第40話 なまいき赤ちゃん青龍をしつける



 ととのった後、露天風呂にて。

 私は改めて、青龍&玄武ちゃんたちを見やる。


 まずは青龍ちゃんから。

 長さは普通の蛇くらい。


 青い鱗で体が覆われてる。

 あんまりドラゴンって感じしない、本当に蛇って感じ。


 続いて全知全能インターネットでレベルを検索っと。


~~~~~~

名前未設定

【種族】青龍(幼体)

【レベル】900

~~~~~~


 確か、朱雀すざく、白虎の生まれたばかりのレベルは150だった。


 朱羽あかはねたちの6倍のレベル。

 しかも、名前持ちネームドではないのに。


「竜は魔物の中でもトップクラスに強いからの」


 と長生きで物知りなふぶきが教えてくれる。なるほど。


 続いて玄武ちゃん。


 黒い甲羅を持ったカメ、という外見だ。

 お尻からは蛇が生えてる。


~~~~~~

■■■■■

【種族】玄武(幼体)

【レベル】1

~~~~~~


 レベル……1?

 しかも名前が伏せ字になっている。

 情報が隠蔽されてる?


「かめぇ~?」


 つぶらな瞳で玄武ちゃんが私を見てくる。う、可愛い。


 ま、何にせよ、仲間が増えたことには変わりない。


「よろしくね、青龍ちゃん、玄武ちゃん」


 私は青龍の頭を撫でようとする。


「しゃー!」


 青龍ちゃんが威嚇してくる。

 どうしたんだろうか。


「わしの出番じゃな。おお、よしよし。怖くないぞぉ~」


 ふぶきがしゃがみ込んで、青龍ちゃんを鎮めようとする。


 バチバチ……!


「しゃー!」


 バリバリバリバリ! と青龍ちゃんの全身から青い稲妻が発生する。

 それはふぶきの体に直撃した。


「アベバババババババババ!」

「ふぶきっ」


 稲妻が直撃したことで、ふぶきがその場にぐったりと倒れてしまう。

 ふぶきもけっこーレベル高い(レベル900)。


 でも青龍ちゃんも同じくらいレベルがある(900)なので、ダメージが入ったようだ。


「大丈夫、平気?」

「だいじょうぶ、じゃ……」


 ふぶきはまだしびれている様子だ。

 もちろん、死ぬほどの痛みではないだろうけど。


 でも、友達が怪我したら凄く心配してしまう。


「なんで攻撃したの?」


 青龍ちゃんはフンッ、と鼻を鳴らしそっぽを向く。


「わし、完全に、舐められておるな」


 生意気。まあ子どもだからしょうがないだろうけど。


「私と駄女神にも舐めてるの?」

「じゃろうな。神は神プロテクトのせいで、他者から強さがわかりにくくなっておるし」


 椅子の上でぐーすかと寝ている駄女神を見ると、プロテクトがなくても、舐められる気がするけどね……。


「ちょっとこのまま、皆の前に出すのは怖いかな」


 青龍ちゃんはレベル900。

 ふぇる太たち、そして朱羽あかはねたちよりレベルが高い。


「仕方ないな。ちょっと……しつけしないとね」


 暴力って私嫌いだし、あくまで上下関係をきちんと教えるだけだ。

 

「いきなり雷を食らわせるなんてね、駄目でしょう?」


「きゅいぃ!?」


 ダメ出しされてむかついたのか、青龍ちゃんの体から稲妻が発生。


 バリバリバリバリッ……!


 青龍ちゃんが私に向かって、必殺の雷を食らわせてくる。

 

「きゅきゅん」

「効かないよ」

「きゅぅ!?」


 私のレベルは∞だ。

 レベル900ごときの攻撃では、私の体に傷一つ付けられないのである。


 私は青龍ちゃんの前にしゃがみ込む。


「皆で仲良くしないと。めっ」


 ちょんっ、と私は青龍ちゃんの頭を突く。

 そんな私の態度に腹が立ったのだろうか、ぷるぷると体を震わせる。


「きゅぅう~~~~~~~~~~~~~!」


 青龍ちゃんの体が青白く発光する。

 でも稲妻が出ているようには思えない。


「あ、主よ! 空が!」


 ふぶきが頭上を指さす。

 いつの間にか、雷雲に覆われていた。


 私は直感的に、ヤバいと思った。

 さっきまで晴れていたのに、急に天候が変わるだなんて。


 ゴロゴロゴロ……と空から音が聞こえてくる。


「な、何が起きようとしてるのじゃあ……!?」


 かっ……!

 と空が光ると、頭上から青い雷の竜が降りてきた。


 ふぶきは完全に動けないで居る。

 私は皆を連れ、大転移グレーター・テレポーテーションで逃げようとしたそのときだ。


「ミカちゃん危ない、伏せて!」


 ぴょんっ、と玄武ちゃんがジャンプする。


 瞬間、半透明のガラスのドームが出現する。

 バチィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 半透明のドームにぶつかり、青い雷の竜は霧散する。


~~~~~~

・玄武の結界

→万物を拒絶する盾。

~~~~~~


~~~~~~

・晴天霹靂

→青龍の攻撃スキル。雷雲を呼び、破壊の雷を光速で相手に当てる。生物なら即死させられる。

~~~~~~


 ……青龍ちゃんが私たちを攻撃して、玄武ちゃんがそれを防いでくれたようだ。


「ありがとうね、玄武ちゃん」


 肩の上に載ってる玄武ちゃんの頭を、撫でる。

 この子の結界が無かったら、ふぶきは死んでいただろう。


 聖灰があれば蘇生は可能だけど……でも……。

 これは、ちゃんと叱っておかないとね。


 大事故になるその前に。


「こら! 駄目でしょう?」


 青龍ちゃんが再びさっきの青天霹靂を放とうとする。


「かめ……!」

「大丈夫だよ、玄武ちゃん」


 空が雷雲で覆われていく。

 私は手を空に向ける。


「【天候操作コントロール・ウェザー】」


 超位魔法を発動した瞬間、雷雲が一気に晴れる。


「きゅぅう!?」


 青天霹靂は雷雲を呼んで相手に攻撃を与える。

 なら、その雷雲を魔法で消してやれば、攻撃はできない。


「きゅ……きゅう……」


 ぷるぷるぷる、と青龍ちゃんがふるえている。


「どうやら、完全に主の強さを理解したようじゃのう」


 青龍ちゃんご自慢の必殺技を真正面から打ち破られたのだから、そりゃ自信もなくすだろうね。


「次また誰かに、暴力を振るったときは……わかってるね?」


「ぴ、ぴ、ぴ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 青龍ちゃんが大泣きしだした。

 しまった……脅しすぎちゃったか。


「む? なんじゃ……どわぁ!」


 晴れていたはずの空が雲で覆われ、そして大雨が降り出した。


「これもスキル?」

「いや、青龍が泣いたからじゃろう。そういう伝承があるのじゃ」


 なるほど……感情の変化が天候に影響を及ぼすなんて、本当に強い神獣のようだ。


「ぴ~~~~~~~~~~~~~!」


 ちょっとお灸を据えるつもりが、存外効き過ぎてしまったようだ。

 そんなに怖い、私……?


 ……ん? 怖い……?


 ああ、そうか。


 私は遅まきながら、この子の心を理解した。

 抱っこしてあげ、頭をよしよしする。


「君が雷で攻撃したのは、怖かったからなのね」

「どういうことじゃ?」


「虚勢を張ってたのよ。いきなり目の前に、強そうな魔物とか、得体の知らない神とかがいて、怖かったのね」


「なるほど……自分の身を守るために、攻撃したのじゃな」


 無差別に攻撃するような、悪い子じゃなくて良かった。

 でも、だ。


「だからといって、暴力は良くないよ」

「きゅぃ……」


 こくん、と青龍ちゃんがうなずいた。

 うん、やっぱり良い子。


「私がいるから。君も、皆も守ってあげるから。だから……もう暴力は駄目」

「きゅい」


 どうやら理解してくれたようだ。

 でもまだ空は曇ったまま。


「そうだ、美味しいものあるよ。食べる?」

「きゅい?」


 私は温泉の湯船から、ざば……とそれを取り出す。

 網に入った、黒いからの卵だ。


「なんじゃ、この黒い卵?」

「温泉卵よ」

「おんせんたまご……?」


 ふぶきも見たことないようだ。

 彼女に殻を割って、むいてもらう。


「はい、青龍ちゃん。美味しいよ」


 青龍ちゃんに温玉を近づける。

 ちゅる……と吸い込むと、目をむく。


「きゅぃ~~~~~~!」


 青龍ちゃんがうれしそうに鳴く。


「おいしい?」

「きゅっ!」


 良かった気に入ってくれたようだ。

 もう一個食べさせる。


「ふぶきも玄武ちゃんも食べる?」

「うむ……ちゅるっ。う!? 美味いのじゃ!」


 ふぶきが目をむいて、尻尾をぶんぶんと振る。


「うひょっぉお! おいしいですねえ、この温玉~!」

「駄女神……」


 いつの間にか駄女神が起きていた。


「あ、ども美香神さま! おはようです!」

「あんたねえ……」


 ……こんなに騒いでたのに寝てるなんて。たいした神だよ、この子。

 温泉卵を皆で食べる。


 青龍ちゃんはすっかり上機嫌になっていた。くもっていたすらも、晴れ渡っている。


 よし、これで大丈夫そう。

 

「じゃあ君に名前を付けてあげよう」


 嵐のような気性の荒さから……


青嵐せいらん。君は、青嵐せいはんだ」

「きゅ!」


 ぱぁ……! と青嵐の体が光り輝く。

 彼女の頭にたてがみが生え、そしておひげが生えた。


 さっきまで青い蛇っぽかったのに、一気に龍っぽくなった。

 ふわ……と青嵐が中を浮く。


「おお、飛べるようになったのね」

「きゅい!」


 青嵐が私の腕にくるくると巻き付く。 

 そして頬ずりしてきた。可愛い。


「じゃ、玄武ちゃんにも名前をつけてあげないとね」

「ええ、お願いね」


 どういう名前にしようか……って、うん?


「え? 玄武ちゃん? しゃべらなかった?」

「え? あ、か、かめぇ~♡」

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