第51話 領主を隣国まで護衛する(マッハ到着)



 タコパした翌日。

 早朝。ログハウスの外で、朝ご飯を食べて、食後のコーヒーを飲んでいるときのことだ。


「…………」ぴょこっ。


 頭が葉っぱの眷属、木ノ葉丸。

 今、影武者としてデッドエンド領にいたはずだった。


「どうしたの?」


 彼にはスマホを貸し与えている。


 ぴこんっ♪


「【領主リシア殿から呼び出しでござる。拙者では対処できない案件ゆえ、姫にご出陣願いたいそうろう】」


 木ノ葉丸君が膝をついている。

 友達が困ってるっぽいので、まあ、助けてあげよう。


「わかった。じゃ、変装してデッドエンド領へと向かいますか」


 ということで、私は一人でデッドエンドへ向かおうとした……のだが。


「何一人で出かけようとしてるのよ、あんた」


 黄昏の竜のメンバー、エルメス・ヴラド・ツェペシュちゃんが近づいてきた。


「おはよ。早起きだね」

「おはよう。で、ミカ。あんた一人でどこいこうっていうの? こんな朝っぱらに」


 私は領主のリシアちゃんに呼び出されてることを告げる。


「護衛も付けずに出かけようとしたの……?」

「だって早朝だし、悪いかなって」

「ついてくわよ」

「そう? じゃ、よろしく」


 ということで、二人でデッドエンドへ向かいます。

 

「で、どうやって行くの? 歩き?」

「まさか。大転移グレーター・テレポーテーション


 一瞬で視界が切り替わる。

 デッドエンドの首都アベールから、ちょっと離れた場所へと転移した。


「よし」

「よし、じゃあないわよーー!」


 早朝の朝に、エルメスの声が響き渡る。


「何今の!?」

大転移グレーター・テレポーテーションだけど?」


「あのさ……それ、そうとうヤバいスキルなんですけど」


「ヤバい?」

「うん。そもそも転移の魔法、スキルっていうのが、この世界で数えるほどしか使えないの。で、その上位の大転移の使い手は、そもそもこの世界には存在しないから」


「そうなんだ。気をつけよ」


 エルメスがなんか凄く変な者を見る目を向けてきた。


「なんでそんなに、自分の力に無自覚というか、無関心なわけ?」

「まあ別に、力に興味ないし。私にとっては、全部便利な道具みたいなもんだし」


 全知全能インターネットも、ボックスもね。


 アベールへ向かう道すがら、領主との出会いから、冒険者ミカりん爆誕までのエピソードを語る。


「というわけで、目立ちたくないわけ」

「目立ちたくないって……無理でしょ」


「どうして? この姿の時は使う力をセーブするつもりだけど」

「…………………」


 え、なにその疑いのまなざし……。

 そんなこんなしてると、アベールの街に入った……わけだけど。


「なんか、家が立派になってない……?」


 前にこのアベールに来たときは、建物が全部ボロボロだった。

 そういえば、外壁なんてものも存在しなかった。


 でも今は立派な石造りの外壁に、民家が建ち並んでいる。


「どうなってんだろ?」

「なんであんたが事態を把握してないのよ……」


「こっちのことは木ノ葉丸君に任せっぱなしだったし」


 肩の上で木ノ葉丸君が胸を張っていた。

 私に仕事を任されたことが、誇らしいのだろう。


 ややあって。

 私が拠点としてる空き家に到着したわけだけど……。


「なにこの豪邸!?」


 空き家があった場所に、レンガ造りの立派な、二階建てのおうちができていたのだ。

 周りの建物と比べて完全に浮いてる。


「木ノ葉丸君? これはどういうことかな?」


 野菜眷属にも協力を要請し、建物を修復した。


 外壁も新しく作り直した。

 私の住む場所も一新した、とのこと。


「そこまで頼んだっけ……?」

「冒険者として依頼されたんじゃあないの? 家を直してとか、外壁の修復とかを」


 木ノ葉丸くんがコクコクとうなずいていた。


「もしかしてこの子、冒険者としてけっこー活躍していたの……? 君、優秀すぎないですか……?」

「…………」てれてれ。


 そういえば野菜眷属ちゃんでも、一匹で高ランク冒険者くらいの強さはあるって、前に聞いたっけ。

 しかも木ノ葉丸君は分身の術も使える。


 簡単なクエストはこの子が一人でこなしてくれていたわけか。ありがたい……


 しかしそんな優秀な木ノ葉丸君が、私を呼び出した。

 この子一人では対処できない厄介な事態が起きてるってことか。

 

 あんまり面倒なクエストじゃあないといいんだけど。


 ややあって。

 私の家(セカンドハウスと呼ぶことにした)に、リシアちゃんが尋ねてきた。


「朝早くに失礼します。火急の用事だったもので」

「かまわないよ」


 じーっ、とリシアちゃんが私……じゃなくて、隣に座ってるエルメスを見つめている。


「ミカりん様? そこの、マントに仮面の女性って……まさか……」


 あれ? エルメス仮面かぶってる? いつの間に。


「あ、黄昏の竜のエルメスちゃんです」

「やっぱり! どうして黄昏の竜のエルメス様が、こんなとこに!?」


 そういえば、黄昏の竜って、ゲータ・ニィガNo.1の冒険者パーティなんだっけ。


 あー……なんて説明しよう。

 まさか配下になったーとか言えないし。


「彼女とは友達なの」


 こうすれば、黄昏の竜を配下にしたんですか!? と驚かれずにすむってわけ。


「え!? ミカりん様、エルメス様と友達なんですかー!? す、すごい……!」


 ……あれ、友達ってだけで凄いって言われてしまった。


「長年ソロ活動をしてて、黄昏の竜以外のメンバーと一切心を開かないで有名な、エルメス様とお友達だなんてっ!」


 エルメスたちって、もしかしてこっちでアイドルみたいな感じに扱われてる……?


 あれ、アイドルと友達ってけっこー目立ってない私……?


「まあそれはおいといて。リシアちゃん、用事ってなぁに?」

「あ、はい。実は、ミカりん様に護衛の依頼をしたいのです」


「護衛……?」」

「はい、ワタシをマデューカス帝国にいる、OTK商会へと連れてってほしいのです」


~~~~~~

マデューカス帝国

→ゲータ・ニィガの隣にある国。

国土は狭く、歴史も浅いが、実力主義の国であり、優秀な人材がたくさんいる。魔道具技術が発達してる。

~~~~~~


~~~~~~

OTK商会

→マデューカス帝国において、No.1の実績を持つ大商会。

~~~~~~


「なんで隣国にリシアちゃんがいくの?」

「うちに商人が来るように、頼みにいきたいのです」


 曰く、デッドエンドは辺境の街&魔物がうろついてる&魔境が二つも近いせいで、商人がほとんど来てくれないんだそうだ。


 リシアちゃんはここに住む人たちの、食べ物や着るものを仕入れるため、各商業ギルドに打診の手紙を送っていたそうだ。


 で、その中の一つ、OTK商会が話を聞いてやってもいいと返事がきたので、会いに行く……とのこと。


「マデューカスまでは遠いですし、【恐怖山脈】を越えないといけないので……」

「きょーふさんみゃく?」


「デッドエンドの隣にある、魔物がうろつく危険な山のことです」


 おや、それってもしかして……。


~~~~~~

恐怖山脈

→ミカの住んでいる蒼銀竜山の別称。

地元の人たちから、入ったら二度と戻れない恐怖の山と恐れられてる

~~~~~~


 私そこに住んでるんですけど……?


「そんなに怖いところかな……?」

「ミカりん様のような、勇猛果敢な冒険者さまからすれば、怖くはないところでしょう。けど……レベルの低いワタシたちにとっては恐ろしい場所なのです」


 つまり遠出&やばいところを通って帝国に行くから、冒険者ミカりんに護衛を依頼したいわけだ。


「OK」

「ありがとうございますっ。なんとお礼をいったらよいか……!」


「お代は原油で支払いよろしく」

「はいっ!」


 私たちはセカンドハウスの外に出る。


「それでは、一度戻って旅支度をしてまいります」

「え、ぱっといってサッ帰って来ればいいでしょう?」


 ちょんちょん、とエルメスが私の肩を指で突く。


「マデューカスまでどれだけ離れてると思ってるのよ。馬車で10日よ?」


 隣国なのに?

 大転移グレーター・テレポーテーション……は、使えないな。


 さっきエルメスにその力は目立つって教えて貰ったばっかりかだし。


「なら、【同行飛翔フライング・アカンパニー】」


 ふわり、とリシアちゃん、そしてエルメスの体が浮く。


「いっきまーす」

「ちょ、ミカりん様!? ええええええええええ!?」


 私はリシアちゃんたちを連れて、マデューカス帝国とやらへ向かって飛ぶ。

 同行飛翔フライング・アカンパニーは仲間を連れて空を飛ぶ魔法だ。


 ぎゅぅううん! と凄い速度で景色が流れていく。

 全知全能インターネットでマデューカスの場所はわかってるので、迷うことはない。


 一時間くらいで、マデューカス帝国の帝都カーターの近くまで到着した。


「ぜえ……はあ……すごすぎます……」

「え? なにが?」


同行飛翔フライング・アカンパニーなんて、失われた古代魔法じゃあないですかっ」


 古代魔法……?


大転移グレーター・テレポーテーションと同じ分類の魔法よ!」

「え、これもなの?」


 目立たないような魔法を選んだのに……?


「エルメス様と友達だし、古代魔法が使えるし……ミカりん様って……ほんと何者なんですか……?」


「た、ただのしがない冒険者よ」

「どこの世界に古代魔法を使いこなす冒険者がいるっていうのよ……」

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