4話 偶然
かなりの時間あちらにいたが、時計を見ると実世界では数秒ほどしか経っていないようだ。
(いや待った、何かがおかしい…なるほどそういう事か。)
通常、神授式では神々の記憶は一切残らないとされる。
それどころか高位の神官や帝王さえも神々の事を記憶することは許されていない。
それが許されているのは神に最も近い人間、教皇のみである。
一体なぜ…?とあちらでのことに耽っていると、話を終えたのか神官の一人が近づいてきた。
「たった今神々から啓示をいただきました。能力者に選定されたこと、心よりお
「はい、分かりました。あ、後ろの2人が連れなので儀式が終わるまで待っていてもいいですか?」
「はい、構いませんよ。」
話が聞こえたのか前半分ほどに並ぶ子供たちの視線が一気に集められる。
ハートはたじろいでしまい、早足で父の方へ向かう。
次の番で呼ばれた壇上のアレクに視線をやりながら、父さんは口を開く。
「お前が光の柱に包まれるところを見てまさかとは思ったが、技能を授かったんだって?凄いじゃないか!父親として誇らしいよ。」
どうやら技能を得る瞬間のあの光は現実世界でも顕現していたらしい。
「ありがとう、そう言ってもらえて僕も嬉しいよ!実は自分でもまだ信じられないんだ。」
「それもそうだよなあ、それで、どんな技能なんだい?」
「等級は民話級で、名前は〈
「ほう、なんだか難しそうな技能だな。なんにせよ選ばれただけでも逸材には変わりないさ。ハートは自慢の息子だな!」
そう言って父さんはぽんっと頭を撫でてくれる。
なんだか少し照れくさい。
「ありがとう、父さん。」
「そういえば、二回も光っていたがまさかもうひとつ技能があるのか?」
「そ、そんなわけないでしょ!神話じゃないんだから、きっと見間違いか気のせいだよ。」
「そうか、そうだよな。もしかしたらと思っただけだよ。」
(転生技能の方も見えていたのか!自分でもまだ何が何だか分からないし、今は隠しておいた方がいいよね…)
すると、視線の先のアレクには、室内なのにも関わらず野原を照らす陽光のような暖かな光が降り注いでいて、そのクリームのような金髪をより一層輝かせていた。
しかし、辺りに漂うオーラは少し青みを帯びているような気がする。
(なるほど、周りからはああ見えていたのか。
…っていや!アレクも授かってるじゃん!)
直ぐに目を開いたアレクは、近くにいた神官が口を開くより早く「っしゃぁぁあ!」と聖堂内に響き渡る大声で喜んでいた。
恥ずかしい。
リエルを見ると、同じことを思っていたのか耳を赤くしてアレクから目を逸らしている。
神官にこっちへと促されたのかアレクはスタスタと歩いてくる。
「ハート、俺も技能を授かったぜ!」
いつにも増して、いや遥かに自信満々な様子のアレクはニカッと笑って親指を立てて見せた。
「良かったね、僕ら二人が選ばれるなんて、すごい偶然だよ!ちなみにどんな技能なんだ?」
「民話級なんだけどな、リエルにも話したいから今は内緒だ!あ、次はリエルだな。あいつはどんな技能を授かると思う?」
「いや、リエルにも選ばれて欲しいけど、そう簡単に能力者がポンポン生まれるわけってえぇえ!?」
言いかけた途端、視界の端のリエルが先程のアレク同様光に包まれていることに気がついた。
今度は少し緑色のオーラを纏っているように見えた。
(最低でも千人に一人って嘘なんじゃないのか?)
そう思えてしまうほどに、幼馴染三人が技能を獲得するということは偶然と言うにはでき過ぎていた。
リエルがゆっくりと目を開けると、神官に声をかけられて途端に表情が明るくなった。
神官が手で僕らを指し示すとリエルはくるっと翻り、肩まで伸びる若芽色の髪を揺らしながら階段を降りてくる。
「アレク、ハート!私も技能を貰ったわよ!」
おめでとう!とアレクはなんの気なしにお祝いをするが、父さんと僕は唖然としながらリエルを祝福する。
「私だけ仲間はずれにされたらと思って不安だったけど、要らなかったみたいね。私は民話級だったんだけど、二人はどう?」
「僕も民話級だったよ。」
「俺もだ、後でみんなでお披露目会しようぜ!」
「いいわねそれ、楽しそうだわ!」
「三人ともすごいじゃないか、きっと二人のパパとママも聞いたらびっくりするぞ。」
「ははっ、違いねぇ。」
「お話の途中失礼します。こちらの三人の保護者様でお間違いないですか?」
先程とは別の神官が声をかけてくる。どうやら案内をしてくれるようだ。
「はい、デルクと言います。」
「かしこまりました。三人ともお知り合いとの事ですので、今後について一度に説明させていただいてもよろしいですか?」
「はい、構いません。」
「ではこちらへどうぞ。」
協会の中は外観通りそれなりに広かったようで、僕ら子供からするとそこそこの距離を歩いたところで、ある扉の前で立ち止まると、神官がノックをして声をかける。
「選定者様方をお連れしました。」
「ご苦労、お通ししなさい。」
男性にしては少し高い返事がくる。
「どうぞ中へ。」
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