第49話

「凛、おはよう」


彼は私より早起きしていた。


「颯、今日は具合は大丈夫?仕事行ける?」


彼の顔色が悪い事がちょっと気になった。


「大丈夫だ、予約入ってるから仕事行かなくちゃならない」


「今日祐くんがアパートに泊まりに来るから、夜一人で大丈夫?」


彼はふっと笑い、「子供じゃ無いんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」と、私を見つめた。


「だったらいいけど、薬飲むの忘れないでね」


「ああ」


彼は支度を整え、仕事に出かける準備をした。

鍵は彼が持っていかないと、部屋に入れないので一緒に出る事にした。


「颯、合鍵作って置いてくれる?」


「ああ、そうだな」


彼から一緒に暮らさないかと言ったのに、なんか気乗りがしない様子が気になった。

彼がまだ私の気持ちに納得していないことなど知る由もなかった。


昨夜彼が自分の欲望を我慢していたことも、自分の気持ちを処理し切れないで、自分自身を責めていたことも、私は全く気づけずにいた。


この後二人を引き裂く出来事が訪れるなど全く予想していなかった私は、祐くんとの時間を楽しみにしていた。

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