第2話

「何でもないの。それよりも、なにか頼もうっ」


大翔の言葉が怖いけど、やっと莉奈に会えたんだ。早々に帰るなんてしたくない。


また電話が掛かってきても嫌だと思い、スマホの電源を落とした。

見たくないとばかりに素早くカバンに仕舞うと私はメニュー表を見た。


脳裏に怒った顔をした大翔が過ぎったけど、かき消すように首を振って気持ちを切り替えた。




ーーーー

ーーーーーーーー



「……。」



気づけば夕方になってしまっていた。莉奈と別れ、腕時計を確認すると19時過ぎだった。


(久々に楽しんだなぁ)


本当はもっと話し合いたかったのだけれど、流石にこれ以上はまずいかも、と思い莉奈に謝り別れた。

気分は高揚しているけれど、家に帰ってからのことを考えるとため息をつきたくなる。


スマホ、電源切ってることに気づいたかな……。

あれから大翔が電話をかけてきていないとは限らない。


視界に見えてきたマンションに無意識に眉根を寄せたのは無理もないかもしれない。

鞄から鍵を取り出そうとすると、その前に開いた玄関に目を見開く。



「…ーーお帰り。随分、遅かったね」


「大翔……」



何を考えているのか分からないほどの無表情に口を噤む。

多分、いや。かなりといっていいほど、大翔は怒っているのかもしれない。

無意識に後ずさりしようとしたけど、腕を引っ張られて中へと引きずり込まれた。



「痛っ!」



あまりの痛みに悲鳴を上げたと同時にバタン、と閉められた玄関の扉の音にはっとする。

まずい、と思った時には遅くて。

冷たい瞳が私を射貫いた。



「……会ってもいいとは許可したけど、こんな遅くまで遊んでいいなんて言った覚えはないんだけど?」


「…っ、で、でも、まだ19時だしそんな遅くないと思う」


「へぇ。優香にとっては早い方だったつもりなんだ」



冷笑をして抱きしめられている身体を更に強く抱きしめられ、息苦しさに眉が寄る。

苦しいけどそれを訴えられる程、私は強くない。言ったが最後、大翔に酷い目に合わされるんじゃないかって思うとどうしても口に出すことは出来なかった。



「なんで電源、切ったの」



やっぱり。あの後も電話かけてきてたんだ。

スマホの電源を切っていたことがバレてしまい、顔を俯かせる。

なんとかいい訳を考えようとしていると、嘆息が聞こえてきた。



「や、大翔?」


「言い訳はいらないから。とりあえず、玄関にいるのもなんだし、中に入るよ」



有無を言わせない声に、頷くと大翔の手が伸びて。


ーーガチャンッ


玄関の鍵を閉める音がやけに大きく聞こえた。

その音にビクッとすると大翔が微かに笑ったような気がした。

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