カプセルトイ
崩梨ひとで
檻
大学を中退して数ヶ月、精神を病んだJ氏は親の仕送りだけを頼りに引きこもって生活をするようになっていた。
「外の世界は危険なことや嫌なことばかりだ。大学の奴らは成績の良い俺のことを妬んで、いつも俺を突き放していやがった。仕事をするなんてもってのほかだ。俺は誰とも顔を合わせたくないんだ。みんな俺の顔を見て笑いやがる」
J氏は食事や買い物すら出前と通販で済ますようになって行った。
もちろん宅配業者と顔を合わせることはしない。彼は徹底して引きこもった。
そんなある日、気まぐれに外の空気が吸いたくなった。
J氏は窓を開けようと手をかけたが、開かない。
「どうしたものか、長い時間放っておいたせいで錆びついてしまったのか」
心配になったJ氏は、玄関のドアノブも捻ってみたが開かない。
「これは大変なことになった。誰か、誰かいないか」
ドアを強く叩くが、誰かがやってくる気配はない。
長く部屋から出なかったせいか、J氏の体力はあっという間になくなって、その場に倒れ込んでしまった。
「おい、地球人が檻から出ようとしているのではないか」
「そんなことあるものか。アイツがずっと住んで居た環境をそっくりそのままコピーした檻なんだぞ。わざわざ他の個体と関係を持たない個体を連れてきたんだ、今更暴れられても困るな」
「そうだな、我々大宇宙動物園が望むモノ総て与えてやるのだ。わざわざ檻から出ようなど思うまい」
モニターを確認しながら、緑色の皮膚をした二人は談笑を続ける。
それからもJ氏はドアを強く、強く叩き続けた。
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