空を超えて
大河かつみ
プロローグ
両親が入居している介護付き老人ホームには、週に一度は通って顔を見せている。そこには食堂の他に喫茶室があって、軽食と昼はお茶、夜は酒類も提供する入居者のちょっとした憩いの場になっていた。私も帰り際に、よくそこを利用するようになると、いつの間にか顔なじみができ、ビールを飲みつつ世間話をするほどになった。
その内の一人が赤松さんという後期高齢者の方で、ここの住人ではないのだが、古くからの友人夫婦が入居しているのでよく遊びに来ているとの事だった。ご自身は奥様を既に亡くされており、子どもも独立し、今は悠々自適な一人暮らしをしているらしい。
赤松さんは話好きで話題も豊富だったが、特に学生時代の話は興味深かった。昭和三十年代後半頃の事で丁度、私の生まれた年に近かったせいもある。
「昔、こんなヤツがいてね。」そう前置きして学生時代の友人らの事を嬉しそうに話す赤松さんを見ていると、こちらも楽しい気持ちになりビールが進んだ。話が上手い事もあるのだろう。赤松さんの語る様々な人たちの人となりが目に浮かぶようで時に笑い、時に驚かされたものである。中には、ある種の感動を覚えたりすることもしばしばだった。これから、その内の印象的な一人のエピソードを書き綴ってみたいと思う。
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