8話 展望
「単刀直入に言おう、俺は世界最強になりたい。」
「はい、解散。」
リエルはすくっと立ち上がる。
「まて、早すぎるだろ!」
「そりゃそうでしょう、あんたの技能は民話級でしょ!そんなこと口走れるのは最低でも伝説級の能力者よ。」
「だから待てって。この世には技能を持ってなくても、剣神まで上り詰めた達人もいるだろうが。」
当代の剣神、テツロウは無能力で神剣の名を冠し、剣術使いの頂点に君臨している東洋の剣士だ。ある意味では世界最強の男と言えるかもしれない。
「それもそうだけど…。」
「帝都に行けば、支援を受けられるだけじゃなく、きっと帝国騎士団の訓練にも参加できるし、世の強者たちが沢山集まるはずだ。技能を早く自分のものにするためにも、行かない手はないだろ!」
「一理あるわね…かなりの高待遇だし、私もどの道行くと思うけど、ハートはどう?」
「僕も行くことにするよ。やらなきゃ行けないことがあるんだ。」
「やらなきゃいけないこと?」
三神によると、僕の魂はあと十年で消えてなくなってしまう。
そうなってしまわないために、そして救ってくれた神々に報いるために絶対に魂を修復しなければいけない。
(このことはまだ2人には伏せておこう。きっと心配させるだけだから。)
「今はまだ言えないけど、いつか必ず2人には伝えるよ。」
「ああ、とりあえず分かった。これで3人全員で帝都行きだな。」
「そうね、あんた達二人だけで行かせたら何しでかすか分からないもの。私がきちんと見張っててあげるわ。」
「お前も割と大概な部分あると思うけどな。」
それから、少しだけ二人が技能を試すと言い出したので、僕は木の根に腰掛けて、あの本を取り出した。
儀式の時からずっと懐に入っていたが、人目があってなかなか取り出すことが出来なかった。
あの時の半透明とは違い、牛革特有の光沢と質感があるが、古めかしいのには変わらない。
ドキドキしながら本を開くと、中はほとんど真っ白で、少々興醒めだ。
先頭あたりのページだけ何やら書かれており、どうやら今朝の夢の内容が綴られているらしい。
「なるほど、あの建物は学校で、あの部屋は教室と言うのか。あの人は高校生っていう学生だったんだな。」
「手なんか見てなにをブツクサ言ってんだ?」
読むのに夢中で独り言を呟いていたらしいが、そんなことよりも、この本は他人には見えないようだ。
「い、いや、これも技能の副産物なんだ。僕にだけ見える本てきな?」
「ふーん、俺もあいつももう切り上げたんだが、そろそろ解散にするか?」
「うん、そうしようか。夜中に出歩いてるのがバレたらきっと大目玉だ。」
バレた。
ものすごくバレた。
あの後解散した僕らはそれぞれの家に帰り、僕はなんの問題もなく部屋まで戻ってノエルと寝ていたし、リエルもきっと上手くやったのだろう。
問題はアレクだ。
技能の性質上泥だらけになって帰って、リエルにお土産で貰ったリンゴも枕元に置きっぱなしと来たら、夜中出歩いていたのは確定。
なんなら他所様からリンゴまで盗んできたんじゃないかと雷が落ちる寸前だったらしい。
そのせいで僕も今両親の大目玉に遭っている。
「友達と見せ合いたいのも、技能を授かって逸る気持ちも理解できるが、子供だけで夜中の林に行っていいと思ったのか?」
「いえ、ごめんなさい。」
「今回だけは大目に見てやる、次はないぞ。」
「はい。」
僕の顔色が優れないのもあってか、父さんは軽い注意で済ましてくれた。
というのも、昨日も夢で前世の記憶を見たからだ。
朝から気分が優れなくて、隣で寝ていたノエルを随分心配させたようだ。
夢では前回よりも狭い部屋に僕と同じ年の瀬の子供が三〇人程集められており、彼もまた幼くなっていた。
どうやら昨日の夢より前の時系列のようだった。
彼は教室と呼ばれるその部屋の前に立ち、ある生徒から一枚の大きなカードを手渡される。
表紙に「離れていてもずっと友達!」と書かれたカードだ。
彼はどうやら、どこか離れたところに引っ越すらしい。
彼は嬉しそうで不安そうな、複雑な顔をしていた。
場面が変わり、前回とは違う家の中。
彼の父親と思わしき男が、荷物を持って出ようとしていた。
彼は涙目で駆け寄って男に抱きつくと、男も微笑み返すように頭を撫でた。
夢の内容はだいたいこんな感じで、本にも新しく同じ内容が追加されていたので、また後で読んでみよう。
さて、実は今僕の家にリエルとアレクと、そのご両親がお見えになっている。
理由は単純、説教を兼ねて今後の話し合いである。
保護者を代表して父さんが進行するようだ。
「それで、三人とも帝都行きについてはどう考えているんだ?」
「「「行きます!」」」
「あ、ああ。三人の気持ちについては分かった。ちなみに二人の両親に相談は…?」
威勢が良すぎる僕らに、父さんは若干引きつっている。
「「まだです!」」
「そうか、じゃああっちで話し合いを…」
「うちは構いませんよ。本人の自由にさせてあげたいと、昨日妻と話し合いましたから。」
「うちも同じです。」
「え、ええー…。」
リエルとアレクのご両親がすんなり答えるものだから、父さんは呆気にとられてこちらに視線を向けてくる。
僕はわざとらしくニコッと笑うと、父さんは溜息をついて口を開く。
「うちも本人の自由にさせてあげたいと話していたので、話はまとまりましたね。じゃあ、お祝いパーティの日程を決めましょうか。帝都へ行く返事を出すのが一週間後なので、その次の日でどうでしょうか。」
「ええ、いいんじゃないかしら!」
「張り切っちゃうわよ!」
母さん達はここぞとばかりに張り切っているようで、これはえらく豪華な食事が出されそうだと僕らは三人で苦笑した。
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