第42話

次の瞬間、理樹さんは私の手を引き寄せ「行くぞ」そう言って、その場から離れようとした。


「理樹、待て」


副社長は思わず、急な理樹さんの行動に慌てた。


「俺は亜紀との約束を果たす」


そして私の手をギュッと握り「亜紀、結婚しよう」と理樹さんの唇が動いた。


一瞬、全ての時間が止まったかのように、周りの音が消えた。


理樹さんは何を言い出したの?


その静寂を打ち破ったのは副社長だった。


「理樹、何を無責任な事を言ってるんだ、お前は婚約者がいるだろう、東條ホールディングスの社員を路頭に迷わす気か」


副社長の言葉で私は我にかえった。


理樹さんの手を振り解き、副社長の元に駆け寄った。


そして、私はとんでもない事を口にしてしまった。


「私は健さんが好きです、理樹さんのことは信用出来ません」


「亜紀」


「先に帰っています、お仕事終わったらすぐに帰って来てくださいね」


そして私は理樹さんに背を向けた。

理樹さんは何を考えたのか、私の背に向かって叫んだ。

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