アイツの行動

「あのさ、好きな人が出来た。この恋だけは邪魔しないで欲しい」



 彼にそう言われたのはあの喫茶店。あの日から彼から何度も電話やメッセージが入ってる。それをすべて無視していた。まだ会って話す勇気はなかった。自分の中でも区切りをつけなきゃいけないことは分かっていたけど、なかなか行動に出来なかった。

 だからこの喫茶店に来ては本を読んでいた。本を読んで先に進める為の勇気をもらいたかった。電話やメッセージに返信出来なかったのはまだ心の整理が出来なかったから。


(でも、もうそうは言ってられないみたい)

 開いていた本を閉じ、彼を見る。そして自分の中に秘めてきた思いを言葉にした。

「私……、ずっとあなたが好きだった」

「え?」

「小学生の頃からよ。気付かなかったでしょ」

「……あぁ」

 彼はなんて言ったらいいのか分からないという反応をしていた。そうだろうね。私、必死で隠してたもの。周りは気付いてたらしかったけど、あの頃は周りも気付いてないと本気で思ってた。だって、彼が気付いてないんだもの。

 先生もきっと気付いてたんだと思う。だから心配している。今もまだ話をきいてくれたりするのは心配してるから。

「嫌だったのよ。あなたの傍に私じゃない女の子がいるの」

 だからあなたの傍にいる女の子にあることないこと話して別れさせた。嫌われるかもしれないって分かっててやってた。

 独り占めしたかったの。あなたを。私だけのあなたにしたかったの。

 そんな思いが強すぎて私にはまともな友人が出来なかった。唯一の友人だった子も、今は結婚してお母さんになってから疎遠になってしまった。だから余計にあなたに執着してるのかもしれない。


(でもこの恋は本物なの)

 誰がなんて言っても大切な思い。否定なんてされたくない。出来るのならその思いを成就させたかった。

「……でももう無理ね」

 ポツリと呟く私に「え?」と彼の声が届く。この声も好きだった。一緒にフザける時間もケンカをする時間も大切で、私はそこから抜け出せなくて。


「どうしても私じゃ……ダメ?」

 小さく呟くように出た言葉に彼は困っている。ダメだって分かっていても、離したくない。離れたくない。私は彼じゃないと生きていけない。彼なしでは生きていけない。

 グッと涙を堪えてるけど、溢れてきそうでいろんなものが崩壊しそうだった。


「無理だって、分かってんだろ」

 彼の言葉に何も言えなかった。いつもよりも真面目な目で見られ、何も言えない。


(苦しい……)

 息が出来なくなる程、苦しくなっていた。彼はもう私の傍にはいてくれない。私はもう彼の傍にいられない。怖れていたことが今、目の前にいる。

「頼むからもう構わないでくれ」

 それ以上、何も言わない彼はじっと私を見る。私のことはもう寄せ付けないって感じで見ていた。


(覚悟、決めるしかない……)

 グッと絞り出すように彼に言った。

「……ごめんなさい。もう、連絡もしない」

 俯いた私は涙が頰が伝っていくのを感じた。これ程までに拒否をされている。それは私がしてきたことの報いだった。


「じゃ元気でな」

 そう言った彼は喫茶店を出ていく。その姿を見送った後、涙を止めることか出来ずに大泣きをしてしまった。



 コトン。

 視界に入ってきたグラス。レモンスライスの入ったアイスティー。ここ何日か通ってるからか、店主には顔を覚えられていて私がいつも頼むものも把握していた。

「あの……頼んでないです」

「いえ。こちらはサービスです。もうお客様もいらっしゃいませんからどうぞお気になさらずに」

 口数は多くない店主の心遣いが嬉しい。私が泣いてる理由を分かっててそっと泣かせてくれるつもりのようだ。

 


(本当に終わってしまった……)

 私の長かった初恋は終わってしまった。これから私はどうすればいいのだろうか。どう生きていけばいいんだろう。

 でもとりあえずはこの喫茶店に通うことにしてみる。この喫茶店のおかげで本が好きになってしまったようだ……。

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