ミカりん様の子として、恥ずかしくないような行動を心がけますっ!」


 うーん……。


「そんなに気を張らなくていいんだよ」


 よしよしよし、と私はリシアちゃんの頭を撫でる。


「あう……♡」


 さっきまでちょっと怖かったリシアちゃんだけど、すぐに元の子どもらしい表情に戻った。


「リシアちゃんにはお母様がついてるんだから。一人でなんでもかんでもしなくていいんだから」

「お母様……♡ 優しい……好き……です♡」


 しかしこの子ちょっと危ういところあるのが、今回の件でよくわかった。

 それに彼女の能力も、かなり危険なものだし。


 この子が間違った方向へいかないように、しっかり導いてあげないと。


「ミカりん様っ、わたしのおうちに来ませんかっ? 一緒にお茶したいです!」


 そうだね。ちょっと休みたいと思っていたところだし……。


「いいよ」

「やったぁ~!」


 私はリシアちゃんと手をつないで、領主の館へと向かう。

(ソクタイジョーは冒険者ギルドに用事があるようだ)


 歩きながらリシアちゃんに話しかける。


「いいかい、リシアちゃん。君は神様になったけど、悪い神様になっちゃあいけないよ」

「悪い神様?」


「そう。神の力で、他人に迷惑をかける、それが悪い神様」

「なるほどっ」


「君は素直で優しい神様でいてあげてね」

「はいっ!」


 うんうん、そうそう。

 この子はこういう素直な子なのだ。


 さっきはちょっと、強い力を持ってしまって、悪い方へ行こうとしてたけど。

 悪い見本がなければ、うん、大丈夫。この子はまっすぐ育ってくれるはずだ。


 リシアちゃんの館に入る。


「「ミカ(神さま)、最高神へのランクアップ、おめでとございまーす!」」


 ……扉の向こうにいたのは、駄女神トゥアハーデ。そして……上級神モリガン。

 ……うん、悪い見本がそこにいた。


 ……って、え?

 最高神へのランクアップって……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る