第18話

車から出てきたのは、健吾の側近、渡辺龍だった。


「自分たちにまで心遣い頂きありがとうございます、若頭がいつもご迷惑を掛けてすみません」

「いいえ、迷惑だなんて、私のような女に優しく接して頂いて、西園寺さんにはなんてお礼を言ったらいいかわかりません」


「五年前の御恩に比べたら、若頭はその時から夕凪様に一途なんです」


(えっ、五年前?)


由梨は全く覚えていない。


健吾に初対面ではないと言われたが、何があったのか記憶になかったのだ。


「あのう、五年前何があったのでしょう」


「夕凪様の記憶にはないことでしょうか」


「すみません」


「夕凪様は若頭にとって命の恩人です」


(命の恩人?この私が西園寺さんを助けたの?)


「私が西園寺さんを助けたなんてありえません」


「詳しいことは私の口からは申し上げられません、若頭にお聞きになってください」


私は部屋に戻った。


健吾は欠食児童のように、食事を口に運んでいた。


「うまい、由梨の食事はすごくうまいよ」


「ありがとうございます、外に待機している組員さんにもおにぎりの差し入れしました」


「悪いな、あいつらにも」


「あのう、私は西園寺さんと初対面ではないと言ってましたけど、五年前に何があったのでしょう」


「由梨が俺の命を救ってくれたんだ」


由梨はキョトンとした表情を見せた。

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