第3話 モニカとケルスのおさんぽ、こわくないかな?

 わんこなケルスはモニカのおきでもあります。


だれがお付きやねん! まったく、誰もかれもワイのことをなんやおもてんねん……」


 失礼しつれいしました。


 ケルス、またのをケルベロス。


ぎゃくや!」


 これまた失礼。


 ケルベロスはかつて、王国おうこく兵隊へいたいたちに「魔界まかい門番もんばん」とおそれられていた偉大いだい魔物まものでした。それもむかし。いまはモニカのおともだちのケルス。モニカには、ケルスがじつやさしいこと、すぐにかったのです。


 でも、ないしょ、ないしょ、ケルスの正体しょうたいは。それをるのはモニカと、あねのリジェルひめだけ。


「ケルス、ひまでつ」


「んじゃ、お勉強べんきょうでもしよか」


「ケルスもすぐ、そういう」


「ま、しゃーないな、お姫さんなんやから、おじょうは」


「お姫たまでもきゅうじつはひつようなのでつ!」


「お嬢はおやすみばっかりやんか」


「ちがいまつ!」


 だだをこね、へそをげちゃう、こまったちゃん。


 ケルス、ためいき。


「ちょっとあそんだら、お勉強するんやで」


 ケルスはちいさなモニカをおおきなせると、おしろ見上みあげるほどたかへい軽々かるがるびこえました。ふだん、モニカはあぶないからとお城のそとにはしてもらえません。ないしょのおさんぽです。


「キャハハハ! ケルス、はやい、はやい!」


「おう、まかせとき!」


 もりもすぐけぬけました。


 ヤギのれが山のがけをぴょんぴょんとはしるのも、それよりもはやくひょいひょいと。


 やまみずうみあおくすんでとてもきれいでした。


 高い山のうえにはしろゆきもあって。


 山のてっぺんから「そぅれ!」とジャンプすればくもにもとどきそう。


「ケルス、すごい! すごい!!」


たりまえや! ああ、気持きもちええな! こんなはしまわんのはひさしぶりや」


 ひろい王国をぐるりと、たったの1時間じかんで走りぬけました。ケルスは本当ほんとうにすごいですね。


「さあて、かえってきたで。そんなら、お勉強しよか。……お嬢? お嬢?!」


「すぅ、すぅ……」


 ケルスの背には、やすらかな寝息ねいき、やわらかな鼓動こどうつたわってきます。


「お嬢! お嬢!! とったらあかんで! お勉強せな! 寝てたらよる、寝られへんようにもなるがな」


「うぅん……。ケルス、うるさいのでつ……」


「ひとの背中せなかをゆりかごにして! ああ、もう! おこられんのワイやがな!!」


 いつもモニカにりまわされるケルスなのでした。

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