まいとゆかいな仲間たち4

みまちよしお小説課

1・忘れてた!

第1話

新年が明けた。初日の出が街を照らし、祝福している。初日の出に照らされている家々の玄関には、門松や正月飾りが置いてあるところが見受けられた。


 金山宅。古いブリキの一戸建てだ。その台所では、長女である私立中学一年一組の成績トップ二の、金山まい十二歳が、雑煮を作っていた。

「よし。できた」

 雑煮が完成した。まいは、朝早くから家の手伝いで、朝食を作る。母親がタクシードライバーで夜勤の時もあるため、炊事、洗濯、掃除等、家のことは自然と身に付けていった。

「まだ六時半か。ゆうきはもちろん、お父さんも正月休みで寝てるだろうしな。また温め直せばいっか」

 と言って、雑煮の入った鍋蓋を閉じた。

「はあ……」

 まいは、居間の座卓の前に座り、息を吐いた。

「というか、久しぶりの感じねえ……」

 つぶやき、ピンと来た。

「そうだ! まいとゆかいな仲間たちが再びスタートしたんだ!」

 ハッとして、一人声を上げた。

「えーおほん。改めまして読者の皆様、新年あけまして、おめでとうございます。まいとゆかいな仲間たちの主人公、金山まいです」

 お辞儀をした。

「私は家から歩いて三十分のところにある私立中学校に通う一年一組です。元々頭がいいわけではありませんが、今着ている制服がかわいくて、がんばって勉強して、入学しちゃいました!」

 苦笑いをした。

「さて。このまいとゆかいな……。”まいゆか”シリーズは、私とその他個性的すぎる人物が繰り広げるコメディ作品となっていまして、まあ、深いことは考えずに、気楽な感じでご拝読いただけると幸いです!」

 ニコリとした表情を見せた。

「えーっと……。こちらではもうすぐ元旦の朝七時。もうすぐお父さんかゆうきが起きてくる頃合いでしょうが、どうかな?」

 と、そこへ。

「おはよう、お姉様……」

 なんだかとてつもなく輝かしいオーラで弟の金山ゆうき十一歳が来た。

「……」

 呆然とするまい。

「どうしたんですかお姉様。わたくしです、ゆうきですよ?」

「いや……。なんで突然タキシードめかし込んでさ、金縁のメガネかけてんの?」

「これがわたくしの姿です!」

 かっこよく決めポーズをした。

「なわけあるか!」

 まいが大声を上げた。

「どうしたどうした? 朝から大声なんか上げて」

 お父さんが来た。名は金山たけし、五十歳。工場の正社員。

「お父さん! 新年早々、ゆうきに変なこと教え込まないで!」

「ええ!?」

 当惑するたけし。

「お姉様、お父様。新年、あけましておめでちょ……」

 ゆうきが噛んだ。

「新年、あけおめ……」

 ハンサムに答えた。

「いや表情と雰囲気でごまかすな」

 まいがツッコミを入れた。

「それにしてもゆうき。新年早々はりきってるな。さては、久しぶりのまいゆかシリーズ再開で喜んでるな?」

 と、たけし。

「喜んでいません。むしろめんどくさいですよこんなの」

「いやハンサムな表情と雰囲気でまずいこと言うな!」

 まいが怒った。

「いや、だって……。めんどくさいでしょ?」

「はい今あなたの顔のまわりに少女マンガとかにありそうなキラキラが現れてますけど、言ってはいけないことを申してますからね?」

 まいは声を上げてから、聞いた。

「ていうかなんでそんなキャラになってんの! あんたは元々そんなキャラじゃないでしょ?」

「お姉様、率直に申し上げますと。わたくしはどういうキャラだったのか、忘れてしまったのです!」

「ええ?」

 唖然とするまい。

「それじゃあ、ゆうきはこれからまいゆかを続けていくにあたり、ずっとこのハンサムキャラをやり続けることになるのか」

 と、たけし。

「お父さん! そんなの私たちも読者も疲れるでしょ!?」

「確かに」

「ゆうき? あんたはね、ごく普通の小学六年生。ほら、わんぱくだけが取り柄の少年なのよ!」

 まいは、ゆうきに言い聞かせた。ゆうきはハンサムな顔つきで、まいをじっと見つめていた。

「……」

 じっと見つめてくるゆうき。ドキドキするまい。

「もうっ! なんか変な感じするじゃないのよ!」

 ゆうきの頬を叩いた。

「まい。これはもしかして他の子たちも自分がどんなキャラだったかを忘れてしまっているんじゃないか?」

 たけしは沸かしたお湯をカップに注いで、コーヒーを入れた。

「そ、その可能性もなきにしもあらずね……」

「お姉様、わたくしはどうしたらいいのでしょう……」

「とりあえずお雑煮を食べましょう」

 三人は座卓を囲んで、まい手作りの雑煮を食べることにした。

「おお。結構上手にできてるじゃないか」

「今度はお父さんが作ってよ」

「あはは! そうだな、今度はまいより早起きして、作ることにしよう」

 二人が和やかにしている間、ゆうきは雑煮の餅を箸で掴み、おもむろに口に入れた。

「……」

 まいとたけしは、どこでも大口を開けて汁が飛ぶくらいの勢いで食らいつくのに、これほどおしとやかに食事をするゆうきの姿に目を丸くしてしまった。

「うーん……。うまい!」

 ゆうきは、ハンサムな顔から元のわんぱくな顔に戻った。

「あれ? あ、そっか。俺って、こんなやんちゃしてそうなキャラだったな」

「やっと思い出したかアホ……」

 呆れているまい。

「まあ、久方ぶりだし、休みボケというのもあるのだろう」

 苦笑いするたけし。


 朝食のあと、まいとゆうきは外に出て、まなみやあかねと会うことにした。

「二人ともどこにいるんだろうな?」

 と、ゆうき。

「さあね。年末年始は旅行に行くとか帰省するとか言ってなかったから、すぐ見つかりそうだけどね」

「まなみはもしかしたら、ヤンキーになってるかもよ?」

「はあ? なんでまた」

「まなみは前にバイクをトンずらして街中を走り回ったじゃんか」

「それは魔法使いの中学生である、石丸月菜のせいでしょ?」

「今度はシンナーやってたりしてな!」

「どこでそんなこと覚えたのよ!」

「姉ちゃん! 俺だって小学生じゃないんだよ? 新年が明けて、三月には卒業して、中学生になるんだ!」

「ゆ、ゆうき……」

「そんなこと知ってて当然だろ」

「いや知ってたらダメだろ……」

 なんだかんだやっているうちに、商店街に着いた。

「まなみは、冬休み前に、福袋がほしいからここの商店街に行くんだってはりきってたわね」

 まいは、辺りを見渡し、まなみを探した。

『迷子のお知らせをします。新城まなみちゃん、十二歳。新城まなみちゃん十二歳を店内でお見かけの際は、迷子センターまでお知らせください』

 商店街の案内放送が響いた。

「ちょっと……。これどういうこと?」

「姉ちゃん。迷子センターに任せといたぜ!」

 左手でグッドサインを見せた。

「余計なことせんでいい!!」

 まいに怒鳴られた。

「もし……。そなた、わらわのことを探しておるのか」

「はあ? そういうあなたは新城まなみさんですか?」

 まいは振り返った。

「いかにも。わらわが新城まなみじゃ」

 そこには、赤い着物姿で首からレフカメラを提げたまなみが立っていた。

「やっぱりキャラを忘れてるうううう!!」

 まいは思わずひっくり返ってしまった。

「まなみ。お前さては年末年始中ずっと時代劇観てただろ?」

「いや原因それ!?」

 目を丸くするまい。

「お代官様~!」

 くるくると回るまなみ。

「そっち系……」

 呆れるまいとゆうき

「じゃなくて! まなみ、あんたはそんなキャラじゃないわ。カメラが大好きなのは当たってるけど、貴女みたいなんかじゃないの。もっとこう、天然な感じなのよ!」

「カメラが好きなのは覚えておるが、なぜかそれ以外が思い出せんのじゃ」

「なんでカメラ好きなことは覚えているのにそれ以外が思い出せないのよ?」

「姉ちゃん。記憶喪失ってのは、そういうものだぜ? ということはだな、まなみにも、俺と同じように思い出すことができたきっかけを用意してやればいいんだ!」

「き、きっかけって……。あ、そういえばあんたさ、お雑煮食べて思い出したよね」

「じゃあまなみにも、お雑煮を食わせればいいのでは?」

「いやいやそんな軟な方法? 絶対にないわよ!」

「でも、まなみもなにかあるぜ。パッと思い出すなにかがよ」


 三人は公園にやってきた。学校帰りや休みの日、大抵はここに来ている。

「じゃあ一発ネタいきまーす」

 ゆうきが手を上げ、宣言。

「コマネチ!」

 コマネチをした。まなみは笑わなかった。

「これがほんとの二刀流!」

 バットとグローブを片手ずつ持って、ボールを追いかける素振りを見せた。

 まなみは笑わなかった。

「姉ちゃん」

 ゆうきはテニスボールを二つ服に入れて、胸元に入れて見せた。

「バカ! あんたのネタで笑うやつなんてどこの世界にいるのよ?」

 まいがげんこつをしてきた。

「まなみ、思い出したか?」

「なにも浮かばぬ……」

「当たり前でしょ?」

「じゃあ姉ちゃんなんかやれよ」

「ええ?」

「ほら、姉ちゃん自分ばっかり文句言うんじゃなくて、ていうか文句言うくらいならいい方法あるんだろ?」

「そ、それはその……」

「俺はもう姉ちゃんに言い負かされたりしないぞ! 新シリーズ始まったんだからな。俺はこの作品の主人公なんだからな!」

「断言してるけど私が主人公ですからね!」

 言い返した。

「ったくしょうがないわね。私もやればいいんでしょやれば!」

 まいはしぶしぶネタを一発披露することにした。

「いいぞー」

 冷やかすゆうき。

「やれやれー」

 冷やかすまなみ。

「ん? まなみ、あんたも冷やかしてくるけど?」

 少し違和感を感じたが、披露するネタを考えた。

「そ、そ、そんなの関係ねえ……」

 照れながら、渾身のネタを披露。口で発しただけだが。

「え、それでネタやり切ったと思ってる?」

「まいちゃん。まなみの友達として、それはないと思うよ?」

 ゆうきとまなみが白い目で見つめている。

「やれって言うからやったんでしょ!!」

 まいは顔を赤くして声を上げた。

「おかげでまなみ、自分がどんなキャラか思い出したけどね。まなみは、一人称が自分の名前で、おっとり小悪魔天使みたいなかわいい女の子って感じだよね!」

 ウインクして、てへっと舌を出した。

「そういうかわいさとは違う気がする……」

 呆然とするゆうき。

「思い出してくれてなによりだわ……」

「改めて、新城まなみ十二歳。まいちゃんと同じ中学の成績三位のカメラ大好き女子だよ!」

 まなみは読者に向けて、かわいげにあいさつをした。

「実は腹黒い一面もあるので、それは今までのシリーズとこれからのストーリーで見ていってね!」

 ゆうきが笑みを見せ、まいがコクコクとうなずいていた。

「チッ」

 まなみは陰で舌打ちをした。

「はらほろひれはろへ~」

「おや?」

 三人は声がしたほうに一斉に顔を向けた。そこには、ピンクのドレスを着て、バイオリンを演奏しながら歌をうたうゆうきの幼馴染、西野あかね十一歳がいた。

「はらほろひれはろへ~」

「あいつ、歌下手だな」

「弟君、しっ」

 まなみが静かにするよう促した。

「でも、バイオリンうまい……」

 まいは、あかねのバイオリンのうまさに感激。

「あかねちゃんは、あのままでもいい気がするわね」

「え、姉ちゃんマジで言ってるそれ?」

「うん。だって、あかねちゃんは元々音楽家なんだから」

「確かに。まなみもそう思うな。あかねちゃんが楽しんでれば、それでいい気がする」

「じゃあ、四シリーズはこんな感じで」

 納得する三人。

「ちょっとお待ちをお三方~♪」

 あかねがうたいながら迫ってきた。

「あたくしだって元のキャラに戻りたい~♪だけど思い出せない~♪なんとかしなさいよ~♪」

「あかね、お前歌下手くそだな!」

「おだまりなさ~い♪」

「わかった。まなみが新年のとっておきのギャグを披露するよ!」

「なんでみんなしてギャグを披露したがるんでしょうね」

 唖然とするまい。

「ショートコント! お餅」

 まなみのショートコントが始まった。

「へいらっしゃい! お客さん、なにをお頼みで? お餅、お餅ですかい。かしこまりました! ちなみに、テイクアウト、店内お選びいただけやすが……。お持ち帰り、お餅帰りやすか! はいお餅どお様! お気をつけてお餅帰りください!」

 幕が閉じられた。

「どうだ! まなみの渾身のギャグで、初笑いアンド記憶を取り戻したこと間違いなしでしょ!」

 胸を張るが、

「おもしろくないわ~♪」

 ダメだった。

「まなみ。ダジャレで笑いを取ろうとするところが昭和臭いんだよ」

「弟君、君なかなか胸に刺さること言うね……」

「胸に刺さること言ったかこいつ?」

 呆れるまい。

「俺はあかねの閉ざされた記憶を、これで開ける!」

「と言って、弟君はあかねちゃんの頬を両手で包み、じっと見つめた」

「むちゅう~」

「そして、分厚いくちびるを近づけた」

 バシン!

「セクハラですわ~♪」

 うたいながら怒るあかね。

「効いたぜ、へっ……」

 右の頬を手のひら模様に赤くしながらほほ笑むゆうき。

「かっこつけるな変態……」

 彼をにらむまい。

「お腹空いた」

 と、まなみ。

「あたくしも~♪」

「俺もだ。姉ちゃん、雑煮があったろ? みんなで食おうぜ」

「はあ? うんじゃあ私の家に来る?」


 金山宅。

「おいしい!」

 まなみとあかねは雑煮のおいしさに感激した。

「まいちゃん。お雑煮作るのおいしいね。あたし、ほっぺが落ちそうになったよ」

「あかねちゃん、元に戻ったね……」

 苦笑いするまい。

「え?」

 あかねはまいを見つめながら、キョトンとした。

 久方ぶりにはなるけど、今年もまいとゆかいな仲間たちをよろしく!

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