7・もえvs幻術士五郎丸

第7話

東京の下町のある場所で、人だかりができていた。人が集まっている場所には、”幻術士五郎丸”という看板が建てられていた。

「さあよってらっしゃい見てらっしゃい。我が幻術士五郎丸のショータイムが始まるぞー?」

 集まってきた観客が、五郎丸をじろじろと見つめてくる。

「ではまずこの三体の人形を、置きます」

 机に置いた。

「人形よ、踊りたまえ~!」

 唱えると、三体の人形が踊り出した。

「おお!」

 観客の拍手が響いた。

「まだまだあるぞ?」

 五郎丸は右手を空に向けた。

「はっ!」

 右手でポンと小さく爆発が起きて、すずめが三羽現れた。

「おお!」

 さらに観客の拍手が響いた。

「はっはっは! どうだ、わしの幻術は!」

 返事は、観客の拍手喝采。

「気に入ってくれたかな? なら、ここに一万を入れてけ!」 

 箱を取り出した。観客は、ためらうことなく、一万円を投げ銭した。

「ん? 君はなぜ払わん? 一番先頭で見とったくせに」

 五郎丸に指摘された青年。

「あ、いやその……。一万円なくて!」

「たわけ! タダでわしのショータイムを見るなんて、お前のその根性を叩き直してやる!」

「ひい!」

 青年は、全身を赤い布に覆われた。

「みなさん! 今からこの不届き者を、ハゲにしてやりましょう」

 ざわつく観客。

「それ!」

 赤い布がはだけると、青年はハゲになった。

「そ、そんな……」

 青年はがく然とした。

「あははは!」

 観客の笑い声が響いた。

「また今度来る時は、必ず一万円を持ってこい。では、わしのショータイムはこれにて終演」

 五郎丸は、煙玉を地面に投げつけた。モクモクと舞った煙が消えると、五郎丸の姿もなくなっていた。

「じ、冗談じゃない!」

 青年は頭を抱えた。


 警視庁。捜査一課のもとに、ハゲた青年がやってきた。

「ほんとなんですよ! ウソじゃないんだ!」

 取調室で、警部と刑事が青年の話を聞いていた。

「あははは!」

 警部と刑事が笑った。

「笑わないでくださいよ~!!」

 机をガンガンと拳で叩いた。

「まあまあ落ち着いて。しかし、警部。許可なく不正にお金を稼いでいる輩かもしれません」

「いかにもな。しかし、一瞬にして君の頭をそんなにするなんてなあ、おかしな話じゃないのかな?」

「ほんとにされたんですよ。なんか、ベタベタするなにかを頭に塗ったくられて、一瞬のうちに抜け落ちたんです」

 それを聞いて、警部と刑事は。

「あははは!」

 笑った。

「笑いたきゃ笑えばいいじゃないですか!」

 青年は怒った。

「警部、刑事! 大変です!」 

 もえが飛び入ってきた。

「なんだね山波君! 今は取り調べ中だ」

 刑事が注意した。

「すみません。しかし、東京の下町で、幻術使いと呼ばれる老人が出没しているとうわさを聞きました」

「それで?」

 と、警部。

「それで、その幻術使いはあちこちで手品を披露して、一万なんて大金を稼いでるんですって。先週は、学校帰りの子どもたちの前で披露していました」

「子どもに!?」

 刑事が驚いた。

「はい。しかし、当時を知る住宅街の方から今しがた連絡が来たのですが、幻術使いが来るなんて話は聞いてなかったそうです。ですから、無許可でお金を稼ぎにやってきたのではないかと、浮上しているのです」

「僕をハゲにしたのは、まさにそいつですよ警部さん、刑事さん!」

「うーん……。よし、緊急会議だ!」

「はい!」

 警部に言われ、刑事は会議の準備に取りかかった。

「えーそして君は、もう帰りたまえ。あとのことは、警察に任せなさい」

「はい!」

 青年は安堵の笑みを浮かべ、返事をした。


 捜査一課の一員が、全員会議室に集まった。

「幻術使い、いわば老人の手品師が、東京の下町で目撃されているらしい。そしてそいつが今、不正にお金を稼いでいるとのうわさだ。よって我々捜査一課はこれより、下町へ繰り出す!」

 警部に向けて、刑事たち全員席を立ち、敬礼をした。


 もえは先輩の運転するパトカーに乗せられて、下町へとやってきた。

「しかし一万円って、かなりの額ですよね」

「そうだね。まあでも、普通のマジックショーなら、それくらいはすると思うよ?」

「私普段マジックショーなんて行かないから、わからないですよ」

「ねえねえ。あそこで手振ってる三人組、もしかして君の知り合い?」

「え?」

 フロントから見える三人組。名探偵ガールズの一味だ。

「止めてください先輩」

 パトカーは、名探偵ガールズの前で止まった。

「三人とも久しぶり!」

 パトカーを降り、あいさつするもえ。

「久しぶり、もえさん!」

 と、きらら。

「ということは、もう嗅ぎ付けたんですね?」

 と、めい。

「嗅ぎ付けた?」

「実は、この辺に最近、あやしい幻術士名乗る老人が現れるとうわさを聞いてな。あたいたち、やってきたんだよ」

 みゆが答えた。

「来ると思ったわよ」

 もえは肩をすくめた。

「ねえ。君たち前にお世話になった子たちだね」

 先輩が来た。

「誰あの人? 超イケメン!」

「こらきららさん! 一応刑事さんなんだから、敬意を示さないと……」

「というめいも、目にハートが見えるぞ?」

 みゆが呆れた。

「名探偵ガールズのみんな。なにか掴めたかな?」

 先輩が聞く。

「いやなにも」

 みゆが首を横に振り、答えたあと、

「あれ?」

 ふと、なにかを感じた。

「あの、よかったらあたしたちもパトカーに乗って、事件の調査に同行したいんですが……」

 きららは、先輩を見上げ、目をキラキラさせて聞いた。

「こらきららさん! いけませんったらいけません……」

 というめいも、きららと同じように先輩を見上げている。

「は、はは……」

 唖然とするもえ。

「悪いけど。パトカーは一般の人は乗せられないんだ。これも仕事で使う車だからね」

「そっかあ……」

 きららとめい、がっかり。

「ほらお前ら。あたいらはあたいらで糸口を見つけに行くぞ?」

 二人の頭に手を置き、この場をあとにしようとするみゆ。

「ていうかお兄さん」

 先輩を見るみゆ。

「はい」

「どっかで見たことある顔だな。誰だっけか?」

 首を傾げた。先輩も首を傾げた。

「まあいいや。きらら、めい、行くぞ」

「いいなもえさんは! イケメン刑事さんを独占できて」

 怒るきらら。

「これも国家権力ですかね!」

 怒るめい。

「国家権力って……。この人はそんなにえらいのか!」

 もえは苦笑いでツッコミをした。

「さ、僕たちも事件の糸口を見つけにいくとしよう」

 二人はパトカーに乗り込み、捜査を再開した。


 捜査は夜まで続いた。捜査といっても、もえと先輩に関しては、パトカーで巡回するだけである。その他の刑事は、自転車や徒歩のグループもいる。ここまで、手がかりはなに一つ得られていなかった。

「ふわあ……」

 もえは、あくびをした。

「あ、すいません!」

 すぐに謝った。

「いいよ。窓開ける?」

「はい」

 二人は窓を開けた。

「おかしい。なぜここまでやっても見つからないのか……」

 もえは、疑問に感じた。

「今日はたまたまお休みとか?」

「そんなことありえますかねえ?」

「あながち間違ってないと思うよ」

「そうですか?」

 もえが、窓枠にひじを置き、ほおづえをした時だった。

「うわっ!」

 先輩が走らせるパトカーの前に、突如飛び出してきたキツネが。急ブレーキをかけギリギリで止めた。

「だ、大丈夫ですか?」

「びっくりしたあ。突然キツネが飛び出してくるんだもん」

「キツネが東京に現れるなんて……」

 二人はパトカーを降りて、キツネがひかれていないか確認した。

「キツネがいない」

「ギリギリ逃げ切ってくれたのかな」

 安堵する先輩。

「いや、そもそも東京の下町にキツネが出るなんてこと、ありえませんよ」

「そうなの? 僕、実は出身が北海道だから、キツネが出てくるのは当たり前の光景なんだよね」

「初めて知りました。先輩が北海道出身なんて」

「クリームシチュー作るの、得意だよ?」

「それはともかく。都内にキツネ、これはありえません」

 あごに手を付け考え込むもえ。

「え、じゃあなんだっていうの? ネコだったの?」

「それもありませんよ。だってキツネだったもん」

「動物園から逃げ出し……いや、だったら園の人が探索に来ているはずだ」

「私が思うに、答えはただ一つです!」

「うん!」

 二人は顔を見合わせ、ほほ笑んだ。


 捜査をおえ、警部にキツネの件を報告した。

「幻術士がキツネの幻を見せて、お前たちを惑わしただと?」

 と言って、警部は笑った。

「あははは! そんなことがあるはずがない。なぜなら、やつはただの手品師だからだ。昭和の時代にいたカード売りのおやじみたいに、インチキ商売しているやつといっしょでな」

「でも、都内にキツネが出るなんてありえません!」

「山波君。そんな非現実的な報告は、誰も信用はせんよ。もう少し、真っ当な調査をしてくれたまえ」

 警部は席を離れた。

「そんな……」

 落ち込むもえ。

「大丈夫だよ山波さん。警部は幻術にやられた話より、幻術を見せた本人を拝みたいんだ。だから、ああやって言われるのもしかたがない」

「じゃあ、幻術士本人をつかまえればいいんですか?」

「そういうことになるね」


 翌日。下町にある公園にて、幻術士五郎丸が現れた。

「へっへっへ。今は十六時。子どもや学生、アルバイトなど一部の社会人が帰る頃合いじゃ。今日も稼ぐぞー?」

 幻術士五郎丸と書いた看板を掲げ、グッズの入ったカバンを用意して、準備オッケー。

「さあさあよってらっしゃい見てらっしゃい! 幻術士五郎丸のショータイムだ!」

 公園にいる子どもたちがそろって五郎丸に顔を向けた。

「えーほんとー!?」

 だが子どもたちの前に、女子高生三人組がやってきた。

「な、なんじゃお前ら? もしかして、わしのショーを見に来たの?」

「もちろんですよ!」

 と、きらら。

「ここいらじゃファンもいるくらい有名だとお聞きになられたので」

 と、めい。

「さっそく高みの見物といこうか」

 と、みゆ。

「わ、わしにファン?」

 五郎丸は自分を指さし、当惑している。

「私たちファンでーす!」

 名探偵ガールズの三人は、そろって手を上げた。

「はっはっは! ならお前たちは一番前の特等席でショーをご覧入れてあげよう!」

 五郎丸ははりきった。同時に、公園にいた子どもたちも集まっていた。

「ではではまず。呪文を唱え、竜を出現させてしんぜよ……」

 五郎丸に釘付けになる子どもたち。

 五郎丸は意識を集中させるように、目を閉じた。そして、目を見開き、呪文を唱えた。

「竜よ! ここに現れたまえ!」

 両手をかざした。すると、スーッと巨大な竜が登場したではないか。

「おお!」

 子どもたちは圧巻の様子。

「あれか!」

 と、叫ぶきらら。

「な、なんじゃ?」

 みゆが茂みへと一直線にかけ出す。そこには、プロジェクターが常備されていた。

「なるほど。あんた、その竜は幻術でもなんでもない。こいつで流していたわけか」

 プロジェクターを掲げ、見せつけた。

「な、なんのことかな?」

「しらばっくれても無駄ですよ。私たちはもう、あなたの悪事を見抜いているのですから」

 息を飲む五郎丸。

「と言っても、ガールズの中で一番かしこいみゆちゃんが、だけどね」

 きららが補足。

「あんたは他にも、すずめを手から出したり、人形を踊らせたりして、一万円なんて額を支払わせていたみたいじゃないか」

「それがなんだというのだ? わしの幻術はそれだけの価値があって当然じゃないか」

「それがそうでもないんだな! 子どもらも耳をダンボにしてよーく聞いとけ」

 みゆは説明した。

「まずすずめを手から出す手品の種明かし。あんたは袴姿である。あらかじめ、すずめを袖に隠しておいたんだろう。そして、すずめを出す直前に袖から出やすいようにし、瞬時に取り出したかんしゃく玉を爆破した同時に、すずめを飛ばした」

「げ、幻術士なんだから、袴を着て当然じゃ!」

「じゃあこれはどうですか?」

 今度はきららが。

「人形を踊らせるトリックは、あなた人形が踊っている時に、両手を人形に向けてかざしていませんでしたか?」

 ハッとする五郎丸。

「つまり、見えない透明の糸で、あやつっていた。でも、そうすると指を動かすことになりますよね。そこで、かざしている両手を適当に動かせば踊るように細工したんです!」

「ふん! バカバカしい」

「それから、手品には関係のない話になりますが……」

 と、めい。

「許可なくお金を稼ぐためにマジックショーを開催するのはいけないことです! もうすでに、警察にも報告されています!」

 指をさし、言い張った。

 五郎丸は、その場に立ちすくんだ。子どもたちは、ひそひそと話していた。

「はっはっは!」

 五郎丸が笑った。

「なにがおかしい!」

 と、みゆ。

「おかしいさ。わしは警察になんかつかまりはしない。なぜなら、昨日すでに警察の目をあざむいてきたからだ!」

「!」

 呆然とする名探偵ガールズ。

「幻術士をなめるな! はっはっは!」

 大笑いした時だった。

「そこまでですよ、おじいさん」

 後ろから手錠をかけられた。もえの先輩だ。

「イケメン刑事さん!」

 目をハートにするきららとめい。

「あなたが昨夜、今使用したプロジェクターで、キツネを映していたことは、もうすでに立証済みです。逮捕します!」

 もえは、五郎丸をにらみつけ、逮捕状を見せつけた。

「警察には敵わん……」

「イエーイ!」

 子どもたちが歓声を上げた。

「ねえみゆちゃん」

 きららが聞いた。

「なんだ?」

「これって、あたしたちの手柄? それとも、もえさんたちの手柄?」

 みゆは息を一つ吐き、答えた。

「どっちでもいいよ」

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