第38話

健吾は総務部のドアを開き、大声で由梨の名前を叫んだ。


「由梨、由梨」


由梨は健吾の声に反応した。


(うそ、西園寺さん)


健吾は由梨の姿を見つけると、由梨に近づいた。


「由梨、引っ越しなんて聞いてねえぞ」


「ごめんなさい、社長に呼ばれて、社長のマンションへ引っ越すからと言われて……」


「由梨、こい」


健吾は由梨の腕を掴み、総務部から連れ去った。


咄嗟の出来事に由梨は健吾の言うなりについていくしかなかった。

エレベーターは使えず、裏の非常階段をつかい、ビルの外に向かった。


壁を軽々と越えた健吾は、由梨に手を差し伸べた。


「由梨、飛び降りろ」


「無理です」


「俺を信じろ、俺についてこい」


由梨は思い切って健吾の腕の中へ飛び込んだ。


健吾はスマホで裕也に連絡を取った。


「おい、ビルの裏に車を回せ」

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