恋の魔法♡
みまちよしお小説課
1.魔法がかかっちゃった♡
第1話
中学一年生のひとしは、学年全員から嫌われていた。なぜかって? それは顔が怖いからである。
ろうかでひとしを見かけた女子たちがヒソヒソ話をしてくる。キッとにらみ付けてくるひとし。
「きゃあああ!!」
女子たちは逃げていった。
「俺はぽんだ
ろうかでサッカーを蹴った男子。ボールがひとしの後頭部に強打した。
「うわあああ……」
青ざめる男子。
「ごごご、ごめんなさーい!!」
男子は逃げていった。
「て〜」
ひとしは後頭部をさすった。
校内を歩けば、ひとしは生徒全員から凍り付いたような顔で見つめられた。当然、こんなだから友達もいない。
(俺、そんなに怖い顔してるのかな……)
実はわりと気にしていた。
家に帰ったひとしは、自分の顔を鏡で見た。まわりの視線に気づいてから、毎日見るようにしている。
ひとしはよく親戚から、鷹のようにするどい目をしていてかっこいいと言われていた。だから、内心自分の顔が誇らしいと思っていた時期もあった。でも、中学生にもなると、大人っぽくなってきたせいか、怖がられるようになった。
「そもそも、俺の顔が怖がられるのは、俺の性格もあるんだよなあ……」
ひとしは幼い頃から人見知りが激しかった。その上、素直じゃない性格をしていた。本当のことは表に出さず、つい反対のことを言ってしまう、そんな性格だった。
「はあ……」
ため息が出た。
「ふっふっふ……。悩んでいるな少年!」
ひとしは後ろを振り返った。
「うわあああ!!」
イスからひっくり返った。後ろには、モミの木がいたのだ。
「びっくりした? お姉ちゃんだよー」
モミの木の身ぐるみを脱いで、姉のひとみが顔を現した。
「姉ちゃんいい加減にしろよそのわけのわからない変装!」
ひとしは怒った。
「えー? あんたこうでもしないと勝手に部屋に来てもぶすーっとしてんじゃない」
「ノックしろよノック! しないでこっそり入ってくるから気づかないんだろうが!」
「まあいいわ。あんた、悩んでるでしょ?」
「はあ?」
顔をしかめるひとし。
「お姉ちゃんはわかる。あんたがその無愛想を振りまいていても、心の中ではズシーンと重い悩みを抱えていることを!」
「早く部屋から出てってくれる?」
ひとしは勉強机に座って、宿題ノートを広げた。
「おいで! お姉ちゃんが抱きしめてあ・げ・る♡」
抱きしめてこようとするひとみを押さえるひとし。
「気持ち悪いんだよ!」
ひとみを突き放した。
「ほっといてくれ! 姉ちゃんに俺のことなんか関係ないだろ!」
「いいの? あんたはそれで。顔のせいで、そのうちいろいろなところで損をするかもしれないのよ?」
ひとしはひとみにパッと振り向いた。
「高校受験、大学受験、就職試験……。至るところでその顔を恐れられ、あんたはどこの居場所をなくすなんてことも、考えられるのだ!」
といって、ひとみは人差し指を向けた。
「ね、姉ちゃん……」
ワナワナと震えるひとし。
「実は、ひとしに試してほしい試薬品があって……」
それを教えようとする間もなく、部屋から追い出されてしまった。
「大丈夫よ! 今度はアフロになったりお腹壊したりしないから!」
「もういいからどっかいけ!」
ドア越しから聞こえるひとしの怒声。
「もう! じゃあ今から、お姉ちゃんおっぱい見せてあげよっかなあ?」
なにも返事がなかった。
「中学生のくせに。年頃でももっと大きいのがいいのかねえ……」
肩をすくめると、
「ほげっ!」
部屋からテニスボールが投げつけられた。
「それくらいでかくなってから言え!」
ひとしの声が聞こえた。ひかるはテニスボールを見つめ、壁に投げつけた。
夕方。
「ひーとーし!」
ひとみは小瓶を手にして、部屋の前にやってきた。
「ねえねえ。試薬品を使ってほしいんだけどさ、ちょっと付き合ってよ」
なにも返事がない。
「今度のは、一日中お腹が痛くなる便秘薬とか、活力が付きすぎて、爆発してアフロになる栄養ドリンクでもない、秘薬よー?」
ドア越しからひとしの声が。
「悪いけどどっかいってくれ」
「うーん……」
ひとみは考えた。
ひとしは勉強机にある鏡を見つめ、ため息をついた。
「もし俺がこんな顔じゃなければ、もし俺が人見知りじゃなければ、人生違ってたのかな……」
と、考えていると。
「その悩みをサラッと解決してくれる神秘の薬を開発したのよ?」
後ろから、小瓶を差し出す手が。ひとしは後ろを振り返った。
「うわあああ!!」
イスからひっくり返った。
「どうやって入ってきた! ドアにはカギをかけてたんだぞっ?」
ひとみは答えた。
「実はドアに穴を開けて、もう一つ真ん中に、小さなドアを取り付けたのだ!」
「いやどうやってこの短時間で作ったんだ!」
「それよりひとし! あんたのために、私はこの秘薬を持ってきてやったって、何度も言ってるでしょ?」
ムスッとしているひとみ。
「いや知らないよ……。ていうかまた妙な薬を作ったのか!」
「私薬剤師だもん」
「薬剤師なら変な薬作るんじゃねえ!」
「だって薬局の仕事って、家でくだらない薬でも作らないとやっていけないくらいつまらない仕事なのよ!?」
「じゃあなんで薬剤師なんてなったんだよ……」
呆れて聞いた。
「こういうの作ってみたかったから!」
小瓶を差し出した。ひとしは返す言葉が見つからなかった。
「この薬はね、惚れ薬なの。香水のように体に付けて、誰かと視線が合えば、その人はメロメロ状態になり、薬を塗った人にぞっこん! つまり、顔が怖いと言われているあんたでも、みーんなメロメロになってしまえば万事解決ってわけよ!」
「いや、待て! そんなもの塗ったくってまで、みんなに好かれたくない!」
「断る!」
「なんでだよ!」
ムッとするひとし。
「私がこの試薬品を成功させて、お金持ちになりたいから。協力してもらうわよ〜?」
ニンマリするひとみ。
「お前どうしようもないクズだな……」
「あんたは知らないと思うけどね! 薬剤師の年収って五百万なのよっ?」
「めっちゃ安定してるじゃねえか!」
「なーに言ってくれちゃってるの? この世の中、億単位のお金稼ぐ人もいるのよ? 私もその一人になるのよ!」
と言って、
「きゃは!」
かわいくポーズした。ひとしは唖然とした。
「まあとにかく! 使ってみてほしいんだこれ」
無理やり、小瓶を渡してきた。
「ち、ちょ待てよ! まだ使うなんて言ってないだろ?」
「俺は使うぜ!」
男らしい声を出すひとみ。
「は?」
ポカンとするひとし。
「あ、今使うって言ったね? 言ったね! じゃあお願いね? 普通の香水みたいに、体のどこでもいいの。そうね、耳の裏とか。匂いを嗅がせて、男でも女でもお年寄りでもなんでも気に入られてきなさい!」
と言って、ひとみは部屋を出た。
「あ、それから」
また戻ってきた。
「これ洗濯物。お母さんがついでに持っていけってさ」
ひとしの着替えを置いていった。
ひとしは小瓶を見つめた。ピンク色した液体の入った小瓶。片手でくるくる回していると、裏にラベルが見えた。
「恋の魔法? こいつの名前か?」
やれやれという顔をしつつ、学ランのポッケにしまった。
翌日。学校に来れば、まわりからは凍り付いたような視線を浴びせられた。
(ほんとはなにも考えずに歩いてるだけなのにな……)
途方に暮れながら、自分の席に着いた。近くで話していた男子たちがその場を走り去っていった。
「はあはあ! ま、間に合ったあ!」
ひとしの隣の席の人が滑り込みで席に着いた。
(げっ。来たよ来たよ……)
ひとしは顔をしかめた。隣の席の男子、ゆうきはひとしが学年で唯一苦手な人だった。男子なのに女子みたいな雰囲気というのはともかく、完璧主義なひとしにとって、彼は邪険でしかない。
「おはようひとし君! ねえねえ、今日僕宿題してきたよ? 漢字の書き取りだよね。あーもうノートにびっしり書いてきたから右手が痛くなっちゃったよ〜」
右手をプラプラするゆうき。
「今日の宿題は……」
ひとしは、
「数学だろうがあ〜!!」
怒鳴った。
「えー!?」
ゆうきはすぐに連絡事項が書いてある後ろの黒板を見た。宿題の欄には、漢字じゃなくて、数学の宿題と記してあった。
「そんな〜!」
ガッカリするゆうき。
「写させて?」
手を組んでお願いした。
「誰が写してやるもんか!」
「なんで〜! これで僕、十回も宿題を忘れたことになるんだよ〜!」
「知らないよそんなの!」
(ああもうなんで学校に来ればこんなのに振り回され、他のやつからは怖がられるんだ!)
心の中で、ひとしは叫んだ。
そして次の休み時間に、ひとしは中庭に来て、ポッケに忍ばせておいた恋の魔法を出した。
「こいつを体に吹きかければ、みんなが俺に寄ってきてくれるのだろうか……」
一か八か、ひとしは右と左の耳の裏に、シュッと吹きかけた。
「あはは! なーんてバカなことしてんだよ俺は!」
笑った。
教室へ向かう途中、やっぱり効果はないんだなと実感した。誰も目を合わせてくれないからだ。
(そもそも、誰も俺みたいなのに目を合わせようとするやつはいねえんだよ、姉ちゃん。俺は勉強をがんばって、一人でもいい高校行っていい大学に進学してみせる……)
教室に来た。
「あっ! ひとしく〜ん!」
泣きながらゆうきが近寄ってきた。
「な、なんだよ? 来るなよ!」
ひとしは怒った。
「十回も宿題忘れたから、先生が補習をさせるって……。あれ? いい匂いだねひとし……」
ゆうきは、目を見開いた。そして、視界がぼやけ、ボーッとするのを感じた。
(あれ……。なんだか、胸が苦しい……。彼を見てると……)
「お、おい。ゆ、ゆうき?」
ひとしは目を見開き、突然ボーッとするゆうきを心配した。
「ゆうき!」
大声で呼ばれてハッとなるゆうき。
「ど、どうしたってんだよ?」
ゆうきはひとしを見つめた。
「すてき……」
と、つぶやき、
「ひとし君愛してる……」
突然抱きしめてきた。
「ええ!?」
ひとしも驚いたが、他の生徒たちも驚いた。みんな彼らに釘付けになった。
「や、やめろ! 離れろ!」
「ひとし君。キスして?」
キスをせがんできた。当惑するひとし。
「す、するかよーっ!」
彼を突き放し、逃げた。
「あ、待ってー!」
ひとしとゆうきは二階へ上がり、理科室へ入った。
「うわあああ!!」
ひとしが人体模型、ゆうきが骨格標本を持って三階へ向かった。その様子をあとから来たクラスメイトたちが覗いていた。
ひとしとゆうきは三階へ上がり、音楽室へ入った。
「うわあああ!!」
ひとしがアコーディオン、ゆうきがシンバルを奏で、屋上へ向かった。その様子をあとから来たクラスメイトたちが覗いていた。
そして屋上。突風が吹く中、ひとしとゆうきは対面した。
「チュー!」
キスしようと向かってきた。どうするひとし!
「とう!」
ひとしは、屋上から飛んだ!
「おお!」
あとから来たクラスメイトたちが声を上げた。
「なんて感心してる場合!? 早くクッション用意しないと!」
ゆうきは猛ダッシュで下へ向かった。
「くっそ〜! 勢いで飛び降りるもんじゃねえなあ!」
落ちながら、自分のバカさ加減にイラ立ちを覚えた。
「でも今はそんなことしてる場合じゃない! 命を落とさないように、なんとかしなければ! どうすれば!」
さすがに学校の屋上から落ちながら冷静な判断はできない。そこで、突発的に方法を下すことにした。
「こうなったら!」
下では、ゆうきが先生や他の生徒たちを誘導して、巨大なクッションを用意していた。
「ひとし君はきっとこの辺に落ちてくるから、頼みますよ!!」
ひとしは学ランを脱いだ。
「あ、あれだ! みんな、絶対受け止めるぞー!」
校長の指示で、巨大クッションを広げる生徒と先生たち。
「はあーっ!!」
ひとしは学ランを拡げて、パラシュートみたく使用した。そのため、落ちる速度が下がり、無傷で巨大クッションの元へ着地することができた。
「ひとしくーん!!」
泣きながらゆうきが抱きついてこようとかけてきた。
「元々はお前のせいだろうが!!」
げんこつしてそれを制した。
ひとしは、ゆうきを連れて、家に向かった。
「お前がそうなったのはな? 俺の姉ちゃんのせいなんだ!」
「ど、どこ行くの?」
「俺の家だ!」
手を引っ張られながら急ぎ足で向かうひとし。その姿を見てゆうきは胸をときめかせる。
「や、やさしくしてね……」
「はあ?」
呆れるひとし。
家に着いた。
「姉ちゃんいるか!」
部屋のドアをバンと開けた。
「いないな……」
部屋には誰もいなかった。
「しかたない。とりあえずここで待つぞ?」
ゆうきを中に案内した。
「おじゃまします……」
中に入った。正座するゆうき、ひとしは彼に背を向けてあぐらをかいた。
「ひ、ひとし君?」
「なんだよ?」
「まだ好きになって間もないのに、二人きりでお部屋に案内するってことは……。つまり、そういうことだよ……ね?」
膝をモジモジさせた。
「あのなあ……」
イライラするひとし。
「これから姉ちゃんが帰ってきたら説明するけど! これは薬のせいで変になってるだけなんだよ! お前はほんとに俺のことを好きになってるわけじゃないんだよっ?」
「で、でも僕君のこと想って、ドキドキしているんだ。こんなの、初めてだよ……」
「今からその気持ちをすっきりと拭い去ってやる! ていうか姉ちゃんどこでなにしてんだ? 今日は有給で休みだろ? 休みはいつも部屋にこもってるくせに!」
どうにも落ち着かなくて、部屋を出るひとし。他のところを探しに行くことにした。
「ん?」
なにか音がした。それが、隣にある自分の部屋からだった。
「あれ? ドアが閉まってる。自分が使う時以外は閉めないのに……」
誰もいないはずの部屋から聞こえてくる音。ひとしはなんのためらいもなく、ドアを開けた。
「あ、おかえり」
そこには、お菓子とお茶を用意して、テレビゲームをしているひとみがいた。
「おい、なにしてる?」
「ゲームだよ」
「なんで俺のやつ勝手に……」
ワナワナと震えるひとし。
「いやあこのゲームむずかしいねえ。でもとりあえず五ステージまで進めたから」
「まだ開封もしてないのに勝手に進めんじゃねえ!!」
ひとしの怒鳴り声は、家の外まで響いた。
「ほうほう!」
部屋に戻ったひとみは、連れてきたゆうきのことをまじまじと見つめうなずいていた。
「あ、あの……」
困惑するゆうき。
「あんた、男の子が好きだったんだ……」
と、つぶやくひとみ。ひっくり返るひとし。
「なわけねえだろ〜!!」
「いいのいいの。好きに理由なんてないんだしさ……」
「姉ちゃんの作ったこのわけのわからんもののせいで好きになっちまったんだろうが!!」
ひとしを恋の魔法の小瓶を見せ、怒鳴った。
「ゆうき君!」
「は、はい!」
「今どんな気持ち?」
「え、えっと……。その、なんだか胸がドキドキするというか、自分でもどうしてこうなったのかよくわからないんですけど。ひとし君を見た瞬間、もう止まらないんです!この胸のときめきが収まらないんです!」
「なるほど……」
あごに手を付けるひとみ。
「なーにがなるほど……だよ?」
呆れるひとし。
「実は恋の魔法には、ほ乳類の動物が交尾をする時に感じるフェロモンみたいなのを配合していて、それとさらに、いちごミルクやチョコレート、バナナに生クリームなど、甘々なものをたくさん混ぜて作った薬なのね。その結果、香りを嗅ぐと、胸がドキドキして、目を合わせた香りの主のことを好きになる仕組みなのよ!」
「な、なんでそんなもん俺に勧めたんだよ!」
ひとみは答えた。
「こうでもしなきゃ、あんたはずっと顔が怖いと謳われ続け、誰も寄り付かなくなるからよ。ほんとのところどうか知んないけど、使いたくなってみたくなったんじゃない?」
図星なのでなにも言えない。
「図星かあ!」
ケラケラと笑うひとみ。
「腹立つなこの姉は!」
怒るひとし。
「使うタイミング間違えると、こうなるわよ」
ゆうきが抱き着いてきた。
「じゃあどうしたら元に戻せるんだよ?」
ひとしはゆうきを突き放すと、聞いた。
「知らない」
「は?」
「まだ解毒薬も開発してないから!」
ヘラヘラとして、
「早く作れ今すぐ作れ速攻で作れ!」
せがまれた。
「く、薬作るのに何日、いや何年かかると思ってんのよ! 承認されるのもえらい時間かかるってのに!」
「惚れ薬チャッチャッと作れたんだから、解毒剤だって早くできんだろ!?」
「いや、恋の魔法できあがるのに半年はかかったからね?」
ひとしはうつむいた。
「僕も……」
ゆうきが後ろから抱きしめてきた。
「僕もなんだかよくわからないまま好きになっちゃったけど、どうにかならないか、模索してみるよ。だから、いっしょにがんばろ? ね!」
微笑んだ。ひとしは……。
「抱きしめてくんなー!!」
怒鳴った。
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