第30話
「わかった、秘書の話は白紙に戻そう、その代わり僕のマンションでこの部屋のハウスキーパーの仕事を頼みたい、それなら問題ないだろう?」
「それは会社として私を雇い入れてくれるって事でしょうか」
「いや、僕個人と契約だよ」
亜紀の表情が変わった。
やはり、理樹が東條財閥の御曹司だと言う事が関係しているんだとピンと来た。
「それなら引き受けてくれるよね」
「でも……」
「理樹には亜紀は会社を辞めたと言っておくよ、問題ないだろう」
副社長はどうしてこんなにも私を引き止めるの?
理由が全くわからない。
もしかして理樹さんも私の父の事を知ってて、はじめから騙すつもりだったって事?
副社長も理樹さんと苦楽を共にして来た親友だから、今度は副社長が……
この時の私は冷静な判断が出来る状態ではなかった。
まさか、副社長が真っ直ぐな気持ちで私を受け入れようとしているなど、ましてや私を心配してくれていたなんて思いもよらなかった。
「亜紀?大丈夫?」
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