男子と女子
「星が、綺麗だな……」
こじつけウォークラリーを終え、現在夜の二十時。松葉杖と一緒に自室の窓から見る夜空は、そんな一言が出るのも仕方ないほど良い景色だ。昼間の記憶に生い茂る木を、引っこ抜きたくなるくらいに。
「はぁ〜……」
乙女のため息が後ろから飛んでくる。分かるぞ、言い表せない程にって奴だよな。天草先輩の見えない表情とか、隠せない優しさとか、マジで言葉にならないくらい魅力的なんだよ。
簡単に好きって自己解釈したり、出会いの特別感に浸ってる辺り、一目惚れってやつかもしれない。
「野外放尿とか、もうお嫁にいけないよ……」
俺の純情を汚しやがったな。これは言葉にするべきだ、今すぐに。
「いけないな、かわいそうに」
「ここ笑う所だよ!」
「あっはっは」
笑い所はどこか探すように棒で読んでやった。ていうか昨日に引き続き、パジャマのミホは俺の部屋に上がり込んでベッドを独占してやがる。
「なんでまた、ここに来てんだよ」
「話したいからだけど、何が悪いの?」
「安易に男の部屋へ行くのは、警戒心なさすぎだろ」
「きーちゃんはそういう事しないって、信頼してるんだけどなぁ」
ミホは問題無さそうに言う。最初こそ、お嬢様で分かってなさそうだから警告してやってたが、ここまで来ると素でやってんだなと納得せざるを得ない。
でも、俺だって完全に無関心って訳じゃない。ワンチャンあるとか思わせない為にも、少しは用心して欲しいんだが。
「いつか後悔するぞ」
「
「俺じゃない誰かに、こんな事してたらな!」
「ほら、きーちゃんは大丈夫だって」
安全な生き物と見られてる。そこまで信頼されると同級生として裏切れないし、無闇に副交感神経を擦り付けない理由が俺には出来たんだ。とにかくこの話題を繰り返すのは良くない、今すぐ切り替えたい。
「あのさ、笑わないで聞いて欲しい話があんだけど」
「プッ」
「出オチやめろや」
「で、どうしたの」
やばい。信頼が信頼を呼んで無意識にこれを切り出しちまった。正直、一人で抱えるには複雑な奴だ。ミホに言っていいのか、天草先輩が好きな事を。
「俺さ……」
「うん」
ミホは傾聴姿勢だ、まだ誤魔化せる。いいのか、本当に話して。
「天草先輩の事、好きかもしれない」
話してしまった。ミホはキョトンとしているが、もうどうにでもなれ。
「え。何、昨日から過ごし始めたよね?」
「多分、一目惚れ。今日、背負われて……確信した」
全部正直に言った。でもミホはハァーと大きく呆れた息を吐いてやれやれ顔を浮かべてる、めちゃくちゃ馬鹿にされそうだ。
「男子って本当に単純。ちょーと、優しくされただけでさぁ」
「一目惚れなんて、単純なもんだろ!」
「そもそもアマユユスって、男子か女子かも分からないじゃん」
「そうだけど。じゃあミホは聞いたのかよ、天草先輩の性別」
「知らないけどさ……、仮に男だったらどうすんの」
「男とか女とかどうでもいい、俺は今の天草先輩が好きなんだ」
ハッキリ言った俺を見て、ミホは「おお」と感心した後に口を尖らせる。そしてベッドに腰掛けたままクスッと笑ってこっちを向いた。
「ふうん。きーちゃんって男も女もいけるんだ」
「ドン引きしたか?」
「ううん、良いと思うよ。当人同士が幸せなら、今はパートナーの形なんて自由だし」
肯定的な言葉に俺は拍子抜けした。ミホは今日までの様子を見る限り、素は彼氏欲しいってタイプの女子っぽくて、こういうの嫌悪しそうとか勝手に身構えてた。
「思ったより理解あるんだな……」
「ほら、
私は否定しない。ミホの笑顔にはそんな説得力があった。誰かに聞いてもらって落ち着いた俺は松葉杖を壁に置き、部屋のゲーミングチェアに腰掛ける。
「ミホは純粋な恋愛に興味があるイメージだった」
「物語で見る分には好きだよ。ただ、
「まさかの興味無しかよ」
「恋愛って面倒じゃん、異性でも同性でも」
確かにそうだなと返す。なんかミホって箱入り娘の風貌してるけど、根は普通の女子高生なのかもしれないな。遠慮なくベッドに座ってるが、思い返すような顔されるとそっと見守りたくなる。
「
「周りの雰囲気が悪いってのは、結構精神にくるからな」
「面倒って考えがあるだけで、実際誰かを好きになったらどうなるかは分からないけどね」
んーッとミホは背伸びすると、腕を組んで納得したように頷く。
「そっか、そっかー。きーちゃんは、アマユユスが好きなのかー」
「なんなんだ、そのあだ名はよ」
「お互い文字りたいねって考えて、こうなった!」
「とにかく、天草先輩に絶対言うなよ! 茶化すのもやめろよな」
「勝手にそんな事しないよ。ま、協力が必要なら
いやらしくパジャマのボタンを一個外しやがった。漫画かドラマの真似事っぽくて全然エロくない、残念な視線を俺から送り続けているとミホはムッとして立ち上がった。
「反応くらいしたら⁉︎ 下半身でさ!」
「お嬢様学校ってのは、どういう教育してんだぁ!」
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