彼の行動
あの雨の日から数日経っていた。会社の同僚である、彼女に声をかけ会社の屋上で話した。
「申し訳ないっ!」
いきなり頭を下げられて困惑しているだろう。
「あ、あの……。やっぱり、ご迷惑でした…よね」
か弱く話す彼女に本当に申し訳なく思う。しかも彼女は俺が迷惑だと思ってると感じてるらしかった。
「迷惑なんかじゃない……っ!」
いくら屋上でも他に社員に聞かれるんじゃないかってヒヤヒヤしていた。
「でも……」
「あの日……、幼馴染みが来てて俺が出掛けることを邪魔してきて。スマホも取り上げられて連絡も出来なかった。待ち合わせ場所に着いた時にはもう2時間は経っていて……」
頭を下げたまま俺は状況を説明する。こんなこと話したら、誤解されるかもしれない。アイツが俺を好きだと思われるかもしれない。アイツは昔っから俺の邪魔ばかりしている。中学の時からずっとそうだ。幼馴染みのアイツは何故か俺にまとわり付き常に一緒にいた。高校受験をする時に離れられると思った。けど、アイツは俺と同じ高校を受験していた。どうやったって逃げられない。そんな気分にさせた。
「幼馴染みとは……、ちゃんと話すつもりでいる。だから……ッ」
真っ直ぐ彼女の顔を見て言葉を繋ぎだそうとする。けど、彼女の顔を見ると肝心の言わなきゃいけない言葉が出てこない。
「あの……」
遠慮がちに彼女は俺を見る。そしてこれまた遠慮がちに言葉を繋いでくる。
「私、迷惑じゃ……ないんですか?」
「迷惑だなんてッ!寧ろ嬉しいって…ッ!」
そこまで言ってまた言葉が出てこなくなった。
(ここで言わなきゃいけない)
言わないと情けない男に成り下がりだ。グッと拳に力を入れて彼女の目を見る。そして俺は彼女に伝えなきゃいけない言葉を口にした。
「俺、君が好きだ」
その言葉が他人事のように聞こえるのは緊張しているから。自分の声じゃないように聞こえる。他人が喋った言葉のように思えて仕方ない。
「君が好きなんだ。だから誘われた時、凄く嬉しくて嬉しくて舞い上がってたくらいで……、だから幼馴染みには邪魔されたくないって思ってて」
そこまで話すと息を大きく吐いた。そして幼馴染みとのことを話し出した。幼馴染みとのことを決着させないと、彼女と前へ進むことが出来ない。
「だから、待ってて欲しい。幼馴染みのこと、ちやんと決着つけてくるから」
顔が真っ赤になってるのが分かる。俺は今、顔が真っ赤になってるだろう。
それからの俺は必死だった。アイツに分かって貰おうと必死だった。だけど話をしようにもアイツがいない。電話しても出ない。家に行ってもいない。
(どこに行ったんだ)
本当に居場所が分からなかった。こんなことは初めてだった。常に俺の傍にいたアイツがいなくなることは今までなかった。
アイツが行きそうな場所にもいない。実家にも戻ってないと言う。たまたま都合が合わないだけなのかと考えているが、いつもならほぼ毎日メールが届いてる。
気付いたらこの前の喫茶店の近くまで来ていた。夜に見る喫茶店も雰囲気があっていい。
カラン……
静かな音奏でるドアについたベル。そのベルの音はタイムスリップさせてくれる。店内は数人の客が静かに本や雑誌を読んでいる。その中にひとり、見覚えのある人が本を読んでいた。
「……やっといた」
俺の幼馴染みが店の本棚の近くで一冊の本を読んでいた。俺の言葉に顔を上げた幼馴染みは驚きの表情を向けた。
「なんで……」
「なんでじゃねぇよ」
幼馴染みの前に座ると「話したいことがあるんだよ」と告げる。その言葉に幼馴染みは顔を強張せる。どんな話をされるのか不安で聞きたくないって顔。でも俺は告げなきゃいけない。俺が前に進む為に……。
「あのさ、好きな人が出来た。この恋だけは邪魔しないで欲しい」
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