第25話

漸く解放された時にはボロボロで。


泣き腫らした顔で項垂れていると、何故か嬉しそうに微笑む大翔くんに抱きしめられた。



「こんな所で奪うなんて俺だって嫌だったけど仕方ないよね。優香が悪いんだから」


「……悪い……?」



「こんな事は俺だってもうしたくない。だから、もう二度と俺から逃げるだなんてしないでね。分かった?」


「……」


「優香」


「……は、い」



何故私が責められなければならないのか分からなかった。だけど、大翔くんに逆らわないようにした方が自分のことを守れる。


だから、私は希望を捨てることにしたのだ。





ーーー

ーーーーーー



「……っ!」



ばっと起き上がると夜中だと気づく。

最悪だ……。

嫌な夢を見た。もう寝る気も起きず、ぼんやりと暗闇を見つめる。


「優香?」


「あ……ごめん、起こしちゃった?」



大翔の声にはっと顔を向けると、眠そうな顔をした大翔が首を傾げていた。

どうやら起こしてしまったらしい。



「怖い夢でも見た?」


「えっ」


「魘されてたからね」


「あ……」



私が起きるよりも早く起きてたのね。


確かに思い出したくない思い出だ。

でも、忘れられるわけがない。

カタカタと小さく震える手に気づき隠すように握りしめる。



「優香」


「えっ、」



らしくもない優しい声音で呼ばれ驚くと、抱きしめられた。

そのまま背中を優しく撫でられる。



「怖かったんだろ。このまま抱き締めてあげるから、寝ていいよ。温もりがあった方が安心するでしょ」



怖い夢だなんで…原因は大翔だというのに。


馬鹿だなと自分でも思う。

抱きしめられて安心してしまうだなんて。



「大翔……」


「んー?」


「何でも、ない」



思わず名前を呼んでしまうが、次の言葉が見つからなくて目を瞑った。

離れて、だなんて不思議と言えそうにない。


きっと気の迷いだ。

そう自分に言い聞かせ、私は眠った。



ーー今度は夢は、見なかった。

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