第6話 入隊準備

 無事、治安維持隊の正式な隊員になった僕なのだが、昨日


「憶人君、今日から君も治安維持隊の隊員だ。だが、明日は準備期間に当てて欲しい。君は戦闘の主力は魔術だろう。その行使に必要な装備の手入れをしておくべきだ。それと魔夜にも明日は休暇を与えてある。」


 と言って小遣いも渡されている。だというのに、魔夜の部屋へ向かうと


「えっ?魔具の手入れ?昨日の夜終わらせといたけど。材料も生産系の能力者に頼らなくても私は作れるし。」


 とのことで、白夜さんから貰った小遣いの使い道が消えた。


「まあ、貰ったものを返すのも失礼だし使ってやりましょうよ。北上だって怒らないわよ。ささ、出かけるから準備して。」


 すみません白夜さん、帰りにお土産買ってきますから。心の中でそう断りを入れ、僕のことを気にもせずに着替え始める魔夜から視線をそらし部屋を出る。まあ、見るものもないんだけど。







 「お待たせ。早かったね。」


 自分が先に着替えたはずなのに、リビングに降りると既に僕がいることに少し驚いた風な顔をしたが、思い出したようで。


「ああ、そっか私もそれ使えばよかったなあ。召装ドレス・コード。」


 指をパチン、、、、、、と鳴らそうしたが指はカスっと摩擦音を立てるのみ。それでも魔術自体は発動して、白を基調にして、水色の刺繍糸で縫われたローブを着た魔夜が赤面している。

 

 かわいそうだし話が進まなさそうだから、スルーして、


「そうそう、初めて魔具の作り方を教わった時に便利だからって教えてもらったからさ。その後で2セット分普段着を作っておいたんだ。それより早く行こう。」


 魔夜の手を引いて玄関を出る。


「いってらっしゃーい。」


「いってきまーす。」


 ツクモンに草刈りをさせている鏡子さんに見送られ、僕らの休暇が始まった。







 我が家_治安維持隊の基地は住宅街にあり、市場までは徒歩で10分ほど。まあ、先輩は異能を発動して自身にかかるG を限りなく0にしてひとっとび。だから我が家でお使いは先輩の仕事なのだ。


 今日は魔夜の箒の後ろに乗せてもらっている。下を見ると人であふれている。・・・・・・ん?今こっちを見てる人いなかったか?視線は僕というよりは魔夜の方に。さてはロリコンだな。見つけ次第ぶっ飛ばすか。サーチ・アンド・デストロイ


「ところで魔夜、今日は何か買いたいものでもあったの?」


「う~ん、特にないかな。」


 魔夜は通りの真ん中に降りた。そして、香ばしい香りのする方に振り向くと


「おや、魔夜ちゃん。今日も買ってくかい?っとそっちの子はお兄さん

かい?」


「違うよ、おばさん。憶人よりも私の方がお姉さんなんだからね。」


 腕を組み、頬を膨らませる魔夜の顔にはプンプンって文字が浮かんでる。


「はいはい、まあ初めましてだね。おくと君。よし、今日はオマケしてあげよう。」


 魔夜を放置して話を進める屋台の女将さん。手渡されたのは焼き鳥串が四本入ったカップを二つ。


「ありがとうございます。」


「それじゃあ、私は他のお客さんの相手をしないとだから。魔夜ちゃん連れて回っておいで。」


 そうして、食べ歩きを楽しんだ。魔夜はすぐに自分の分を食べ終えて


「隙あり。」


 二本持ってかれた。おいしかったな。今度は一人で来よう。手に持った最後の一本を見つめ僕はそう思った。


 それからというもの、いろんな屋台でオマケを貰い、お金を使わずに楽しめてしまい、日も傾いてきた。どうやら、魔夜は任務の終わりに自分へのご褒美としてよく買い食いをしているそうだ。ただ、余ったお金をそのまま懐に入れるというのも忍びない。それに先輩の機嫌も直っていないからなあ。








「「ただいまあ。」」


「おかえりなさい、魔夜ちゃん、憶人君。」

「おかえり、二人とも。今日は休めたか?」

「帰ったか。、、、、、、ってその袋は!?」


 お土産にいち早く気づいたのは朱兎先輩だった。ほんと甘いものが好きなんだから。僕らはあの後、帰りに行きつけの和菓子屋に寄って、各々の好物を買って帰ってきた。


「お土産ですよ。朱兎先輩にはどら焼き。ちゃんと粒餡ですよ。鏡子さんには人形焼き。カスタードで良かったですよね。白夜さん、ようかんです。」


「やっほーい。」

「あら、ありがと。」

「うむ。」


 各々反応は違うが喜んでくれてて何よりだ。先輩の機嫌が直って、久しぶりに白夜さんの仏頂面がほころんで、夕食が少し豪華になった。


「今日は良い日だった。」


 一人、湯船に浸かって呟く。檜の香りはリラックスできて、このままだと寝ちゃう

な。


「よいしょ。」


 僕が立ち上がり、ザパンと浴槽から湯があふれる。


「明日っから頑張りますか。」


「何を?」


アババババ。危うく足を滑らせるとこだった。そんなことより


「魔夜のバカ。なんで入ってきてんだよ。」


「私からのご・ほ・う・び♡」


召装ドレスコード~!!」


 魔夜にローブを着せる。これでひとまず大丈夫だろう。その考えが甘かった。


 僕の声を聞いて駆け付けた鏡子さんにタオル一枚で正座させられ小一時間説教された。魔夜はローブ来てるのに。僕、悪くないのに。説教も終わってよぼよぼと自室に戻る。


 ボフっ。ベッドにダイブする。


「明日、風邪ひいたりしないよな。」


 こうして僕の入隊準備期間は終わった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る