第15話

「酷いのはどっちかな。俺はこんなにも優香だけを想っているっていうのに」



動けずにいると、近づいてきた大翔に抱きしめられてしまった。

首筋に顔を埋められ、甘噛みされるようにキスを落とされる。


擽ったさに身を捩るけど、動くなと言われているかのように強く抱きしめられた。



「俺から離れようだなんて許さないよ。絶対に」


「っ…離れようとだなんて思ってないよ」


「へぇ。嘘つくの?」


「嘘だなんて…そんな」



なんて言えばいいのか分からなくて声が小さくなってしまう。

いくら私が否定したところで、大翔は決して認めてくれなそうだ。

考え込んでしまったのがいけなかったのか。



「痛っ」



首筋に思いっきり噛み付かれた。

舌とはまた違う箇所に感じる痛みに眉根を寄せる。

今日は厄日なのか、と思ってしまう。

きっと噛み付かれた所から血が出ているんだと思う。

大翔はそこを舌で舐めていた。


その度に痛みが走り、思わず大翔の身体を突っぱねるが抱き込まれて離すことが出来ない。

漸く顔を離してくれたときにはもうぐったりとしてしまった。



「あー今日もいっぱい痕付けちゃったね」



満足そうに微笑んで大翔が首を傾ける。

涙をすくいとるように目にキスをされて反射的に目を瞑った。



「ねぇ。痛い思いしたくないでしょ? 」


「うん……」


「なら俺に言うことあるよね。俺、凄く傷ついたんだよ」


「ごめんなさい……」



何で謝らなきゃいけないのだとか、傷つけられたのは私の方だとか言いたいけれど。

結局は大翔には逆らえない。


何でこんなに私は弱いのだろう。



「ごめんなさい…ごめんなさい」



何度も何度も謝ってしまっている自分に心の中で嘲笑する。謝罪だなんて心にも思っていないのに。



「今日はこれくらいで許してあげる。優香も二度と離れようとか考えないでね」


「……はい」



そんなことは出来ない。

だっていつも思ってしまうから。逃げたい、って。

実行に移せないけれど、大翔から少しでも離れられている間は考えてしまう。



「優香?」


「……」



もう何も考えていたくなくて、痛みを忘れたくて。

現実から逃げるように目を強く瞑った。

寝てしまえば、きっと、この痛みも忘れられる。



「おやすみ」



眠りに落ちる前に聞こえてきた声は、何故か泣きたいくらい優しく聞こえた。

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