彼氏の支配欲【修正済み】

第1話

「優香、こっち!」


慌てて待ち合わせ先の喫茶店の扉を開けると、手を振る莉奈がいた。


なんとか着いたことにホッと安堵の息をつき、莉奈の向かい席に腰をおろす。



「ごめんね、待った?」


「全然!」



笑って答えてくれた莉奈に自然と笑みが零れる。


待ち合わせ時間よりも遅れているのに、怒ってなくてよかった。

久々に会えた親友の顔に安心してしまい、少し涙目になってしまう。



「優香ってば、なかなか誘っても会ってくれないんだもの。寂しかったんだけど?」



茶化すように言う莉奈に苦笑した。本当は私も会いたかった……。

けれど……ーー。



「まぁ、優香にはとってもかっこいい彼氏がいるから仕方ないんだけどさー」


「…………。ご、ごめんね…」


「いや謝ることないわよ。それにしてもほんと、よかったね! あんなかっこよくて優しい彼氏がいて! 羨ましいわ」


「そ、そうかな…」



莉奈の言葉に身体が強ばる。視線を下に向ければ、震える自分の指が見えた。


震えを抑えるようにぎゅっと手を握り合わせる。

その時、カバンに入れてたスマホが鳴り出しビクッとしてしまう。



「優香? 鳴ってるけど出ないの?」


「え、あ……、」


「あーもしかして、彼氏?」


「はは。……うん。そうみたい」


莉奈と話している間も鳴り響くスマホ。


出ないと店にも迷惑かかってしまう。出なきゃ、って思うのに。



「あたしに遠慮なんてしてないで早く出てあげなよ!」


「ごめんね」



止まってくれないかなと願っていたけれど、止まってくれない着信音に渋々と手を伸ばした。

横に指をスライドさせて、息を吐くと耳に当てる。



『優香』


「っ、大翔………、どうしたの?」


『出るの遅かったけど、何かあった?』



いつもよりワントーン低い声に思わず耳からスマホを離したくなるのを必死に我慢する。


チラリと莉奈を見るとニコニコと微笑ましいといわんばかりに笑みを浮かべている。



「今、友達といるから、だからーー」


『へぇ。早く帰ってきてよ』


「…え? だ、だって今日はいいって言ったよね……?」


『いいって言ったけど、何時間も許可した覚えはないから。意味、分かるよね』



そう一方的に言われ切られてしまった。呆然としながらスマホをおろす。

漸く許可してもらえたと思ったのに。何で……。



「優香? 彼氏とどうかした?」



心配そうな顔で見てくる莉奈に慌てて笑みを浮かべる。

せっかく久々に会えたというのに、しらけさせたくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る