第16話

「そうでしょうか」


「当たり前だ」


俺は呆れて言葉を続ける気持ちが失せた。


「兄は父が養子に迎えた人で、私が生まれてからずっと側にいてくれて、いつでも守ってくれました、いくら血の繋がりがないと言っても兄は私を妹としてしか見てくれなくて、だから私は兄を思いながら生きていこうと決めたんです」


「お前おかしいぞ」


「どこがおかしいんですか、それになんで怒ってるんですか」


「別に怒ってねえよ」


「だって、怖い表情してますよ」


「当たり前だろ、好きな女が他の男を好きだって告白してるんだぞ」


「私ですか」


「他に誰がいるんだよ、よく三十六年間生きてこられたな」


「だって、好きって言われたの初めてだし、キスだって、抱きしめてもらったのも初めてで、

頭の中、ごちゃごちゃで分かりません」


俺はまゆの手を引き寄せた。


顔が急接近した。


「まゆ、俺を好きになれ、義兄のことは忘れろ、俺が忘れさせてやる」


俺はまゆの唇を奪った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る