第6話
「やっ……自分で出来、」
「ほーら嫌がらないで。今さら恥ずかしがることないよ? 絢子の身体は全て見たというのに」
そういう問題じゃないのに。
私が着替えようとするけれど、尊くんに無理やり手を止められて着替えさせられてしまう。
スカートまで尊くんの手で穿かせようとしてくるので、慌てて止めようとしたけれど。
――手錠でも嵌められたい?
と冗談に聞こえない発言に、しぶしぶ抵抗するのを諦めた。
漸く着替え終えたときにはもう疲れ切ってしまい、羞恥と疲労感でぐったりしている私とは反対に尊くんは上機嫌で鼻歌を歌っていた。
その後も出された食事を食べようとしていたのに、尊くんの膝の上に乗せられて、尊くんの手で食べさせられてしまう。
とても美味しそうな朝ごはんを味わう余裕もなく、口に運ばれるがまま早く膝から降りたい一心で食べるしかなかった。
執事たちが見つめる中食べるのはとても落ち着かないし、ましてや尊くんに食べさせられている状況だ。
こんなことがこれから先続くと思うと、息がつまりそうで。
泣きたくなった。
「はぁ。絢子と教室が離れているのがほんと残念だよね。まぁ、今からクラス替えしてもいいけど手続きとか面倒だから、絢子も寂しいだろうけど諦めてね」
「……」
そうだ、教室では尊くんとクラスが違うから離れられるんだ。
きっと唯一、離れられる時間だ。
常に囲まれている尊くんが休み時間とはいえそう頻繁に来れないだろうし……。
「あ、あの、学校ではあまり話したく無いんですが……」
「何で? 何でそんなこと言うの? 絶対嫌だよ。もう絢子は僕のものなのに」
「っ、尊くんの周りにはたくさん人がいますし、」
「あんな奴らどうだっていいよ。絢子だけが大切なんだよ? それなのに酷いよ」
「え!?」
私のことを車の中で向かい合わせにして、抱きしめてきた尊くんは肩を震わせていた。
もしかして、泣いている……?
そんな筈……。
だけど、肩に濡れた感触で尊くんが泣いていることに気づく。
まさか泣かれるとは思わず、慌てて声を上げる。
「ご、ごめんなさいっ。尊くんに近寄った女の子たちがその、虐めにあっているのを見てきたから……それが怖くて……」
「そんなの僕が絶対許さないよ。だから、傍に居て」
「っ……で、でも、」
尊くんは注目慣れしているだろうけど、目立たないように生活していた私にとっては苦痛そのものでしかない。
それでも尊くんに逆らえる筈もなく、今後の学校生活のことを想像すると息がつまる想いになるが頷く以外無かった。
学校でも平穏な日々が送れないことに何とも言えない感情がこみ上げ、涙が溢れそうになる。
「ふふ。良かった。家でも学校でも一緒に居られてとても嬉しいよ」
「っ……!」
先ほどまで泣いていたのが嘘のように、満面の笑みを浮かべる尊くんに唖然とする。
もしかして騙された……?
いや、でも尊くんは泣いていたと思う。
だけど、もしかして私に頷かせる為の演技だったとしたら……――。
もう取返しのつかない事案に、途方もないような不安を抱えた。
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