覚書と講評とスナック

朝吹

MEMO

~犀川ようさん主催の自主企画~

『【既作品不可】エッセイを書きましょう2024』のMEMO


 こちらは講評ではなく、ただの個人メモです。

 選者の方には何の影響もありません。作品を読んだ人が独りごとを云っているだけです。企画主さまからの許可はもらっています。


 ※敬称略。

 ※上からエントリされた順。連載ものは完結時。


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◆犀川よう/エッセイを語るエッセイ

 もはやほぼ説明不要な方。神社がいつかできる人である。犀川神社。名もいい。

 パワースポットとして境内にはいつも大勢の人がいる。そこを踏み越えてお参りに行く場合、お賽銭箱に入れる金はケチってはいけない。

 毎日が縁日のようなその賑わいぶりを、山奥の小さな神社にいるわたしは饅頭を食いながら「わーすごい」と眺めている。

 ぼけーっとしているとたまに雷が落ちる。その時はきゃーと逃げまどいましょう。

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◆dede/どこからが痴漢でしょうか?

 一部の変態紳士諸君のロマン、電車の中での痴漢行為。あれで何食わぬ顔をして出社して妻子持ちだったりするのだから怖い。妄想とリアルの境目を失った頭でウキウキと電車の中に乗ってくるおじさん。乗らなくてもいいのよ? そのままホームから線路(略)

 どこから痴漢でしょうか? であるが、老若男女問わず他人に不適切な接触をされたら痴漢でいい。痴漢は犯罪である。もっと捕まれ。

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◆大田康湖/「歌会」へ向かう日のこと

 武家のご妻女のような方だと常々。我々が泥だらけになって遊んでいて、ふと見ると、茄子色をした桔梗の花が凛として一輪挿しに咲いている。著者はそんなイメージだ。

 しかしご趣味はなかなかディープである。若い方から見ると古典にみえるようなあたりを長年継続して愛好されている。同好の士と繋がっておられるが、その趣味が人生であり、生き甲斐であり、彼女の色褪せぬ青春なのだろう。 

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◆青切/ア、秋

 「ア、秋」をタイトルにもってくるとはセンスがいい。凡人なら「太宰治と青空文庫」なんかになるところだ(これでも別にいい)

 太宰治は銀座の『ルパン』で撮られた写真が有名ですね。何度も女の子と自殺未遂しやがってうぜえと嫌われつつも、なぜか絶大なる人気をいまも維持している。

 太宰は好き嫌いが分かれる作家だが、物書きならば太宰的要素を持っていなければならない。大がつくほど嫌いでも理解できないといけない。背中についた毛虫みたいな奴である。

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◆未来屋 環/ライチを食せば世界が傾く

 怪獣か妖怪の卵のような外観を裏切り、ライチは美味しい。少し攻めつつもおしゃれさを前面に売り出しているKIRI〇の世界のKitche〇シリーズのライチは、わりと美味しい。爆発的に売れないのもちょうどいい。「あたし、あの国のライチが食べたいの」美妃に耳もとに囁かれると、「よーし、王さま頑張っちゃうぞ!」と世界は傾く。ハニトラは永遠である。傾く。

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◆縦縞ヨリ/もいちゃんのクリームソーダ

 仲の良い女性が二人であれこれ喋りながら良心価格の美味しいごはんを食べている。待望のクリームソーダを注文する。ただそれだけの平和な一幕。誰も劇的に泣き出したりはしないし、マスターと恋に落ちたりもしない。老婆になってもこの二人はこうやって、「この店にする?」「どうする?」などと云いながら、どこかの街のレトロなお店で美味しいランチを食べていて欲しい。かわいい挿絵が似合いそう。

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◆月詠 透音/堂々とエロ本を買えないタイプ

 めんどくさいから男子はもうみんな十六歳になったら先生に引率されて国営の風〇に行ける国になればいい。だいたいエロ本を堂々と買えるか・買えないかで、男子諸君は人生に大きな影響でもあるのか。ないよね。実はないのよ。そこはよく分からない。

 堂々とエロ本買えたんだぜーって格上なの? 武勇伝なの?

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◆@zawa-ryu/眼鏡デビューはちょっとアブナイお薬で

 両眼ともに視力が極端に低く、ほとんど見えてないようなわたしの周囲にはなぜか驚異の視力を維持している者どもが多い。1.5とか、小学校低学年のような視力を誇られる。当然ながらやつらは眼鏡に憧れを抱き、伊達眼鏡なんかをおしゃれにかけ

ている。そこに現れたこの劇薬。なんなら差し入れたい。

 幼児の誤飲並みに想像すると怖ろしい話。失明しなくてなによりでした。

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◆諏訪野 滋/唯物論に吹かれて

 植物人間状態の身内に数ヶ月付き添ったことがある。最期のほうはこちらも疲れ切っていたが、枕元で、歌(童謡)をうたうことだけは頑張った。聴こえていると医者が云うからそうした。そんなことを想い出した。

 親しい者の死に直面した時の心の動きは医師の立場であっても我々と変わらない。そこに家族形態への憧憬が挟まることで、人生の半分を過ぎた男性のやりきれなさと、物悲しさが増す。  

 現役の医療関係者、カクヨムにちらほらいらっしゃいますね。いつもありがとうございます。

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◆猫部部員 茶都 うなべ/消えてしまいたい私の戯言

 猫部の部員、多すぎなんである。かえってなかなか名前を憶えられない。あの人もこの人も猫部。そのうち犬部や鳥部も出来るのかな~と待っているが、その気配はない。猫一強。

 消えてしまいたい、どこかに行きたい。これはわたしも考えることで、なんなら一日百回くらいは、消えたい、どこかに行きたい、と漠然と想いながら生きている。それを想うために生きている。消えてしまいたい。どこかに行きたい。

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◆ぬりや是々/揚げ物屋の娘

 昭和の回想にコロッケはよく似合う。地域密着の商店街というものがまだ生きていた時代だからだろうか。魚やさん、肉やさん。

 実に美味しそうなコロッケである。揚げ物屋の娘はおませさんで、男をみると自ら口説きにかかり、引っかかると、家に招いて評判のコロッケを食べさせる。その昔、団子屋や甘酒屋の娘も同じことをやっていたのではないだろうか。正しく男の掴み方を知っている。

 講談師が釈台を張り扇でぱちぱちやりながら語って欲しい一篇。

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◆真衣 優夢/実は私、病気で読字困難です。

 出来れば想い切って数年の間、読書からも執筆からも離れているほうが、ある日突然回復しているのではないかと想うのです。

 でも書かずにはいられない気持ちも、すごく分かります。

 丁寧に文字を綴っている様子が覗えて、頑張って……! と誰もが応援したくなりますね。この企画がリハビリの一助になったのならいいのですが。

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◆梵ぽんず/〝キラキラネーム〟で悩む生徒の話

 プラダちゃんとかセリーヌちゃんとかだろうか。極端な✨ネームは親がバカなのだ。これでご本人が名前負け(自粛)

 親に踏みにじられた人権を大人になって改名することで取り戻せるのはいい制度ですよね。

 これを読んでいて「わたし、セイラちゃんっていうの。セイラちゃん」と電話をかけてくる客がいたことを想い出した。「赤が好きなお兄さんいますか~」と返してやればよかった。

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◆あるまん/折角犀川魔女王様が

 どんなタイトルだ。こちらでは「魔女王」と呼ばれているご様子。犀川女史はどんな強い星の許にお生まれになったのだろう。そのうち天界から降りてきて喰われそうである。

 ロリコンでロリコン画像をいっぱい保存しているエロエロ魔人のあるまんさんだが、実はその気になるときちんと純文が書ける方なのだ。のった時の文章力がちょっと天才じみていて奥深い。

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◆間川 レイ/私のまどろみ

 まどろみの中に熱を抱いたまま揺蕩っていたいという、お伽の国の雛の見る、夢の中の独り言。幼い頃の熱の記憶が呼び起こされる。

 ずしんと頭が重くなるあのアンニュイな数日。悪いものではないが、起き上がれるようになった時にやらなければならない洗濯や掃除のことを考えると、大人はうっとりもしていられない。発熱するたびに強制終了的にばたっと倒れて、そして四日後には動き出しているロボットになったような気がわたしはしている。

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◆タケオのプレゼント/惣山沙樹

 選者全員が「そうそう、こういうのでいいんだよ」と頷きそうな優等生エッセイ。誰もが覚えのある彼氏彼女からの初めてのプレゼント。学生が頑張って背伸びした感がいじらしい。今でもその時にもらった品を手許に残してあり、彼とは良い友人関係が続いているというのも読後感がよい。何といってもオーランド・ブルームだしな。タケオなのにオーランド・ブルームだ。このタイトルを「オーランド・ブルームのプレゼント」にすると台無しなのである。

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◆忘却曲線上のプリン/ミコト楚良

 最近シャトレー〇の🍰をそのまま客に出してぼったくっていた京都嵐山の店が話題になっておりましたが、著者の想い出の中にある、冷凍食品と市販品で勝負をかけたそのお店。当時、裏側で何があったのか気になりますね。料理人が緊急入院でもしたのだろうか。

 頼む店だけは開けてくれ……! あたし料理なんか出来ないわっ。

 あるまんさんがつけたコメント、「お姫様が夢から覚めた様な何とも言えない感じ」が俊逸である。

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◆Y教授が教えてくれたもの/沈黙は金?

 文壇バーの隅っこで聴き耳を立てていそうな方なのだ。

 学生時代の想い出に、良くも悪くも先生(教授)は外せない。名物先生にあたると生涯語れるネタがある。

 わたしに多大な影響を与えた二名の先生のことを思い出し、当時のお二人が何歳だったのかを考えてみたのだが、あの頃の先生は両名ともまだ二十代であられたのだなぁと、そのことに愕然としている。

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◆夜獣/武江成緒

 ご自分の世界観をもって書く人という一定の担保がついている方。ながらく無冠の帝王であられたが、今年は『SARF×カクヨム 短編こわ~い話コンテスト』で入賞されていた。至極当然の結果である。流行に背を向け、こつこつと我流を貫いてきたニッチな作風に陽が当たるとこちらまで嬉しいですね。「ホラー」よりも「怪奇」の二文字が似合う方。ついでに筆名がひどくよい。

 作中の地名、そこ知ってる~とすっかりご近所モードである。

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◆億千の柿ピー/@tinksfurikake

 わたしはピーがやや多めの方が好きである。何ならピーだけでいい。小袋から皿に出してはピーだけを選り出して、種を袋に戻しておくので怒られる。

 種なんか消えてしまえ。

 ところが微量でもあの醤油辛い味がピーに混ざっていないと、やはりあのピーの味にはならない。清濁が混じり合わないと味の出ない人間と同じではなかろうか。割合7:3の方が何かと生きやすそうではある。

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◆夜に働く/大隅 スミヲ

 夜に働くおじさんが太陽のある世界に戻ってくる独り言。文章が巧い。こういう何気ないことを「読ませる文章」ですらりと書けるのは氏の強み。内容的には「昼に戻る」が相応しいのであるが、ここは断然「夜に働く」でいいのである。

 輩(やから)が血吹雪を飛ばして撃ち合っていたり殴り合っている小説であっても妙に落ち着いておられます。夜勤の時間に原稿を書けなくなったのは痛いですね。

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◆言葉の消失と感情の平板化/西しまこ

 日常会話ではわたしも中学生並みに便利に多用するので赤面の至りである。きっと精神年齢が中学生なのだ。「ダサい」も同様あろう。「キモい」「ダサい」はカバーする幅が広いわりに、発言者の未熟度も暴露される。つまりわたしは暴露される側である。中学生マインドの持ち主で何かといえば「ダサすぎ……」と吐いている。

 物書きたるもの、ゆめゆめ便利で安易な言葉に流されてはならない。※お前が云うな。

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◆まぁじんこぉる/決定回避の法則:17アイスクリームと31アイスクリーム

 17アイスは学食の横に自動販売機が設置されていた。その時に一生分食べた気がしている。とくにチョコミントが好きだった。薬みたいな味だったが満足感が高く、ぱりぱりとした小さなチョコの食感も好きだった。

 他に親しんだのはハーゲンダッ〇とデパ地下のジェラートで、31アイスとはなぜかいつも縁がなかった。どの味が美味しいのかな~。

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◆亜咲加奈/方言を小説で

 キャッチコピーが気になる。

 方言は生まれ育った者が書かないと、エセ関西弁のようにどうしても細部に違和感がある。方言指導が入っているドラマを観ていても引っかかることが多い。方言の使用は興ざめになるか・効果的に作品を引き立てるか、翁媼の「~じゃ」と同様、取り扱い注意の優れた刃なのだ。

 それにしても、「いけんのう。どうおしる。」「なんの、もういいのぞい。」こんな言葉で綴られていた頃の小説にはいたく味わいがあったものだ。

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◆にこにこ先生/IT業界にいるシェフを探せ

 にこにこシェフー! と呼んだら何か作ってくれるのかな。一斗缶をぶちまけられても困るから呼ばないほうがやはりいいのか。学生時代、幾つかの料亭でバイトをしたが、その料亭にもぴんきりあって、一番下のクラスになると吸い物に松茸パウダーをふりかけ、客が「松茸のいい香りがするわ」と感想をもらすのを見て板前が裏で嗤うという悪徳業者まがいのことが繰り広げられていた。カルボナーラの美味しいものは本当に美味しいですよね(語彙力)

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◆霜月夜空/生と性を知るために風俗店に行ってきた話

 めんどくさいから男子はもうみんな十六歳になったら先生に引率されて国営の風(略)月詠透音さんにも同じことを書いた。

 これは霜月氏の「卒業白書」である。トム・クルーズの映画ね。

 男子諸君は「うむ……」と分かりみが深い話なんだろうか。

 チアガールがきっと遠くから見守ってくれているの☆

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◆色街アゲハ/牢獄逍遥記

 作中に出てくるピラネージの銅版画を想い浮かべ、この方の文章世界の迷宮に潜り込んでみる。シンクロするまでいささか時間は必要となるが、暗い夜を過ごしてきた人たちは、この手の作品が好物であろう。否応なく地獄めぐりが脳内で始まってしまうのだ。咀嚼しきれない硬質のりんごを味わうのも読書の愉悦なんである。これだけのものを張り付くようにして書き上げられるのは才能。

 色街アゲハはタイトルに使うと映えそうだ。

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◆花森遊梨/イベントとカフェインー天使orEVIL-

 中二病的なタイトルだと想ったら、中身もそんな感じで、夜勤明けのナースが変なテンションのままイベントに直行して薄い本をバカ買いするか、必要もないのに深夜通販でやたらと高価な化粧品やアクセサリーをポチっているのを見ているようだった。脳内から何かが出ている。振舞いは悪魔的なのに本人はテンション高く天国にいるのだろう。

 カーッ‼︎ヒーハー‼︎‼︎‼︎‼︎

 ここだけがやけに頭に残ってしまう。ハバネロ。

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◆桔梗 浬/絶食男子を攻略せよ!

 当人そっちのけで、仲介役がやたらと張り切って盛り上がってしまういけないやつ。幾つかの成功例をものにした桔梗さまは次の獲物を物色する。今回突っ込まれたのは絶食男子だ。

 すげなく断られたようだが当然で、絶食男子に対して押せ押せをやった感がある。しかしお節介な人にとって絶食男子とは、「強引に耕してあげないといけない未開の地✨」「意地をはらなくてもいいのよ✨」に見えるようなのだ。両者にとって不幸な出会いである。

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◆榊 薫/ヒヤリハットの先手

 悪役令嬢ポカ。うちにも来てる。異世界から来てる。連れて来なくていいのにミスを連れて異次元の世界からこんにちは。

 帰れ。

 しかしミスもポカも、誰でもやってしまうのだ。時として人命が失われることがある。よく「想定外」というが、まさにそうなのだ。次の瞬間に自分が何かやっちゃうなんて誰も思って生きてない。さっき茶碗によそったごはんをぶちまけたのも、悪役令嬢のせいだったのかーそうなんだー。

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◆洞貝 渉/KINNIKU

 シックスパックを夢見ながら秋のスイーツを貪ってちゃいかんですよ。とストレートな感想を繰り出しつつ、美味しいんですよね秋ってご飯もスイーツも。とくに季節のスイーツ、どれもこれも誘惑多すぎなんです。PAR〇ならソルティーアーモンドキャラメルが気になりますし、ハーゲンダッ〇の彩芋~蜜いも&紫いも~はさっそく食べました。近所で売ってる焼き芋がとろっとろで美味しいです。焼き芋には栄養もあります。アイスに添えても美味しいです。みんなで焼き芋を食べよう。

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◆ミナガワハルカ/ミナガワハルカのつくりかた

 カクヨムという陸地で花咲くまでの履歴。職場の同僚が自作の小説を見せにくるなんてことがあるんだなぁ。しかも純文。ミナガワ氏に、「この人になら見せてもいい」「この人の意見は信頼できる」と想わせるだけの信頼感があったのだろう。自分を偉そうに見せる為に相手をことさら下におき、「厳しい意見こそきくべきだよ君ィ」と声高に指摘して悦に入るという誰得アドバイザーが多い中、素晴らしいことだ。『作家を育てる』ことは誰にでも出来ることではない。

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↑九月分) (十月分↓

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◆鈴ノ木 鈴ノ子/Last Guardian

 横文字タイトルには気負いを感じる。その気負いをいかにして外すか、または気負ったタイトルのまま、いかに才気ばしるかという感じになりがちだが、作者が鈴ノ木鈴ノ子さんならばそのへんは大丈夫である。地に足をつけた、鈴ノ木ブランド品なのだ。

 先祖代々の土地と墓所と風習は、ここ一世紀未満の間に民草が全国区に散らばることでその多くが失われてしまった。一度途切れると、二度と同じものは戻らない。哀しいですね。

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◆まっしろたまご/檸檬を一つ、いただけませんか。

 その昔、書物の上に檸檬を爆弾に見立てて置いた変人がいたが、眼の前で風船が破裂したら眼が覚めるように、ある種のショック装置として檸檬は効果的に使えるらしい。半透明の汁は目潰しにもなる。檸檬という漢字もいい。レモネード、美味しいよね、レモネード。

 あのプラスチック感すらある黄色と目覚ましい酸味は死に際にも良く似合う。消えていく命の最期に檸檬を齧った高村智恵子。

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◆榊琉那@屋根の上の猫部/秋の夜長に聴いてみたい『英国の三美神』

 🐱部の人多すぎなんである(二度目)

 どのアルバムも好みでした。ありがたく拝聴しました。『ヒット曲が全てではなく、世の中にはこんな素敵な曲も存在しているのだと聴いてもらえれば嬉しく思いますね。』とのコメント、カクヨムの小説にもいえるかもしれませんね。ほとんど評価もされていない層の中には、ご紹介のあったアルバムのように、いぶし銀のような優れた宝がたくさん眠っています。

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◆フィステリアタナカ/4番はエースでピッチャー 5番クロマティはセンター

 タイトル詐欺(笑) クロマティときいてすぐにどんな選手か分かる人、どのくらいいるのだろう。そのうちイチローや大谷選手も「それは何をした人?」と若者から問われる日がやってくる。今の社会のメイン層はすでに、進駐軍兵士と日本人母の間に生まれた衣笠選手のことを忘れている。※進駐軍兵士は推定

 野球が元気だった頃は日本も元気だったのだ。藤子不二雄の漫画の中ではよく空き地で野球をやってはガラス窓が割れているが、あれ、本当にあったことなのかな。

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◆ぼくは小説を書く/千織(血檻)

 小説とは現実逃避である。読んでいる間、その文章世界の中にどっぷりと浸れること。本を閉じた後には、現実との落差に何千回となく繰り返してきた諦念を噛みしめて、深い哀しみをもれなく覚えるというおまけがつく。書く時もそうだ。書き上げた後はいつも寂しい。

 泣かせようとした小説はケレン味が強くて閉口だが、それでも良質の人情ものには問答無用に泣けてくるのであって、つまり人間はそのケレン味に泣けるのだろう。

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◆口一 二三四/秋に鳴らす鍵盤

 想い出を丁寧に閉じ込めるにあたり、著者の頭の中には美化された想い出と、作品としての効果的な彩り、さらには一度美化したものから過剰な装飾を剥ぐ作業があったはずである。壁画を修復した後でもう一度、細心の注意を払いながら汚しをつけて、ひび入れを行う作業といったらいいか。わざと色彩を掠れさせることで、「祖母の大正琴」という古物の音が想い出の中にきららと鳴る。名は古めかしいくせに、琴の音を想像していると、意外とモダンな音なので愕きますよね。

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◆上月祈/常日頃のトテチテタ

 トテチテタ。何となく耳にする。これは陸軍の進軍ラッパの音を表わす擬音(音階)が元祖なのだそうだ。いかに覚めた頭のままで阿呆になれるかが物書きの重要な素質の一つだと想っているのだが、この音は阿保の行動様式の伴奏としてちょうどいいかもしれない。誰も見ていないのにブリキのおもちゃが動いているようで、何だか気に入ってしまった。さあ今日も張り切って小説を書くよ。トテチテター。トテチテター。

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◆蠱毒 暦/無題

 シェイクは肺に喧嘩を売ってくる。胸が痛くなって呼吸が止まる。冷たいから何とか飲めるけど、あれ、常温に戻したら甘すぎてとても飲めたものじゃない。

 もう飲みたいとも思わないが十代の頃の想い出の中には学校帰りに買い求めていたシェイクの味がある。チョコとストロベリーとバニラと、たまに期間限定でバナナ味があったかな。あの頃は、飲まなければいけないような、そんな何かだったのだ。

 タイトルと筆名に身構えたものの、中身はシェイクの話だった。

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◆snowdrop/意欲の再燃

 誤字脱字を指摘したところ、運営さんから注意があったそうだ。高校生さんの出鼻をばきっと挫きかねないからという配慮なのだろうか。この方のことだから、言葉を選んで、感想や励ましも添えて、優しく指摘されたことと想うのだが。

 脱線するがカクヨムではアドバイス禁止である。これは、「する側」からすれば不思議だろう。しかし一転して「される側」になると、上から目線をふるいたいだけの人間が指導者面で居座ってくることがあるのだ。

 snowdropさんのように優れた読み手さんだと、誰のどんな作品についても、気づくことが多いことでしょう。親身になって作品に眼を通し、小説世界を愛せる方なので、担当者に向いておられる。

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◆川中島ケイ/うさぎ暮らし

 うさぎとわたし、などではなく「うさぎ暮らし」という題名がいい。うさぎは可愛い。でも飼うとなるとなかなかなものだったりする。小学校では飼育委員だったのだが、そこにいたうさぎは可愛いというよりはデカいという感じで、どっこいしょーといつも持ち上げていた。もっさもっさと目を細めて餌を食べている時のうさぎは、「うむ。うまい」という顔をしていて可愛いんだか憎たらしいんだか。後ろ姿が好き。

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◆槙野 光/あっちゃんと私

 祖父母とよい関係を築くことが出来た孫の想い出はみな似ている。これだけ全力で孫から慕われたら、おばあちゃん冥利に尽きるだろう。あの大変な戦争を経て、伴侶のことを含め様々なご苦労があったことと想うが、一緒にファミレスで甘いものを食べてくれる孫の存在があったことで、あっちゃんの老後は倖せだったのだ。そして誰しもが想うだろう。孫というかたちでなくともよい、わたしたちの最晩年にも、何かの光はあるのだろうかと。

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◆睦 ようじ/SNSが戦場に見えたので、何とかしようとして燃え尽きた話

 カクヨム勢でもX(Twitter)や公式Discordをやっている人がいるが、やらないようにしている。理由はカクヨムの中でも尊敬している人たちが誰もやっていないからだ。手広く交流することは素晴らしいことだが、なにかと雑多な疲れを生む。本来、書き手はその神経をなるべく書くことに集中させていたいのだ。しかし「それではいけない」と云われたりする。Xは「ちゃんと交流しています」ポーズの免罪符か何かなのか。

 ザ・女子みたいな人がいちばんSNSでは生き生きするよね。

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◆きみどり/美味しく食べて、糧にする ~あの日食べた魚のヘソが何なのかわからない~

 タイトルを縮めるなら「魚のヘソ」だろうが、あえて雑誌の見出しのようなスタイルにされている。

 こちらは祖父との想い出。誘われても「だるい」「家の中でゲームをやっていたい」と答えるような今時の子どもとは違い、おじいちゃんと一緒に釣りに出て、その日に獲った魚を食べることが出来たとは羨ましいことである。

 このあまりの日本の変わりよう。わたしたちは先祖代々の土地と知識から離れ、そのまま親になり、先代の暮らしぶりを子孫にはほとんど何も伝えることが出来ない。ヘソの正体も分からない。

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◆豆ははこ/多分、カクヨムコン9。

 昨年カクヨムコン9に出されたエッセイが首位独走するところをリアルタイムで拝見できて、とても楽しかった。「はねる」現象を知ってはいても、身近で見ることはそんなにない。と想っていたが、最近は完結ブーストなるもので、ごおっと追い風が吹く方も多々いるようだ。底引き網のようにその方々が全ての星と読者を攫っていってしまう。お蔭でこちらは一つくらいヒトデでも落ちてはいないかと、浜辺をさまよう日々である。ひもじい。ひもじ……ズモモ……。

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◆押田桧凪/台南とわたし

 実に素直な観光日記。海外からくる観光客が「日本最高」と云っているのと同じで、外国に行くと何もかもが新しく、珍しく、人はみな親切で、かがやいて見える。異世界転移のようなものだろうか。

 定住するとなればそこは世の常で、嫌なことも沢山眼にすることになる。そして日本ってなんて素晴らしい国だったのだろうと母国の良さを噛みしめることになったりする。

 しかし旅人であればこの方のように思う存分、五感で異国を堪能して感動するのが正解なのだ。

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◆🔨大木 げん/○○から警告が来た

 どちらのご家庭でもありそうな話。そこに「カクヨム」が介在しているのが、カクヨムならでは。頭の中は創作のことでいっぱいですよね~。分かります。そんな時に邪魔をされたくないし、かといって家庭の中での自分の役割は果たさなくてはいけません。地味にストレスが溜まりますよね。そんなこちらに対してあちらもストレスを貯めていると、この方のように警告されちゃったりするわけです。それぞれが勝手なことをやっているのが一番平和。そしてたまには下ネタで爆笑すればよし。

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◆木山喬鳥/物語のなかで人物の表現をするときに考えていること

 真面目に表現を深堀りして考察されておられる。この内容を文章にして人に伝えるのはなかなか難しく、さらには読む側も「ああ、あの感じね」とすぐに分かる人もいれば、「???」な人もいるだろう。

 丁々発止の科白をたっぷり入れて自動書記状態でノリよく書く人だと、「そんなこと気にする必要ある?」かもしれない。どちらの作風の良さも分かるのが一番いい。詩は一行一行が重いが、小説はそうでもない。考えすぎると生きた話は書けない。

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