透き通った翡翠の風は、ミントゼリーの噛みごこち〜共感覚者の随筆

かなえ

第1話 三峯神社〜翡翠の風①

1.集合場所までがまず冒険


 前々から興味のあった三峯神社。

 行くと人生変わるらしい。ものすごい御利益があるらしい。それより行きにくそうな秘境感が魅力的だ。行ってみたい。どんな匂いのする空気なんだろう。どんな踏み心地の音がするんだろう。だけど人を誘うにはハードル高いし、個人で行くにも迷子の達人の私にはハードル高い。と、悶々としていたところ、三峯神社に行くバスツアーを発見。しかも参加はおひとり様限定というツアーだ。これは迷子にならないし、車窓からの眺めにも集中できるぞ。と、飛びついた。


 予約してからは体調管理にいつも以上に注意した。とにかく私は発熱しやすい。しかも高熱になりやすい。そして高熱が出ると大きな注連縄しめなわを抱える感覚になる。これは子どもの頃からで、何故自分が大きな注連縄を抱えるのかわけがわからないけど、とにかく高熱を出すと注連縄を抱える私だ。そしてそれはとても不快な感覚。掴みどころがないし、重い。

 そんなわけで健康に留意しつつ、沢山写真も撮りたいからデジカメを買うことにした。

 毎回出先でスマホで写真を撮りすぎ、電池切れになってしまう。連絡が取れなくなって心配される。そろそろ学べ、私。ということで今回はデジカメを買うことにした。名案だ。

 ところがこれが大変。全然手頃なデジカメが売ってないのだ。

 目星をつけたのはキャノン。しかし、それはどこに行っても在庫がなく、数ヶ月待ちだという。仕方なくランクを下げた感じのデジカメでと思ったらそれも品切れ。どゆこと?今はデジカメって品薄が当たり前なんだそうな。で、在庫があるのは水中対応とか特別仕様の予算オーバーな物しかないって。デジカメは諦めました。今回はバスツアーだからバスから充電できるよね?それに期待します。

 と、思いながらもダメ元で入った電気屋さん。目が合った店員さんに「このキャノンのデジカメありますか?」と聞いてみた。案の定「あぁ…これは在庫ないんですよね…数ヶ月待ちなんです。でもちょっとお待ちください」と。少しすると店員さんが戻ってきました。手には箱が。もしや?

 「ご希望の色はないんですけど、この色でしたら何故かわからないんですけど一点だけポッと入荷してきて…」

 欲しかったキャノン!色は黒。良いじゃん良いじゃん!かっこいいじゃない。私に会いに来たの?みたいな感じになって「ください!」即買いです。これがツアー前日。お導きみたいに感じちゃっても良いでしょう?あ、即買いでしたけど、値段はご相談くださいって書いてあったから相談しました。お安くなりました。ありがとうございました。


 デジカメ買って帰宅。デジカメを触る。すべすべした感じが、薄手のビニール袋を膨らました表面みたいなソフトな手触りでいつまでも撫でていられる。伝わるかな?とにかく心地いいんですよ。優しい手触りなのに黒くてかっこいい私のデジカメ。

 ちなみに私の中で「デジカメ」と言う文字は黒みがかった赤です。しかも頭の中での文字配列は「カメデジ」。私の中ではこの配列がしっくりきます。読む時はちゃんと「デジカメ」になります。不思議だよね。こういうことが全然不思議に思ってなかったのも不思議だよね。

 それにしてもかっこいいデジカメ。名前つけちゃおうかな。とか思いつつデジカメを充電している間に天気予報確認。雨の予報だったのが曇りに変わってた。幸先良いぞ。ヤッホー。


 当日。集合は新宿のホテル周辺の駐車場。ツアー会社からの資料には駅から集合場所まで徒歩7分て書いてあるけど、私は迷子の達人だから集合時間の1時間前には新宿に着くように家を出た。

 時間通りに新宿到着。だがしかし。まず到着ホームで真逆に歩く。端まで行って逆だとわかる。おかしいな、文字版見たんだけどな。タイムロス。それから西口出てから床のタイルを見て懐かしむ。子どもの頃新宿に住んでいて、この西口のタイルを踏みながらクルクル歩くのが好きだった。とか思って歩いて、ホテルと反対の道を行く。すぐに気づいてホテル方向に向かう…ホテルは都庁の隣のはず。なのに。なんでないの?都庁に着いたのに何でホテルないの?

 こんな時、スマホの地図アプリが役に立つ。とは限らないのよ。アプリ様が言うの「北に向かってください」。だから北ってどっちよ。この丸からでてる放射状の物は進行方向なの?スマホ使いこなせない。とりあえずここを通り抜けてみよう。と思ったらそこが集合場所でした。駅から40分かかりました。間に合ったから問題なし。

 

 ここで少し補足。

 私は共感覚者だ。文字に色がついて見えたり、音が食感になったりするアレです。

 小さな子は嬉しいとピョンと跳ねたりする。可愛い。大人の私も嬉しいと踵を上げ下げするらしい。「そんな嬉しい?跳ねてるよww」とか言われる。無自覚で怖い。その調子で、私は頭の中で言語化するより感覚的に動いたり感じたりすることが多い。だから特定の名称を聞くとテンション上がってニヤニヤしたり、噛み心地がしたり、色が見えたり、触った気がしたりする。

 誰もがそうなんだと思っていたので、とわかった時の衝撃は大きかった。

 どうりであの表現の数々が伝わらなかったはずだ!と、なった。

 共感覚の仕組みはよくわからない。頭の中の何かがどうにかなっているらしい。別にわからなくても良い。ずっとこれできたので。違和感ないので。

 そして今この時、私は踵の上げ下げを我慢していた。大人だからね。

 いざ、出発!


 バスの旅は快適。適温だしパーソナルスペース確保できるし電源あるし!あったよコンセント!うわーい。しかも今回バスガイドさんの話が土地の知識満載で面白い。通りすがりの土地の話も沢山してくれて勉強になる。社会科の授業はバス移動の中でするのが良いよ。とか思ってひたすら楽しむ。デジカメもパシャパシャ撮る。

 道中色々あったけど割愛。

 いよいよ三峯神社に近くなってきた山道に曼珠沙華が群生していた。バスガイドさんも「今日、無料でこんなに曼珠沙華を見られるとは」と話していたので例年より少し早いのかな?とにかく美しい群生。緑の草地に朱色の曼珠沙華が映える。バスの速さと共に朱色が流れていく、で、同時に頭の中では「3,3,3,3…」と数字が浮かぶ。この景色が私には「3」という数字になる。何故だかはわからない。同じ道にススキの群生もある。それは「5,5,5…」。素数がいっぱいの景色でした。


 そしていよいよ三峯神社に到着しました。

 曇り空が急に晴れたよ。バスを降りるよ。ワクワクしてるよ!

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