黒髪に見惚れて

東さな

黒髪に見惚れて

【黒髪に見惚れて】


去年の秋、君と僕は出会った。


大ホールで、ギターを弾きながら歌う君がいた。黒くてまっすぐなロングヘアを、とても美しいと思った。周りのベーシストやドラマーが霞んで見えた。


君の歌声は透き通るようで、でもどこか力強かった。


演奏の後、君はその透き通る声で名前を言った。


あまねゆいか。


どんな字を書くのか分からなかったため、ひらがな6文字を脳内に記録した。


『……あのっ』

『はい……?』

『あ、えっと……』


ライブが終了して、僕は思わず君に声をかけた。しかし話す内容は決めていない。何を言えばいいのか悩む僕を見て、君は微笑んで口を開いた。


『軽音、興味あるんですか?』

『聴くのは』

『じゃあ、今度のライブも来てください』

『はい』


短い会話だった。でも僕はもう、君の虜になっていた。


次に会ったら絶対連絡先を聞こうと決めて、大ホールから出た。


次の機会は意外とすぐにあった。


僕が乗ったエレベーターに君がいた。2人だけの空間に緊張した。


『こんにちは』

『こんにちは。久しぶりですね』

『はい』


久しぶり。と言うほど日にちは空いていないのだけど、君がそう言ったので僕も合わせた。


『……あの、連絡先って聞いてもいいですか?』


勇気を出した。心臓がうるさかった。


『はい』


コードを読み取り、追加。頬が緩むのを感じた。


その日から僕たちはよく話すようになった。交わす言葉は多くなかったが、短い会話をたくさんした。


君と会えるだけで嬉しかった。話せるだけで幸せだった。


でもそのまま月日は過ぎて、君に何も伝えられずに高校を卒業した。


だから今、僕の隣に君がいることが夢のようだ。僕たちが再会して1年半。2人で手を繋いで歩きながら、この瞬間がいつまでも続けばいいのにと思う。


左手の薬指。君のはもう空いていない。他のやつに埋められてしまったそれは、僕がいちばん見たくないものだ。


街灯の明かりに、君の指輪が反射した。



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