第112話

由梨は部屋の中を見渡して、亮二に言葉をかけた。


「あのう、私はどうしてここにいるんですか」


「道に倒れていたんだ、どこもなんともない?」


「はい」


「そうか、名前は?」


由梨は黙ったままだった。


「俺は道重コーポレーション社長の道重亮二だ」


「名前は覚えていません」


「そうか」


由梨は一週間ほど、亮二のマンションでお世話になった。


「美希、俺は仕事で、アメリカへ行く、一緒に行くぞ」


名前を覚えていないとのことで、亮二は美希と呼ぶことにしたのだ。


由梨は亮二と共にアメリカにいた。


そして、五年の歳月が流れた。

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