こんな冒険イヤだぁっ! 幼馴染みと恋人同士になってイチャつきたいだけなんだぁっ!!

子乙女 壱騎

第1話 告白のち黒猫? 局地的選択肢、でしょう……??

 此処は何処だろう。


 僕の目の前に広がっているのは真っ白な世界。


 霧で霞んでいるなんてレベルではなく、まるでペンキで塗り潰したかのように真っ白で。


 あれ? どうして僕はこんな処にいるんだろう?


 僕にはがあるんだ。


 た、いせつ……な……――



「――……いっ! 羽柴はしば先輩、いい加減お・き・て・く・だ・さ・い~っ!!」

「……ぅん? ん~、あ、緋鞠ひまり、おはよう……」

「おはよう、じゃないですよ。よく立ったまま眠れますね……」


 ゆさゆさと体を揺すられると共に染み入るような心地いい声で目覚めた僕は、その声の主に挨拶をしただけなのに盛大に呆れられた。

 まあ、うん。立ったまま寝ていたら呆れられるか……。


 うん? そもそも僕は何でこんな処に――


「まだ寝惚けてますか? 入学式が終わったら体育館裏に来てって言ったのは羽柴先輩じゃないですか」

「入学式、体育館う……あーーーーーっ!」

「うるさいです! 急に叫ばれると鼓膜が破れてしまいます!!」

「ご、ごめん」


 そうだった。今日は僕が通う高校の入学式で、一つ下の幼馴染である新垣あらがき緋鞠が高校デビューを迎える日。


 入学式の日は在校生の二、三年生は部活動を含めて完全に休みなんだけれど、僕こと羽柴将憲まさのりは前日の夜、彼女に「大切な話があるから」と伝えて先に体育館裏で待っていたんだった。


 なぜ寝てしまったのか自分でも判らないけど、まずは目の前にいる幼馴染に祝福を、なんてね。


「入学おめでとう緋鞠。新しい制服も似合ってて可愛いよ」

「え、えへへぇ。ありがとうございます、羽柴先輩」


 蕩けそうなくらい頬を緩め制服をお披露目するかのようにゆっくり一回転して、極上の笑みを向けメイドさんプロ顔負けの美しいカーテシーを決める緋鞠はアイドル、否、天使なんか目じゃないほどに可愛いっ!

 ちょっと幼さを残し大きい瞳に低めだけど筋の通った鼻、細い柳眉に小さく愛らしい唇。けがれない白雪の如く綺麗な肌、対照的に黒ダイヤのような輝きを放つ艶やかな長髪は背中の辺りで軽く一本に纏められそれはそれは雅なお姫様のよう……否、否、お姫様ご本人だっ!!


 取り乱した……背は低いけれど、出る処は出(過ぎてい)て引っ込む処はしっかり引っ込んでいる。狂おしい程に可愛い幼馴染は、本当は同じ歳で……僕がだったばっかりに学年が分かれてしまった。

 小学校も中学校も思い出――遠足、修学旅行、オリエンテーション、体育祭(運動会)も球技大会や文化祭だって基本同学年行動――が共有できず悔しくて妬ましくて仕方がなかった僕は、高校でも同じ思いをするのであれば、とけど、正直限界を迎えて告白することにしたのだっ!


 いざ、決戦のとき――


「ひ、緋鞠……いや、ヒマちゃんっ!」

「へ、え!? 羽柴先――マサ、くん? な、懐かしいですね……その呼び名。どうしたのですか?」


 あまりの緊張の所為で大きな声が出てしまい、ヒマちゃんひまりもびくりと肩を揺らして身構えた。

 そんな姿も愛らしく思いながらも真剣な表情は崩さず、


「ほ、本当は、大人になるまでは我慢しようと思っていたんだけど……」

「は、はい」

「僕は、僕、羽柴将憲は――新垣緋鞠を愛しています世界の誰よりも!」


 某アニメの告白シーンと似たようなセリフと共に頭を下げた。


 こんな僕を幼馴染かのじょは受け入れて彼女になってくれるだろうか。


 数分、数秒が途轍も永く感じる。近づく審判の刻――果たして女神ひまりは微笑んでくれるだろうか。


 と、前方からの衝突を受け後ろに倒れ込むと同時に柔らかな重みと甘い匂いに包まれ、目を開くと緋鞠が僕に抱き着き震えながら泣いていた。なんでっ!?


「……――――かです」

「え?」

「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ、大バカァッ! マサくんは大バカ者ですぅ~~っ!!」


 緋鞠の叫びに俺は呆然とするだけで、なおその激情は止まらない。


「わたしはずっと我慢してたんです……マサくんはわたしが好きななのに理由は判りませんが手を出してくれなかったこと、たくさんの人から告白されていたことを知りながらも素っ気のない態度。本当にわたしのことが好きなの? 実はわたしだけが片想いしているだけなのでは……って、疑ったりもしました。毎日が不安でした。会えるのは嬉しいのに休みの日にしか一緒にいられない寂しさ、同じ年のはずなのにって。だけどマサくんに迷惑をかけたくないから、大好きな気持ちを抑えてきたのに……こんな、不意打ちは卑怯ですぅ~~っ!」


 ああっ僕はなんて馬鹿だったんだ……。

 僕は大人になってから、将来はヒマちゃんをしっかり支えられる僕でありたい――って、あくまで自分のことばかりで、ヒマちゃんの気持ちを考えていなかった……と言うか《受け入れてくれるだろうか》なんて無意識に疑い軽んじた最低ヤロウじゃん!


 だったら、これから僕は――


「本当に僕は大馬鹿ヤロウだ。だけど、さっきも言った通り世界の誰よりも愛しているから――ヒマちゃんも僕だけを見ていて欲しい。当然逃がすつもりはないよ?」


 もう一度想いを言葉に乗せた。最後は照れ隠しに冗談めかした――うん、まあ実際は口に出せない下心満載なんだけどね……。


「本当にバカです……わたしはずっと、マサくんを想い続けていました。私は満足しませんよ?」

「え……――っ!?」


 はにかんだひまちゃん彼女の言葉に驚く間もなくその小さな唇が僕の唇に重ねられた。


 柔らかくて瑞々しい。そして痺れるように甘い……天にも昇る程の幸せを噛み締めていたのに――



「にゃんにゃにゃにゃ~ん♪ にゃんにゃぁにゃにゃ~~ん♪」



 唐突に聞こえた能天気な歌声? で、せっかくの雰囲気が台無しになった。


 折り重なった状態のまま二人で声が聞こえた方を見ると、なんかのマスコットキャラのような翼の生えた黒い猫が宙に浮いていた。


 なんかのマスコットキャラのような翼の生えた黒い猫が宙に浮いていた!?


「うわぁっ!」

「きゃぁっ!」


 二人して叫び声をあげ慌ててお互いから離れて黒猫? を警戒する。


「にゃははぁ、いい反応ありがとう」

 

 幸せな気分に浸っていたのに悪びれもなく「いい反応をありがとう」って、めちゃくちゃ腹立つんだけどっ!


「えっと、あなたは……?」


 イライラする僕と違い緋鞠は恐る恐るその黒猫に問いかけると、黒猫は歪んだ笑みを浮かべた。


「にゃにゃにゃんと、お二人はに選ばれましたぁ~~!」

「「はい?」」


 いきなり現れたかと思ったら冒険者って、それにって何?


 訝しく思う僕たちに構わず黒猫は続ける。


「ままま、ってことだよ~。ホントにお・バ・カ・さ・ん♡」


 おそらくさっきの僕たちのやり取りを覗き見したのだろうが、それを含めていきなり現れた黒猫こいつに言われるとさらに腹立つ……――



 ピロリロリ~ン♪


 今度は何やら変な電子音が脳内に響いて目の前には――



  Q・貴方たちは冒険者として異世界へと招待されました。参加しますか?


    ~  選 択 肢  ~


1・よっしゃ、行こうぜ!


2・OK! Let’gо!!


3・あぁっ、イクイクゥ~~ッ!


「なんっじゃこりゃぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

「きゃっ! ま、マサくん!? いきなりどうしたのですか?」

「へ? ……い、いや、何でもないよ」


 僕が大声を上げた理由が判らず首を傾げている緋鞠をみるに、彼女にはこのは視えていない訳で……いや、それでいいのかもしれない。


 そもそもコレっ! 参加しますかって、訊くだけならともかく参加一択で選択肢の意味ないじゃんっ! しかも最後のヤツっ!! まったく全っっっっっ然! 意味が違うよねっ!?


「まあまあ、君たちには拒否権は無いんだけどね?」

「「――――っ!?」」


 歪んだ笑みのまま不穏な事をのたまう黒猫に呼応するかの如く、僕たちの足元に魔法陣が浮かび上がり眩く輝いて、



 僕たちは光に吞み込まれた―――― 

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