第29話

「ふふ。可愛いね絢子は。そんなんだから、閉じ込めたくなるんだよ。」


「ひっ! やっ、待って……尊くん!」


身体に手が伸ばされ、太ももをなぞった指にビクッと身体を跳ねらせるけど慌てて尊くんに訴える。


「うん?」


「こんな、所じゃ……」


「あぁ、いくらいいカーペットでも硬い? でも、僕は今すぐ絢子を抱きたいんだけどなぁ……」



どうしようかな、なんて態とらしく言っている尊くんに私から抱きつく。

こんな床で抱かれるなんて嫌だった。


本当は尊くんに抱かれるということも、この行為のことも嫌だけど、私には拒否権なんて無い。


床で抱かれるなんて、まるでそれだと無理やり犯されている錯覚に陥ってしまう。



「ご機嫌とり? 絢子も上手になったね。いいよ。酷くしようと思ってたんだけど、ベッドで優しく抱いてあげる。惚れた弱みって奴かな?」


クスクス笑いながら、尊くんが抱き上げた。

ここじゃないことにホッとする。


良かった……。




「あ、あの……矢口さんは……?」


「あのさぁ、絢子から他の奴の名前そう何度も聴きたくないんだけどな。彼女の事なんてどうでもいいでしょ? あぁ、でもそんなに気になるから聴いてくるのか」


「ご、ごめんなさい……尊くん、怒らないで……」


「別にもう怒ってないよ。ただ絢子から僕以外の名前が出るのが少し不快だっただけだよ。そう怯えないで?」



優しくベッドに降ろされ、覆いかぶさった尊くんが額に口付ける。


髪を一房手に取ると、弄んだ。



「彼女はもうその後は何もしてないよ。もう僕たちに関わらないように言い聞かせただけだよ。どう? 安心した?」


「……う、ん。聞かせてくれてありがとう……」


1回だけとはいえ酷い目にあった矢口さんに、申し訳ないと感じるけど謝ることは出来ない。

だけど、その1回で済んでまだ良かったと思う。


普段の尊くんなら徹底的に……相手を貶めるだろうから。


もう解放されたということを聞けただけでも、少しは安心した。

勿論、矢口さんにとっては酷い目にあったわけだしとても許してもらいたいなんて言える状況には無い。

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