第52話 商会のために大量のポーションを作る



 リシアちゃんをマデューカス帝国にある、帝都カーターへと連れてきた。


~~~~~~

帝都カーター

→マデューカス帝国中央に位置する都市。帝国の心臓部分。特に魔道具技術が発展しており、帝国産魔道具は高値で売買される。

~~~~~~


 とっても高い外壁に囲まれている。

 入り口には門番はいない。


「どうやって出入りを管理してるんだろう?」

「魔道具で管理してるのよ。ほらあれ」


 エルメスが指さす。

 自動開閉式の扉の前には、コンソールが置いてあった。

 そこに薄い板を差し込むと、扉が開く。

 中に人が入ると扉が閉まった。


 異世界だっていうのに、自動扉が実装されてるんだ。


「あの板は?」

「カードキーという魔道具よ。アレを持ってないと入れないの」


 なるほど。


「カードキー持ってるの? リシアちゃん?」

「はいっ。OTK商会からもらったカードキーがここにっ」


 リシアちゃんはポシェットに手を突っ込む。


「あ、あれ……? カードキーが……ないです」

「置いてきちゃったの?」


 と、そこで私は気づいた。

 リシアちゃんの使ってる、ボロボロのポシェット……。


「底が開いてるね」

「え!? ああー! 本当ですっ!?」


 じわり、とリシアちゃんが目に涙を浮かべる。

 

「キーどこに落としちゃったんだろう……あれがないと中に入れない……」


 中の人に新しいキーを発行して貰えばいいのではないか? と思ったけど、じゃあどうやってってなる。


 教えて全知全能インターネット


~~~~~~

帝都カーターへの侵入方法

→スキル【ハッキング】を使用する。

~~~~~~


~~~~~~

ハッキング

→派生技能。

全知全能インターネットを用いて、術式の解析や改変を行う

~~~~~~


 このハッキングとやらの力を使えば、中に入れるっぽい。


 まずは、魔道具を写メで取る。

 続いて、全知全能インターネットを起動した状態のスマホをコンソールの上にかざす。


 がしゃんっ。


「開いたよ」

「「えええええええええええ!?」」


 リシアちゃんとエルメスが驚愕の表情を浮かべる。


「ど、どど、どうやったのですかっ?」


 全知全能インターネットっていう、神スキルを使ったんです。

 なんて、言えるわけがない。


開錠アンロックって魔法があるわ。それを使ったんじゃあない?」

「な、なるほど……! 帝国の超高性能な魔道具の扉の鍵すらあけてしまうなんて、さすがです!」


 キラキラした目を向けられてしまう私。

 これ不法侵入にならないか?


 まあ入って良いって許可を貰ってるところに、侵入してるんだ。

 不法侵入ではない、断じて。


「さ、入りましょう」


 中に入って、まずびっくりするのが、建物が全て高いのだ。

 けっこー密集して建てられている。敷地面積が狭いのか、建物が皆、上へ上へと伸びている。

 

 道路はレンガで綺麗に舗装されている。

 ゲータ・ニィガの王都の、ザ・西洋ファンタジーっぽい街とは全く違う。


 ほどなくして、OTK商会の商館へと到着した。

 他の建物と比較して、敷地面積がかなり広い。縦じゃなく横に広い。土地もってるなぁ。

 儲かってるのだろう。


「ここの誰に会う予定なの?」

「ギルマスの【ショー・イーダ】様ってかたです」


「ショー・イーダ……変わった名前ね」


 イーダってのが特に変だ。

 なんか異世界の名字っぽくない。


~~~~~~

OTK商会

→かつて異世界から召喚された勇者(日本人)が作った商会。

転生時にもらったチート能力で一代で大商会を作り上げた

~~~~~~


 やっぱりね。

 召還勇者なんてものがこの世にいるんだ。


 まあ、召喚聖女がいるんだから、勇者もいてもおかしくはないか。


「ショーさんって人に会うのね。了解。ついていくよ」


 五歳児を一人で向かわせるのは、あぶないからね。

 寂しいだろうし。


 ぱぁ……! とリシアちゃんが笑顔になる。

 やっぱり心細かったのだろう。なんだかんだいってまだ五歳だもんね。


 で、私たちはOTK商会館に入ったわけだけど……。


「おい回復薬追加であるだけもってこい!」

「薬草の在庫ってまだのこっていたよな!?」

「帝都の錬金術師に大至急ポーション作らせろ!」

「素材がないから無理だそうです!」


 あっちこっちで怒号や悲鳴が上がっている。

 商会の職員らしきひとたちが、あっち行ったりこっち行ったりとひっきりなしに動いてる。


「せわしないわね。客が来たってのいうのに、出迎えもなしとか」


 エルメスがため息をつく。

 まあ、なんとなく何かがあったんだろうってことは察せられるけどね。


「あ、あのぉ……」


 リシアちゃんが受付嬢に尋ねる。


「なんですかっ? 今忙しいんで手短にお願いします!」


 ちょっと感じ悪いなぁ。


「すみません、OTK商会のギルマスと、会う約束を取っております、リシア・D・キャスターと申します」

「ギルマスと会う約束?」


 受付嬢さんはかたかた、と手元のパソコン? 的なものをいじってる。

 魔道具かな。あれでスケジュールでも管理してるのだろうか。


「申し訳ありません、ギルマスはただいま急に入った別件の対応をしており、リシア様にお会いできない状況にあります」

「別件……」


 多分この周りの人たちが忙しくしてる、これのことだろう。

 なるほど、この忙しさが緩和しないと、リシアちゃんはギルマスに会えないってわけか。


~~~~~~

OTK商会が忙しくしてる理由

→帝国の兵士たちが、四凶が一柱、窮奇きゅうきと戦闘し負傷。

大量のポーションを急いで用意する必要があるため。

~~~~~~


~~~~~~

窮奇きゅうき

→四凶が一柱。猛毒の針の衣を纏う、牛の邪神。その風は病をもたらす。

~~~~~~


 なるほど。邪神に遭遇して、兵士たちが傷を負った。

 で、それを治すポーションを急いで集めてるってことか。


「どうしましょう、ミカりん様。今OTK商会、すっごく忙しそうですし……。後日日を改めてということにしましょうか?」


 けが人がいるって知ったのに、何もしないのは、ちょっとね。気が引ける。


 ようするにポーションが大量にいるらしい。

 ……青嵐せいらんボックスから召喚する、と絶対に騒ぎになる。


 あの子の水は完全回復薬エリクサー並の回復力を持つけど、絶対目立つし。


 青嵐せいらんの水である必要はない。ポーションがあればいいんだから。


 私はスマホを取り出して、ラインする。


「ちょっと、何やってるのよミカ?」

「眷属にポーションの材料を取らせてる」


 ポーションに必要なのは、薬草と水だそうだ。

 それだけでできるんだから、お手軽。


 お野菜眷属達に薬草と水を取ってくるように指示。

 で、ボックスに突っ込んでもらう。


ボックス


 私の前に黒い箱が出現。


「で、調合魔法っと」


 無属性魔法(火や水といった、属性のない魔法の総称)、【調合】を使用。

 ボックスに入っている薬草と水が、私の魔法で、ポーションへと変化する。


「あのー」


 私は受付嬢さんに話しかける。


「ポーション、いります? たくさんありますけど」

「! あるんですかっ? ぜひ、売ってください!」


 まあ正直現地のお金はいらないんだ。

 私が欲しいのはKPだけど。


 まあリシアちゃんの領地運営資金になればいっか。


「えっと、じゃあ樽あります」

「は……? た、樽……? あ。ありますけど……」

「じゃ、ありったけ用意してちょうだい」

「は、はい……?」


 困惑しながらも、受付嬢が樽を一個持ってくる。


ボックスオープンっと」


 黒い箱から……。

 ドバッ……! と緑色の液体が滝のように噴出した。


 え、ちょっと多くない……?


「こ、こんな大量の回復薬はじめてみました!」


 リシアちゃんと受付嬢が目をむいて驚いてる。


「ちょっと! 樽たりないわよ! 早くもってきなさい!」


 とエルメスが叫ぶ。

 周りの職員たちが、慌てて大量の樽を持ってきた。


 合計で、樽……1000個。

 私の造ったポーションが、その1000個の樽に、並々と注がれる。

 

 これでもまだ、ボックス内のポーションには余裕がありそうだった。


「こんな大量のポーションを用意してくださり、ありがとうございます!」


 と受付嬢が私に頭を下げてくる。

 

「お礼はこの、デッドエンド領主のリシア・D・キャスターちゃんに言ってあげて。私は彼女の付き添いだもので」


 と、リシアちゃんの手柄にしておく。

 こっちのほうがいいよね。この後、商会との交渉があるわけだし。


 恩を売っておけば、交渉が有利になるだろうしね。


「ありがとうございます、リシア様! 助かりましたっ!」


 受付嬢が何度もリシアちゃんに頭を下げてくる。

 彼女は私を見て、深々とお辞儀する。


「ありがとうございます、ミカりん様!」

「いえいえ、どういたしまして」


 ……しかし、邪神が暴れてる、か。

 窮奇きゅうき。四凶が一柱……。


 これは……ほっといたらまずいのでは……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る