関東ふれあいの道#2 神奈川県④~⑥

 はい。という訳で、かっきり一週間後。

 前回の宣言通り、今日は大楠山じゃ。


 因みに、この前お土産として買ったわかめ入りこんにゃくは三杯酢醤油1:酢1:味醂1で、ところてんは蜜豆にして食べた。

 美味しかった!!



 早朝には小雨がパラついておったが、まあ、大丈夫じゃろう。


 逗子駅より横須賀市民病院行きのバスに乗車、大楠芦名口にて下車。


 関東ふれあいのみち制覇へ向け第二回、【④佐島・大楠山のみち】、スタートじゃ!!



 道標に従って山の方へ進めば、すぐに登山口。

 道路脇には、小学生が描いた「前田川の魅力!!」という微笑ましいポスターが張られておる。


 登山道とはいえ、「大楠山登山道につき一般車両の通行はご遠慮ください」という看板を、市がわざわざ立てる程に舗装されておる。

 ……ワレ等の住んでおる辺りより、余程道が良いのではないか……?


 しかし、湿ったコンクリートの坂道。滑りやすズズズ……、いことは滑りやすっ……っと危ないが、北三中の昇降口よりはマシじゃろ。

 あんなつるつるにする必要が、何故あるのか理解できん。コンクリート剥き出しでザラザラさせておけばよかろうに。



 ……ジャン、……ピシ、ピキ……。


 何ぞ、左手の相棒から嫌な音が、


 ベキッ!


 おぉ……! 左子よ……。右美より華奢じゃったから、心配しておったのじゃが、やはりか……。


 グレネードランチャーと違い、笹竹を伐り出しただけの杖ゆえに、左子と右美の違いは一目瞭然。左手に握ったときしっくりくる、細い方が左子、右手に握ったときしっくりくる、頼もしい太さがある方が右美じゃ。

 その左子の下から二番目の節まで大きくヒビが入り、その半分が折れてしまった。このまま使い続ければ、もう半分も折れてしまうのは時間の問題であろう。


 今まで、ありがとうのぉ。お主が杖としての役目を全うするまで、もう少し使い続けてやるからな……っ!



 ……おお、この階段を登ったら、もう頂上か。よし、行くぞ……ベキッ!


 のぉぉぉぉ! 左子ォォ!

 折れてもなお、繊維がつながって、ぶらんぶらんしておる。しかし使い物にはならぬ。介錯してやろう。

 肥後守を押し当て、捻りながら千切り取る。


 ……邪魔じゃな。割れた竹は危ないし……たごさくんがしょっちゅう手を切っておる……取り敢えずリュックサックに突っ込んでおくが、この微妙な長さで残った方、一日ずっと持ち歩くのかの……?



 ……着いた。

 三浦半島最高峰、大楠山。休憩所と螺旋階段の展望台は、少し前から休業しているらしく使えないが、写真に写す必要があるのは、展望台の外観じゃから、撮影には何ら支障ない。


 うむ……撮影に適当な台などはないな……。ちょうど、その前で記念撮影しておるペアが居るから、彼らに撮ってもらおうかの……。


「あの、すまぬが写真撮ってもらえぬかの?」


 快く了承してくれた。しかし……、


「あ、縦ではのうて、横で展望台が収まるようにお願いします」


「これで大丈夫ですか?」

「はい……ありがとうございます……」


 ……申し訳ないが、微妙じゃ。

 期待するから失望するのじゃ。

 自分で撮ろう。



 彼らが去るまで、ベンチに腰掛け水分と糖分行動食のミニ羊羹を補給。

 ……ペットボトルの茶はあまり飲まぬが、おーいお茶はクセがなさすぎると思わぬか……? 故に万人受けして売れるのであろうが、ただの風味付きの水じゃろ。

 伊右衛門の方が好き(あくまで個人の感想です)。


 件のペアを探すと、だいぶ離れたようじゃ。流石に頼んだ手前、目の前で撮り直すのは失礼じゃからな。

 このベンチに立てて……うむ、枝が少々邪魔じゃが、なかなか良いな。



 さ、下りるか。


 階段の下から、来たのとは反対に。


 しばらくすると、巨大な白い施設が現れた。

 大楠山レーダー雨量観測所。

 その陰に隠れるようにして、同じように白い展望台があった。


 ……山に展望台があって、登らないという選択肢はあるまい。

 少し曇っておるが、相模湾と、綺麗な弧を描く海岸から飛び出た江の島がよく見える。

 房総半島に……伊豆半島もうっすら見えるの。


 でも、すぐ飽きるんじゃよな。

 某放置ゲーの冒険者も言っておったが。




 岩……いや、粘土か?

 ……っとぉぉ!?

 案内看板にも滑りやすいと書いておったが、確かにこれは注意せねば。



 ……もう終わり?

 うむ……ちょっと歯応えが、しかし、神奈川の後半は本格的に山歩きじゃ。

 おいしいものは最後に味わうために残しておく。



 お?

 直売じゃ……って防犯カメラの量すごいな!?


 プレハブ小屋の窓を割られたというのに、何の対策もしておらぬたごさくんのところが、不用心すぎるといえばそうじゃが。ああ、謎の古びたポスターやら、不気味な顔の料金箱やら、見られておるような気がするからあれも対策と言えば対策か。


 そういえば、ハゲオヤヂが冬瓜食べたいなどとほざいておったな。

 去年作りすぎて懲りたのではないのか? そして、現在進行形で黒ゴマの脱穀に四苦八苦しておる。


 姫とうがん、買って帰るか。多少皮に傷がつこうとも、すぐに傷みはせぬであろう。

 ……しかし、10円玉が足りぬ。なら、このシシトウと合わせ、400円っと。



 巴塚があるという正行院前には、巴御前に関する真新しい解説看板があった。

 鎌倉殿の時に作られたのじゃろう。軽く読んで、何か歩くエネルギーになったような気がしたので、それが消えぬうちに進む。


 前田橋バス停から国道を北へ。

 道路からは時折、海でサーフィンを楽しむ者らが見える。

 民家も10件に1件以上のペースで、庭にサーフボードが置かれておったり、進次郎のポスターが(以下略)。

 「思いが伝わらないときもある」……いや、何でもないわ。



 んん? 何やら物々しい……あ、御用邸か。

 葉山町に入ったという感じがするのぉ。そして、横須賀市から出たというのも、進次郎のポスターを見かけなく(以下略)。


 それを通り過ぎれば、一色海岸バス停。ゴールじゃ!!



 逗子駅へ戻り、横須賀線で一駅、鎌倉へ。


 ……めっちゃ混んでおるのぉ。


 若宮大路を海岸方面へ。途中の公園で弁当を広げ後半戦のエネルギーを補給し、由比ヶ浜から、【⑤稲村ケ崎・磯づたいのみち】スタートっ!!


 うむ……これぞ湘南、という感じの海じゃ。


 稲村ケ崎の碑で写真を……、ベンチにスマホを置いて写真を撮ろうと思ったんじゃが、遠すぎるな。仕方ない、自撮りにしよう。

 あまり長くはない腕を目いっぱい伸ばして、何とか、ワレの胸より上と銅像を同時に収める。



 七里ヶ浜と江ノ電に挟まれた国道を歩く。


 走行音に線路の方を見ると、ラッピング電車が。

 ベビースターラーメンと高雄メトロ……ってどこじゃ? 聞いたことないと思い調べてみると、台湾の鉄道らしい。


 ……リュックサックを漁って、底の方で粉々になったミニラーメンを取り出す。

 ベビースターではないが、非常食として持ち歩いておってよかった。


 ぼりぼり……。



 ん? 踏切に人集ひとだかり……。

 ここが、かの鎌倉高校前の踏切か!


 未だにこんなに人が多いとは。



 ……スケボーで歩道を、それもかなりスピード出して走っておる輩がおる。

 公道をスケボーで走っていいのは、見た目は子供な名探偵だけじゃろ。


 思いっきり道交法違反らしいが。




 ……ジャン、……ピシ、ピキ……。


 ……右美、お前もなのか……!


 5つほどのヒビが入り、一つ、また一つと折れて、地に接す部分が減っていく。

 それによって、より負担がかかり、遂には右美の最も下の節は、左子と同じようになくなってしまった。


 ……使い物にならなくなると、途端に邪魔じゃな。本当に何の役にも立たぬ、ただの短い棒じゃ。



 江の島の目の前、弁天橋に到着。ここで直接、次のコースと接続じゃな。という訳で、ここからは【⑥湘南海岸・砂浜のみち】、スタートじゃっ!



 ……と、その前に。箸休めがてら、江ノ島駅の方をぶらついてみるか。


 ……人多い。空気悪い。食べ物の匂いが混じって気持ち悪い。


 戻ろ。


 ……道迷った。ここ何処じゃ? まあ、川沿いに海の方へ行けば辿り着くであろう。



 出先で観光案内所などがあれば、特に地図に困っておらずとも、寄ってしまうよな?

 少なくともワレはそうじゃ。結局、観光センターを出て3歩進んだ後には、バニーガール先輩のフィギュアが飾られておったことしか覚えておらんかったとしても、な。


 えのすい新江ノ島水族館など素通りして、このコースの撮影ポイントである聶耳ニエアル記念碑を探す。

 案内板によると、湘南海岸公園の西端の方にあるようじゃな。



 ……おい! 公道をスケボーで走るな!

 危ないのぉ……。というか、「スケボーでの走行禁止」という看板の、目の前でやるとは。



 ……少し、公園内も歩いてみようかの。


 ん? ヒマワリの花壇じゃ。

 もうすべて花は散っておるが、「ご自由にお持ちください。10月ごろ片付けます」という、小さな看板が立てられておる。

 お土産と言っては何じゃが、種がしっかり熟しておるものを幾つか、肥後守で切り取ってリュックサックに入れた。



 ……聶耳ニエアル記念碑、おお、アレか。

 ふむ……義勇軍進行曲、中国国歌の作曲者か。元は映画音楽らしいな。


黒木赤木「♪起来! 不愿做奴隶的人们!」


 この場におらぬ筈の共産趣味者が、しゃしゃり出てくるな。


 そういえば、湘南の名も中国の地名が由来であったな。聶耳ニエアルの出身地とは異なるようじゃが。




 辻堂海岸、太平洋岸自転車道サイクリングロードを進む。

 右には海。左には砂防の為の松林。振り返れば江の島が遠のいて、少し小さく見える。



 ♪あしーたはーまーべーをー、さまーよーえばー。

 音楽の教科書にも載っておる、「浜辺の歌」は辻堂海岸を歌ったと言われておるな。歌碑も設置されておる。



 砂浜には、竹で作られた柵が立てられておる。砂浜の保全の為らしい。

 深刻な砂浜の侵食への対策として、砂を運んでくる養浜なども行われておるらしい。


 ……うーむ、やはり使われておる竹は真竹のようじゃのぉ。

 たごさくんちの孟宗竹では作れそうにない。



 ……単調じゃ。

 時折振り返ると、江の島がより小さく見えるようになっておって、どれだけ歩いたかを感じる事が出来るが、ずっと同じ景色。


 折れた元相棒どもも邪魔じゃしのぉ。




 ……。


 ……。


 ……はへぇ。


 ウッドデッキと、その先にT字の半島のような構造物。ヘッドランド、或いはTバーと呼ばれるコレも、砂浜の侵食を防ぐために作られたものらしいな。

 その付け根辺りでは、爆音で音楽を流す輩などが居る。



 さらに視線を沖に向けると、茅ケ崎市のマスコットキャラクターのモチーフにもなっておる烏帽子岩。このサイクリングロードの車止めも、烏帽子岩の形じゃな。

 ……意外と小さいのぉ。


 看板によると、戦後すぐは米軍の射撃訓練の目標物にもなったそうじゃ。市民運動で中止になったというがの。


 ……射撃訓練をしておったということは、演習場があったということじゃよな。斯様に広大な土地が返還されると、大抵が公園として整備される。前回通り抜けたソレイユの丘もそうであったらしい。

 調べてみると、ふむ、やはり……。一部が辻堂海浜公園となっておるようじゃ。


 そういえば、先ほどは「砂浜で旧日本軍のライフル弾が発見されました。見つけても触らないで下さい」という趣旨の文章を写真とともに掲示した看板があったのぉ。


※なお、ワレが歩いた約半月後、この付近に米軍機が不時着した。またか以前も神奈川県内で米軍機の不時着があった




 サザンビーチちがさき。漁港側には、茅ヶ崎サザンCという、視力検査のアレのような形のモニュメントがある。

 普段はあまり聴かぬが、サザンオールスターズの曲を聴きながら歩くというのも、なかなか良いのではないかの……と思ったが、もうスマホの充電がない。できぬわ。



 いつの間にやら日はだいぶ傾き、振り返ると江の島はとても小さく見えた。

 こんなに……、歩いてきたんじゃな。

 コースのどこからも見えるランドマークがあると、その道程を実感できる。


 あと、ちょっとでゴールじゃ。

 特に時間的な制限はない。それでも、段々と暗くなる空を見ておると、何故か心が。(起眞・蝦蟇帰の方言、「せく」が「せぐ」と濁る)


「ははっ、はははっ!」


 身体を低く、短くなった相棒を突いて走る。


「はぁっ、ゴールじゃぁ……っ!」


 ワレはゴールの看板を見て、歩道橋の前で崩れるように倒れた。




 体を引きずるようにして、バス停に向かう。


 んぉ? あれか?


 最後の力を振り絞って、小さなロータリーに停車しておるバスへ向け、走った。

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