私立メイド学園F組 小牧まい
みまちよしお小説課
1・私立メイド学園に入学しました
第1話
四月。桜が満開な時期。十五になった
理事長が、女性の働き方改革の方針に乗っ取り、開校した学園らしく、入学してきた生徒たちはメイドとして指導を受けながら、卒業後、どの就職先でも活躍できるようにするのが、目論みでした。今年度は、約三百人の新入生を迎えました。
「今日から私、ここでメイドになって、卒業後はどこに行くかわからないけど、りっぱな社会人になるんだ……」
校門の前で意気込むまい。
「パパ、ママ! 見ててくださーい!」
声を上げると。
「もしかしてあなた、新入生ですか? わたくしここの寮母をやっております」
メイド服を着た寮母が、丁寧なあいさつをしてきました。
「あ、ああ! よ、よろしくお願い致しますう!」
あわててあいさつを返すまい。
「おほほ! さあさあ入学式が始まりますよ? 早くいらして」
「は、はい!」
寮母に導かれ、まいは校門をくぐり抜けました。
この時のまいは、未知なる場所への期待が溢れていました。そう、新入生テストを受けるまでは。
新入生テストでは、中学でやった国語や数学などのペーパーテスト、礼儀作法、自己紹介などが行われました。
「あ、あ……。わ、私はこ、小牧まいと申しまする!」
皇帝に出てくるような高貴な雰囲気の教員を前にして、度緊張のまい。
結果は当日わかるようです。これから寮に案内される時、知るらしい。
「なんで寮に案内されれば結果がわかるのかな?」
首を傾げるまい。
「はい新入生のみなさん!」
寮母が手をパンパン叩いて呼んでいる。
「入学式お疲れ様でした。さて、みなさんをこれから寮へとご案内致します」
「寮! メイド学園ってくらいだから、きっとシャンデリアがあって、ろうそくがあって、お姫様のお部屋みたいなんだろうなあ……」
一人で踊り舞っていると。
「わっ!」
誰かの背中とぶつかりました。
「ごめんなさい!」
「い、いえ……」
メガネをかけた、三つ編みのおとなしそうな女の子でした。
寮母に案内され、新入生たちは寮のロビーにやってきました。
「ではテストの結果がよかった方から、お名前をお呼びします。呼ばれた方は、左から順にお並びください」
一人ずつ呼ばれていきました。まいはドキドキする心臓を押さえながら、呼ばれるのを待ちました。
しかし、一向に呼ばれる気配がありません。
(あれ? もしかして、不合格!?)
あせりました。まさか、このまま帰らされるのではないか、その不安だけが、頭をよぎりました。
(でも! まだ呼ばれてない子もたくさんいる!)
少しホッとしました。
「以上まで呼ばれた方たちが、E組となります。あなたたちは、優先的に、二階のシャンデリアとろうそくのある、豪華なお部屋をご使用いただけます」
寮母の発言を聞いて、E組までの女子生徒たちがきゃっきゃ歓喜を上げました。
「へ? E組?」
と、まい。
「では続いて、F組の方たちをお呼びします。F組の方たちは、大変申しわけございませんが、一階の古い和室をご使用させていただきます」
「わ、和室?」
「小牧まいさん!」
「は、はい!」
まいは、右の列に並びました。その後も、F組となった生徒たち三十人が、まいの後ろに整列しました。
「えーみなさん。この学園では、成績の順でクラスを決めています。A組のみなさんは最も成績がよかった方々、そしてF組のみなさんは、最も悪かった方々です」
「そ、そんな~!」
寮母の話を聞いて、まいは奈落の落とし穴でも落ちた気分に浸りました。
一階の寮は、十二畳もある和室で、広々としていました。
「なーんだ。結構いいとこじゃん!」
満足するまい。
「見てみて! 逆立ちとか側転できちゃうよ?」
逆立ちをするまい。
「ふんっ。お気楽なもんだな」
と、横になっているロングヘアの不良ぽい女の子。
「ここが一人部屋ならもっと最高なのによ」
「あ、ああ……」
まいは、不良ぽい彼女が少し怖く感じていました。
「あ、ねえねえ。君は名前なんていうの?」
端でお山座りしているメガネの女の子に声をかけました。
「ひっ! あ、えっと……。ひ、ひとみです……」
「へえーひとみちゃんっていうのか。私小牧まい、よろしくね!」
握手を求める。
「は、はい……」
握手をするひとみ。
「あ、君は名前なんてーの?」
不良ぽい女の子にも名前を聞きました。
「ゆうき……」
と、一言つぶやくゆうき。
「男の子みたいな名前だね」
「むっ」
ムッとしました。
「お前なあ。馴れ馴れしいにもほどがあるんだよ!」
体を起こし、まいをにらむ。
「ひい! ご、ごめんなさい!」
「ていうか、自分たちがなぜここに連れて来られたのかわかってんだよな?」
「へ? あ、あーそれはもちろん、私立メイド学園の面接と作文に受かったからで……」
「あんなもん適当に書いて適当にしゃべりゃ誰でも受かるよ。それよりも、新入生テスト! お前ら、あたいもF組に入れられた。つまりこれはどういうことかというと……」
まいとひとみは二人で息を飲む。
「三人とも、学力も礼儀もない、バカだってことだ」
と言って、起こしていた体を横にしました。
「バ、バカ?」
ひとみを見つめるまい。
「え、ええっとその……。あ、ああ、あたしはその極度の人見知りが原因で、あがりすぎていたのが原因かもしれません……」
「ひとみちゃん。それは私もいっしょだよ~。だってさ、目の前にミュージカル劇でしか見たことないような高貴な格好した人が自分に視線を送っているんだよ? 緊張するのも無理ないよ」
「別に、そこまでお高く見積もる必要はねえよ」
と、ゆうき。
「ここは要はさ、女性の働き方改革のためにできた学校だ。メイドになるための学校じゃない。あくまでも、メイドして過ごしながら、将来の道筋を決める場所だ」
まいとひとみに目を向け、
「だから、あたいがこんなだろうがお前らが緊張しいだろうがバカだろうが単位が取れれば文句ねえんだよ」
「……」
聞いて、二人は呆然としました。今までメイド学園という高貴な人ばかりで緊張していた最中、自分の進路が決まればそれでいいという意気込みの人もいるんだということが、今ここで判明したのです。でも少しだけ、緊張が解けたような気がしました。
夕方六時。食堂で夕食がスタート。
「私ピーマンきらい。ゆうちゃん、ひとみちゃん食べて?」
「ゆうちゃん呼ぶな」
ツッコミを入れるゆうき。苦笑いするひとみ。
「あらあ? メイドのくせに好ききらいするのかしら?」
金髪のロングヘアの女の子がしゃべりかけてきた。
「だ、誰ですか?」
「わたくしが本日からA組となった新入生の
スカートを両手に持って、お辞儀をした。
「あなたたちは新入生テストの結果でF組にランクインした方々ですわね?」
「ええ、まあはい」
答えるまい。
「ま、せいぜいランクアップできるよう日々努めることね」
髪をなびかせると、そのまま立ち去っていきました。
「なんだあいつ? 勘違いババアじゃねえのか?」
イスに深く腰をかけるゆうき。
「ゆうきさん! メイド学園では、食事の摂り方も徹底しております」
「へ?」
寮母です。
「お食事中は姿勢を正してください」
「んな細かいこと気にしなくても……」
「どうしても聞いてくれないというならしかたありませんね……」
寮母が懐からリモコンを出して、スイッチを押しました。
すると、ゆうきの足元から機械仕掛けの手が出てきて、ゆうきの肩、腕、足を掴み、強引に姿勢をよくしました。
「え?」
唖然とするゆうき。
「言うことを聞かないと、こういうことになりますので」
寮母は去っていきました。
「……」
呆然とするまいとひとみ。
翌朝。F組の教室へ向かうまい。
「メイド学園の授業ってどんなのだろう? きっと、まずはあいさつの仕方から何度もやらされるんだろうな。ごきげんようごきげんようって!」
わくわくしました。
F組の教室。
「あ、ゆうちゃんもひとみちゃんも席が近いんだね!」
まいとひとみが隣の席で、まいの前にゆうきが座っていました。
「だからゆうちゃん呼ぶな!」
「よ、よろしくお願いします」
ひとみがあいさつ。
「はいみなさん席に着いてください」
授業を開始するベルとともに、若い女性教員がやってきました。
「私はF組の担当をする
「な、なんか寮母さんより怖そうな人……」
まいがひとみに耳打ちすると。
「おいそこ!」
松田先生がまいにチョークを投げてきました。
「うにゃ!」
額に当たり、声を上げるまい。
「授業中におしゃべりは禁止。いいか君たち? ここはメイドとして勉学に勤しみ、時に街へご奉仕に実習へ繰り出すこともある。君たちにはまず、普段の素行をよくしてもらうことから始めてもらう」
「素行?」
ひじを付いたままつぶやくゆうき。
「おい! 人の話をひじ付いて聞くな!」
松田先生の注意に動じず、
「ふん。だったら姿勢がよくなるほどの話をしてみろよ」
ゆうきは悪たれた。
「ほう……」
ムッとする松田先生。
「あわわ……」
後ろで戸惑いを見せているまいとひとみ。
「まあいい。私松田は、国語担当だ。今から君たちには、これから配る読み物の書き取りをしてもらう」
松田先生は、左から順に、生徒たちにプリントを配りました。
「いいか? これからじゅげむを下の枠に写してもらう。ただ書くだけじゃダメだぞ? バランスや形をなるべく見本に似せるように書け。一文字でも汚いやつは、放課後まで居残りだ!」
「そんな!」
思わず声を上げるまい。
「無事合格した者には、今日の給食に出てくるいちごプリン、私の分をやろう!」
生徒たちの目が輝く。
「がんばっちゃうぞ!」
まいはやる気に満ち溢れ、書き取りを始めた。
「あ、あたしも!」
ひとみも書き取りを始めました。
「ふん、たかだかプリンくらいで……」
なんてふてくされているゆうきも、書き取りを始めました。
(まあ、甘いものが苦手で、あげる口実ができただけなんだけど)
松田先生は心の中でつぶやいた。
授業のおわりを告げるベルが鳴りました。
「では給食の時間、いちごプリンを渡された者は合格だ」
「ていうかさ、先生のプリンをくれるってことは、合格者は一人だけってことだよね?」
と、まい。
「そういうことになるな」
と、ゆうき。
「じ、じゃあほぼ全員居残りじゃないですか」
と、ひとみ。
「誰が……」
と、まい。
「先公のプリンを……」
と、ゆうき。
「もらうんでしょう……」
と、ひとみ。三人はお互いを真剣な眼差しで見つめ合いました。
お昼休みになりました。本日のメニューは、ご飯、豚汁に、ふわふわの甘い卵焼き、キャベツともやし、にんじんの入った炒め物、たくあん、そして、いちごプリンでした。
「松田先生!」
まいは、食堂の窓際の席に座って食事をしている松田先生を見つけました。
「一体誰にプリンを渡すんだろう……」
まいは、松田先生ではなく、彼女の手元にあるいちごプリンに目を向けていました。
「松田だ」
ゆうきは、食堂の窓際の席に座って食事をしている松田先生の後ろ姿を見つけました。
「一体誰にプリンを……」
ゴクリと息を飲んで、松田先生、いや、いちごプリンをじっと見つめていました。
「松田先生だわ!」
ひとみは、食堂の窓際の席に座って食事をしている松田先生を、向かって左から見つけました。
「あたしにくれないかな?」
いちごプリンを見つめ、そう願いました。
その他、F組に生徒全員が、いちごプリンに目を向けていました。プリンは一人につき一個、チャンスは一人につき一回。
「ふう」
松田先生が、すべての食事をおえました。そして、立ち上がりました。
「いよいよだ!」
と、ゆうき。F組の生徒全員が、胸をドキドキさせました。一体誰が合格し、誰の手にプリンが渡されるのか……。入学二日目にして、ハラハラドキドキのゾーンに突入。
お盆にのせたプリンを運びながら、F組の生徒のそばを歩く松田先生。両手を組み、懇願する生徒もいました。
「お願いしまーす……」
まいとひとみのその中のうちでした。
F組の生徒を見渡す松田先生。
「F組の諸君、ちゅうもーく!」
声を上げる松田先生。F組の生徒全員が、注目。
「残念だったね。結果は全員不合格だよ」
「ガーン!」
生徒全員、落ち込みました。
「そ、そんなのアリ?」
まいとひとみも落ち込んで、机に伏せていました。
「見本通り、バランスよく書けと言ったろ? 放課後、全員居残りな?」
「待ってよ」
ゆうきがそばに来ました。
「なんだ?」
「先生さ、甘いものが食べれないから、いちごプリンを残す口実として、今回のこと思いついたでしょ?」
「ギクッ」
「図星かよ」
「教師たるもの、そんな小学生でも思いつくようなことするはずがない」
「でも、今のギクッてなんだよ?」
「あれは腰がやられたんだよ」
「ウソこけ」
「ぐぬぬ……」
ゆうきをにらむ松田先生。
「じゃあ先生。先生も私たちにきらいなものをよこそうとしたってことで、居残りなしにしてくれませんか? これでおあいこでしょ?」
まいが言うと、生徒全員が賛同しました。
「な、な……」
当惑する松田先生。
「しかたない。今回は、だぞ?」
松田先生は了解して、お盆にのせた食器を片しに向かいました。
「ああ待って! プリンくださーい!」
いちごプリンが、まいの手元に投げつけられました。
「わーい!」
「いちごプリンよこせーっ!!」
ゆうきとひとみ、その他F組の生徒たちがいちごプリンのため、まいに迫ってきました。
「きゃあああ!!」
食堂はF組の生徒のせいで、騒がしくなりました。
「バカバカしい……」
A組のアリスが呆れて、お盆の食器を片しにいきました。
惜しくもF組となったまい。しかし、にぎやかで楽しい学園生活になるかもしれません。
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