第27話

もちろん、父が悪い事は百も承知だ。


目をかけて貰っていたのに裏切ったのは父だからである。


理樹さんが東條財閥の御曹司だなんて……


理樹さんのお父様は私のことを知ったら反対するに決まってる。


そもそも、理樹さんは私の父の事を知らないのだろうか。


理樹さんとの結婚は出来ない事は分かりきっている事。


私が昔、裏切られた男の娘だと言う事を知ったら、息子の会社で働いているなんて知ったら、考えただけでもゾッとする。


私は理樹さんの側にいてはいけないと自分に言い聞かせた。


「私、副社長の秘書は辞退させて頂きます」


そして、出口に向かってあゆみを進めた。


「亜紀、ちょっと待って、何でそうなるの、僕は御曹司でもなんでもないよ」


「どうしよう」


「亜紀、理樹の事は忘れろ、僕を好きになってくれ」


副社長は私を抱きしめた。


「少しだけ、このままでいて」


亜紀は抱きしめた身体を震わせていた。


思いもよらぬ真実に打ちひしがれたのだろう。


理樹は昔からそうだった。

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