第九章 幸せの陰に潜む罠

第49話

次の日産婦人科の検診に出かける為、マンションを出た時、週刊誌の記者が姿を表した。


「奥様、お久しぶりです、唯香が緊急入院したとのスクープがありまして、何かご存知かと思いまして」


「知りません」


「冴木社長はご在宅ですか?」


「仕事に行ってます」


「おかしいですね、会社には出社されていませんよ、冴木社長は現在行方が不明なんですがね」


私は動揺を隠すのに必死だった。


「何かご存知ですよね、教えてくださいよ」


記者は私の腕を掴み、詰め寄った。

その瞬間私の腕を掴み反対側に引っ張られた。


「俺の大事な妻に触れるんじゃねえ、それに誰が行方不明だって?」


「冴木社長!何処に隠れてたんですか?」


「隠れてなんかいねえよ、出張だ」


「唯香が緊急入院したのご存知ですよね、冴木社長の子を中絶したって噂は本当ですか」


「そんな事実はない、二度と妻に近づくな」


「わかりましたよ、では、また今度ゆっくりと」


週刊誌の記者はその場を後にした。


「雫、大丈夫か」


「峻」


私は人目を憚らず峻に抱きついた。

峻は驚いた表情を見せたが、峻も私を強く抱きしめてくれた。

峻と見つめ合い、涙が溢れて止まらなかった。

その頬を伝う涙にキスをしてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る