第1話

「え!!?


お前ホントにあいつと付き合ってるの!?」


「わわわ、ばかっ


声が大きい!」




目の前の男、親友である羽柴 隆幸(はしば たかゆき)を慌てて叱りつける


そんな僕を見て、隆幸はバツの悪い顔をしつつも好奇心が抑えきれないのか、顔を寄せ小声で話の続きをする




「あいつって、あの節操なしで有名な遊上 愁(ゆがみ しゅう)のことだろ?


お前、ただ遊ばれてるだけじゃねぇの?」


「節操なしって…


ちゃ、ちゃんと付き合うことになったもん


こ、こここ恋人は僕だけだって…」




恋人、という単語を言うだけでつい僕は赤くなってしまった


いや、だって!


好きな人とやっと恋人同士になれたんだもん!


嬉しいし、やっぱり恥ずかしい!!


キャーっと恥ずかしがりながら赤くなってると、隆幸が何とも言えないような顔で僕を見ていた




「……そんな、恋人って単語だけで照れてんじゃねーよ、小学生かよ…


まぁ、楓が幸せなら男同士だろうと別に構わねーけど…


ホントに大丈夫かぁ?」


「小学生じゃないし、大丈夫だもん!」




プイっと顔を背けた先に、想い人を見つけた


そう、先ほどから話題に上っていた僕、矢野 楓(やの かえで)の彼氏、遊上くんだ


ぱちりと目が合ったのが嬉しくてにへらと笑いながら小さく手を振ると、遊上くんは顔を逸らし、どこかへ行ってしまった


あーぁ、残念


…まぁ、遊上くんから僕たちが付き合ってるのは内緒にしとくように言われてるから、手を振り返してくれるなんて思ってなかったけどさ…


そんな一連のそれを真横で見ていた隆幸はやはり何とも言えないような、何か言いたげな顔でこちらを見ていた




「……なんだよぅ…」


「…いやぁー、ホントに付き合ってんのかなって思って…


実は楓の妄想だったんじゃないの?」


「違うよ!


妄想なんかじゃないもん!


本当に付き合ってるんだから!


信じてくれないならいいよ、隆幸のばぁーか!!」




べぇーっと舌を出して立ち上がり、中庭から出ていく


親友の隆幸だから言ったのに疑ってばかりで信じてくれないなんて!


ぷりぷりしながら教室に戻ると、クラスメイト達から声をかけられた




「おーい、矢野ー


ほっぺ膨らませてどーしたんだー?


リスのマネか?」


「違う!


僕は怒ってるの!」




つい感情的になると頬を膨らませる癖が出ていたようだ


僕は怒っているのに皆はリスのマネだと笑ってバカにしてくる


それがまた腹立たしくてさらに頬を膨らませていると、後ろから声がした




「楓、悪かったて…


謝るから許してくれよー、な?」




それは、先ほど中庭に置いてきた隆幸だった


謝っていることだし、許してやろうと僕は頬に溜まっていた空気を吐き出す




「…しょーがないなぁ、許してあげる」


「さんきゅー」




さっきのことを許してやると、隆幸はそう言いながら僕の頭をわしゃわしゃとかき混ぜる




「わわわ、ちょっとやめてよ!」


「あはは、楓の頭が撫でやすいところにあるのが悪い!」


「はぁ!?


隆幸がちょっとデカすぎるだけで僕は小っちゃくないもん!!」




身長のこと、気にしてるの知ってるくせに!


ぷんぷんと怒りながらじゃれていると、お昼休みの終了を告げるチャイムが鳴ってしまった


それを機にみんな自分の席へと戻っていく

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