第15話

一人一人の顔を確認した彼は、私を見つけると顔を綻ばせながら近づいてきた。


「名前を教えてくれ」


えっ私?なんで私だけ名前聞かれるの?不思議に思い、次の瞬間リストラが脳裏を掠めた。


「藤城美希です」


彼の口からどんな言葉が発せられるのか、ドキドキしながら待った。


「明日から俺の秘書な、よろしく」


えっどう言う事?秘書の経験無いんですけど……


社長命令は絶対だ、経験ある無しに関わらず、選択肢は一つ、やるしかない。


次の日から彼の秘書の仕事が始まった。


朝から洋服選びに手こずった。


秘書ってやっぱりスーツだよね、昔のスーツを引っ張り出し、鏡の前で悩んだ挙句、

淡いベージュのスーツを選んだ。


なるべく若く見えるようにと化粧も工夫した。


だって、社長は二十六歳の若きイケメン御曹司で、隣にいるのが冴えないアラフォー秘書じゃ滑稽だと自分に喝を入れた。


慣れないヒールを履き、背筋を伸ばし、鏡の前で笑顔の練習をした。

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