⑬ 花火と火花
しゃりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりぃぃぃん。
真っ白な爆音は
「少女おぉーっ!・・・っく!・・・なん・・・・ち、ち、ちくしょおおおおおおおおおおおおおっ!」
放たれた矢に反らされながらも
「こ、れまでですね。引き揚げましょうか。」
ヒトを呑み込み、地階に大きな空を描き出す。
「アヒオさあぁぁああーんっ! リドミコおぉぉっ!」
その大爆撃に引き摺り上げられていたキぺがニポを振り切ろうと足掻く。
「お兄さまあぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・・
い、いやあぁぁぁっ!」
地上からでは見えない分だけ、見えていない分だけ塔を吹き飛ばした閃光と轟く怒声は残酷に響いただろう。
駆け下りることもできないシクロロンはただ、震えて地べたに座るだけだった。
「くくく、はははは、はーっはっはっ! これで終わりだぁっ!」
矢に貫かれた右手の先に広がる空には、
「ははは・・・」
気持ちがいいほど、何もなかった。
「はは・・・これで、終わりなのだ・・・」
明るすぎた陽光に落とされた、
「これで、」
地下の影はあまりに黒い。
「正義なのだろうか・・・」
ガラガラと崩れゆく半壊の塔も、
「なぁ・・・わたしは、」
まもなく倒れてここを埋めるのだろう。
「・・・何ができたのだろう。」
痛みも恐れも、
「なぁ・・・」
もうその老人に何も感じさせてはくれなかった。
「もう・・・」
気付けば腹にも一矢、
「いいだろうか・・・」
血に染まって震えている。
「いま、行くぞ・・・」
あと一歩踏み出せば、
「なぁ・・・」
そこにある、抜けた天井よりのあたたかな光を浴びられる。
「・・・リウフ。」
しかし照らされる時を待つことなく、
「リウフ・・・」
抜けた天井は男に降る。
「ウルア様、ロウツとこの娘はいかがいたしましょう。」
立ち尽くすロウツを横目に、衝撃波で投げ飛ばされたリドミコをつまんで兵の一人が持ってくる。
〔らせるべあむ〕が直撃したタチバミやアヒオの周りにはその残骸すら見当たらなかった。
「・・・ふん、もう用済みですよ。まったく、役立たずでしたね。
さ、我々も急いで出ましょう。」
ぺっ、とぐったりする少女の顔に唾を吐きかけ、老執官史は足早に奥の通路へと向かう。
「とんだムダ足じゃねーかっ! 死ぬんだったらさっさと死んどけクソガキがっ!」
もはや利用価値の失われた少女をどさりと打ち捨てると、不満と怒りに染められた兵たちは次々に蹴り飛ばして瓦解する地下を走り出した。
「おーい、ちょっと手を貸してくれー。巻き添えを食っ・・・な、なんだおま――――」
そんな砕け散る音の中に
確かに一つ
ぐちゃりと水の音が鳴る。
「ん、どうしました?」
出口へ急ぐウルアにも途切れた兵の声とこだまする静寂が聞こえた。
「いえ、崩れた瓦礫に足を取られただけでしょう。執官史は早ふっ・・・・・」
ばちゃばちゃばちゃ、と明らかに異質な音がこぼれ
そして
声が聞こえる。
「・・・・・チニ、・・・・ケ。」
それはまるで、呪文のように耳に残る。
「なんっ?・・・なん・・・おま・・・」
そこへ音もなく現れた男は何事かを呟きながら左手で赤く白い塊をべちゃりと放る。
「・・・ふん。上が騒がしいのでボクは行かせてもらうぞっ!
ボクは逃げる! そして、守るっ!
・・・じゃあな。アヒオ。」
まるで強く陽に灼かれたように浅黒くなったハクはそれだけを残し、下りてこようとするキぺを抑えに入口へと駆けていった。
「そん・・・いや、みなさんここは任せましたよっ!」
他方、絶命したかに思えた男はウルアの逃げるを咎めるでもなく、兵たちの靴跡に顔を汚されたユクジモ少女の頬を拭ってやる。
「し、死に損ないがっ!」
生き残った三人の兵は大声を張り上げて男に刃を振りかぶる。
「・・・・・チニ、・・・トケ。」
不気味に響くその言葉に否応なく耳が囚われると
「あふっ・・・はぁあ?・・あがっ・・・」
突き上げられた短刀に兵の脇腹は割かれ
「ぅあぁ、あぁあ、・・ふぁがはっ・・・」
容赦なくその傷口にねじ込まれた赤く黒い左手にハラワタが引き摺り出される。
そこにあるのはぬちゃりと粘る水の立てるわずかな音と、血の赤を纏う影の色。
「・・・ルウチニ・・・トケ。」
失血より早く失神した兵の内臓を、その男は立ちすくむ兵の顔へ投げつける。
「うがっ・・・・」
「ふぁっ・・・く、こ、目がっ、お、目がぁっ!」
その難を逃れたもうひとりは戦慄に震える体を持ち直して黒い男に目を凝らす。
すると影色の男の純白の短刀がこちらへ、しかし眼で追える稚拙な弧を描いてやってくる。
「き、・・なん・・くそっ!」
あまりに闇によく目立つその光の短刀は、だからこそ兵の目を釘付けにして離さない。
「ふく、ぐそ、くそくそくそくそくそくそくそっ!」
男の左手がどこにあるのか、足はどう動いているのか、わからない。
その目を奪って離さない。
「・・エルウチニ、・・ットケ。」
そして黒から生まれた左手が兵の顔を覆う。
「あぐぁ・・あぁっ!」
盗まれた視界の中で兵は首を斬られ
「あふぁっ・・ぐ・・ぉあ。」
その切り口に突っ込まれた左手に首の骨が肉ごと毟り取られる。
そして、ぶちゃ、と血しぶきが地を鳴らす音と捨てられた骨の音に、
「たの・・たす、け・・・」
ハラワタで目を塞がれた兵は成す術もない。
「やめ・・・」
ようやく開けた目に映ったのは、広がる赤と音をやめた仲間。
「よせ・・・来るなあぁぁぁっ!」
色は黒。
音は黙。
心を壊した兵にはもう、自分を殺す男の姿は見えなかった。
「こ・・・やめ・・・はがぁっ・・・」
がつんと首が掴まれると同時に両脇の下に冷たい痛みが走る。
男はそのまま筋も腱も割かれた兵の口に短刀を差し込み、頬を笑ったように裂いてみせる。
「あぷぁ・・あふぁ・・ふぁ。」
とめどなく溢れるその血を口の中に溜めさせ
「ワラエルウチニ、ワラットケ。」
手持ちのすべての赤沙を流し込む。
「あがぁあはっ・・ぁ・・・」
大量の「水」を得た赤沙は発熱し
「あああああ・・・」
空気を取り込み赤熱し
「ああああ・・・」
燃える。
「あああ・・・」
燃える。
「あ、あ・・・」
燃やし尽くす。
「・・・。」
そして崩落する音と砂煙の中、顔の燃えた兵をどちゃりと捨て
「・・・リ、ド。」
男は歩く。
「・・・リド。」
撒き散らした血をひとつも浴びずに横たわる、小さな小さな少女の元へ。
「・・・からだ、冷やし、ちまうよ。」
膝を折り、大きなマントを脱いでくるむ。
「リド・・・いっしょ、だからな。」
邪魔になる頬の矢にも構わず、いつものように男は眠る少女を抱きしめる。
「・・・ずっと、いっしょ、だからな。・・・リド。」
そしていつものように目を瞑る男にも
分け隔てなく崩れた塔の冷たい岩が降り積もる。
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