逃げられない檻の中
るい
1
第1話
「え……?」
突然お母さんから告げられた言葉に目を見開いた。
お母さんの隣には知らない男の人が立っていて。
優しそうな顔をした男の人をまじまじと見つめてしまう。
「舞、この人が今日から新しいお父さんよ。蓮也さんっていうのよ」
「…………」
思わず絶句してしまう。
お母さんの顔はとても幸せそうで。彼のことが好きだということがよく分かった。
「今日から宜しくね。舞ちゃん」
スっと握手を求めるように手を伸ばしてきた私の新しいお父さんに、躊躇いながらも手を伸ばす。
ギュッと握りしめられ、ビクッと肩を揺らすと新しいお父さんはクスッと小さく笑った気がした。
「舞、蓮也さんと仲良くするのよ」
「……お母、さん……」
ーー何でもっと早く言ってくれなかったの。そう言いたいのをグッと堪え、私は2人に必死に笑みを浮かべ頷いたのだった。
▫️
私にはお父さんの記憶が曖昧だった。私が4歳の頃、交通事故で亡くなってしまいそれからはお母さん1人で育ててくれた。
私を育てるのにお母さん1人だったから苦労したと思う。
それでも愛情いっぱい与えてくれて、ここまで育ってきたのはお母さんのお陰だ。
お母さんは美人だし子持ちだろうとアプローチしてきた男の人の数は数多だった筈だ。それでもお母さんは誰一人として一緒になろうとせず今まできた。
そんなお母さんがこの男の人と一緒になる、というぐらいだから凄く素敵な人なんだろう。
お母さんの為にも新しいお父さんに歩み寄らないといけないって分かっている。
それでも、お母さんを取られてしまった、という感情があって少し……かなりショックだ。
「舞ちゃん、お帰り」
「あ……」
学校から帰って家に入った瞬間、優しく低い声音が聞こえ俯いていた顔を上げた。
まさか家の中にいるとは思わず、無意識に後ずさってしまう。
「た、ただいま……」
家の中にはお母さんは居ないみたいで、仕事に行ってまだ帰ってきていないらしい。
何故この人はこんな早い時間にいるんだろう。
「今日は仕事を休んだんだ。有給も使わないといけなかったし。それに舞ちゃんと1日でも早く仲良くなりたくてね。」
「…………、」
わざわざ休みを取るなんて……。
挙動不審になりながらも”お父さん”の横を通り過ぎ、リビングへと向かうと、後ろから着いてくる気配を感じた。
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