第30話 赤ちゃん神獣の暴走を止める


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朱雀すざく(幼体)(SSS+)

→伝説の神獣、朱雀すざくの幼児。

 火を司る神だが、生まれたばかりのため上手く火をコントロールできない。

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 本当に朱雀すざくのようだ。


「ぴー? ぴ~?」


 一見すると、赤い羽毛の、ひよこに見える。

 つぶらな瞳、小さなくちばし。

 サイズも、羽毛の感じもひよこそのもの。


「あれ、孵化までに1000年とかかかるんじゃあなかったっけ?」


 こんなときは全知全能インターネット


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朱雀すざくの孵化が早まった理由

→現人神・長野 美香の放つ神気しんき(神の魔力)があまりに強大だったから

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「つまり……ミカさまのお力が常識を外れに強大だったがゆえに、早く生まれたと! さすがミカさま!」


 フェルマァがぶんぶんぶん! と尻尾を振るっている。


「おお、なんともかわいいのぅ」


 ふぶきが朱雀すざくの赤ちゃんに近づこうとする。

 ぎょっ、と朱雀すざくが目をむいた。


 じわり……と目に涙を浮かべる。

 ばちっ……!


 朱雀すざくの周囲に、火花が散る。

 バチッ! バチチチチッ……!


 ……猛烈に嫌な予感がした。


「ぴぃいいいいいいいいい!」


 朱雀すざくの体が真っ赤に輝く。

 私は直感的に、危機を察知し、半ば反射にスキルを使用する。


「【時間停止】!」


 瞬間、世界から色と音が消える。

 神になって手に入れた、時間を止めるスキルだ。


 私は朱雀すざくちゃんを見て、絶句する。

 朱雀すざくの周囲に、炎があふれ出ていたのだ。


全知全能インターネットに、上手く炎を制御できないって書いてあったけど……まさか……暴走?」


 だがまずは皆の安全確保が優先だ。


 私は時を五秒しか止められないのだから。


「【大転移グレーター・テレポーテーション】!」


 これまた神になった際に手に入れた、スキルで、私はフェルマァたちを連れて、ログハウスから移動。


 やってきたのは家の近くの湖だ。

 朱雀すざくちゃんは湖の上空、私達は湖畔に上陸。


 時が、動き出す。

 その瞬間、ドガァアアアアアアン! という凄まじい爆音とともに炎が広がる。


 ……ぺたん、と私は尻餅をつく。


「まさか……湖の水が一瞬で干上がるなんて……」


 湖の跡地には、何も残っていない。 

 たしかここは王魚という高レベルモンスターが住んでいたはず。


 だが、湖の水も、そして王魚や魚たちの、骨の1本も残っていない。

 それほどまでに……朱雀すざくの炎は強力だった。


「な、何が起きたのですか!?」


 フェルマァが子フェンリルを抱っこした状態で、首を左右に振る。

 ふぶきがいち早く状況を理解する。


「あの朱雀すざくが炎を暴走させたのか。で、主がなんとかしたと」


「まあ、そんなとこ」


 子フェンリルちゃんたちも含め、全員無事のようだ。

 ふぅ……良かった……。


「ぴぃ~~~~~~~~~~~!」


 朱雀すざくちゃんは湖の中心で泣きわめいてる。

 ゴォオオオオ! と炎が周囲に広がろうとする。


「いかん! フェルマァ!」

「ええ! 魔法で炎を食い止めます!」


 ふぶきは蒼銀竜ブリザード・ドラゴンへと変化。

 フェルマァはフェンリルの姿となって、氷の魔法を朱雀すざくちゃんかける。


 巨大な氷の結界を作り出す。

 だが……ぶしゅぅううううう! と激しい水蒸気を発生させる。


「なんてパワーじゃ! 伝説級の魔物が、二人がかりで、しかも全力だしても、1分も持ちそうにないのじゃ!」


『ミカさま! 今のうちに子供達と一緒に逃げてください!』


 フェルマァがそう叫ぶ。必死なのが伝わってくる。

 でも……逃げれない。


「ぴぃー! ぴぃーーーー! ぴぃーーーーーーーーー!」


 朱雀すざくの赤ちゃんが、泣いてる。そう、悲しいと泣いてるのだ。


 泣いてる赤ちゃんを放置してはいけない。

 それに……このまま暴走を止めなければ、フェルマァたちが死んでしまう。


 そんなの……駄目に決まってる。


「フェルマァたちはそのまま魔法で、炎が広がるのを防いで」

「主はどうするのじゃ!?」


「赤ちゃんを、泣き止ませる!」


 私は転移スキルで炎の中心へと移動。

 ゴオォオ! と激しい炎が私に襲いかかる。

『駄目です! ミカさま! 焼け死んでしまいます!』


 普通の体なら、ね。


「だいじょーぶ! 私は生きてるよー!」


 外にいるフェルマァたちに聞こえるように、声を張り上げる。


『よかったぁ! ミカさまぁ……!』

『なるほど、不老不死スキルの効果じゃな!』


 私には神になったときに不老不死のスキルが発現したのだ。

 外部からの攻撃を受けても私は一切死ぬことはない。


 それゆえに、こんな猛火のなかでも、私は生きていられるのだ。

 まあ、普通にちょっと熱い……いや、だいぶ熱いけど。


 あとなんでか服が燃えない。

 神パワー的なものが出てるのかな?


 二人が長く持たないことは、なんとなく理解してる。

 私は急いで炎の中心部へと向かう。


「ぴーーー! ぴーーーー!」


 空中で朱雀すざくちゃんが丸くなって泣いている。


 私は炎に近づく。

 さらに暑さが酷くなる。でも……そんなの気にならない。


 私は炎を出し続ける朱雀すざくちゃんのことを、ふわり……と抱きしめる。


「よしよし、もう大丈夫」


 そう……この子は、怖がっていたのだ。


「心細かったんだよね?」


 この子をうんだ母親は今この場に居ない。

 目が覚めてすぐ知らない場所、そのうえ……知らない人たちがいて、怖くなったのだ。

 

「一人は怖いよね。でも、大丈夫だよ。私がいるよ」

「ぴー……」


 朱雀すざくが泣くのを辞める。

 良かった……。


『暴走が止まったのでしょうかっ?』

『いや、気を抜くなフェルマァ。炎の勢いが少し弱まっただけじゃ』


『そんな! ミカさまが朱雀すざくをあやすことに成功したのにっ!』

『まだ幼くて、己の炎を上手くコントロールできないのじゃ』


 出した炎をどう引っ込めれば良いのか、その方法がわからないのだろう。

 無理もない、生まれたてだもの。


『じゃあ、いったいどうすれば炎は止まるのですかっ?』

『コントロール技術を身につけるしかない』

『そんなの一朝一夕で身につくわけが内じゃあないですか!』


 ……そんなことは、ない。


 私はポケットからスマホを取り出す。

 あっつぅ!


 けど、溶けてない。すごいなスマホ。服もそうだけど、もしかして私の周囲にはバリア的な物が出てるの……?


 いや、考えるのは後。


「大丈夫、私に任せて」


 ぽちっ、とボタンを押す。

 瞬間……ぱああっ! と朱雀すざくの赤ちゃんの体が黄金に輝く。


『なんて強い光!』

『この光は、まさか……!』


 ぱっ……! と炎が一瞬にして消える。

 私は干上がった湖の中心部に座り込んでいた。


「よ、かったぁ……暴走、止まったぁ……」


 ふぅう……と大きく息をつく。

 あー、熱かった。私はダウンジャケットを脱ぐ。あちち。


『ミカさま~~~~~~~~~~~~~!』


 フェルマァが、子フェンリルたちとともに、私の元へと駆け寄ってくる。

 抱きついて、べろべろ、と舌で舐めてくる。


『とっても心配しましたぁ!』

「みー!」「みゅ~」「…………!」


 フェンリル達は一斉にベロベロしてくる。 

「ありがとう。心配かけてごめんね」


 よしよし、とフェルマァと子供達の頭を撫でる。


 人間姿になったふぶきも近づいてきた。


「どんな魔法を使ったのじゃ? 朱雀すざくの暴走を、一瞬で止めてしまうなんて」

「簡単だよ。この子に……名前を付けてあげたの」


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朱羽あかはね

【種族】朱雀すざく(子供)

【レベル】150

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「《眷属になろう》で名前を付けたことで、朱雀すざくの赤子を存在進化させたのじゃな!」


 この子は赤ちゃんだったから、コントロール技術が未熟だった。


 だったら進化させ、レベルを上げ、技術を上げれば暴走は止まるかなと思ったのだ。


「ほら、朱羽あかはねちゃん。新しい仲間だよ」


 私はふぇる太たちに、朱羽をつかづける。

 朱羽はびくっ、と体をこわばらせる。


 一方で、ふぇる太たちは、あんな騒ぎがあったというのに……。


「みー!」「みゅーみゅー!」


 ぺろっ、と二匹が朱羽の顔を舐める。

 朱羽はうれしそうに「ぴぃい~~~~!」と鳴いて、ふぇる太たちに頬ずりする。


 お返しに舐めるふぇる太たち、そして頬ずりする朱羽。うん、もう仲良しになったようだ。


「子供は凄いね、すぐ友達作っちゃうんだから」

『そうですね』


 フェルマァが穏やかな表情で朱羽を見ている。


「なんじゃフェルマァおぬし、やけに朱羽あかはねに優しげな目を向けるじゃあないか」


 ふぶきが首をかしげながら言う。


「いつもなら、敬愛するミカさまを傷つけた不届き者! 万死に値する! みたいな感じで行くのかと思ったんじゃが」


『しませんよ。相手は生まれたばかりの赤ちゃんじゃあないですか』


 さすが、お母さん。赤ちゃんへの理解があってたすかる。


 腕の中で、ふぇる太たちとじゃれていた朱羽が、私を見やる。


「ようこそ、我が家へ。歓迎するよ」


 こうして、新たに朱雀すざくの朱羽が、仲間に加わったのだった。

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