6.マムシちゃん、合宿免許に行くinアカマタ
第6話
マムシちゃんは、今飛行機に乗って、爆睡していた。なぜマムシちゃんは、飛行機に乗って、爆睡しているのかというと、こんな
それは先週、マムシちゃんがスーパーに行った時のこと。
「ふう。これでオッケー」
買い物をおえて、いつものバスに乗ろうと、バス停に向かった。
「あれ? もう来てる!」
いつも五分は遅れてくるはずなのに、今日は定刻通り来ているバス。
「待った待ったーっ!」
マムシちゃんは、急いだ。しかし、買い物袋が重すぎて、早く走ることができない。もたもたと走っている間に、バスは発車してしまった。
「はあはあ……。ま、待って……」
バス停に着いたが遅く、バスは行ってしまっていた。マムシちゃんは、その場でがくりと、座り込んだ。
「あ?」
力なく見つめる先には、車があった。
「車があればなあ……」
これが、あることのきっかけだった。
「まもなく、那覇空港に到着いたします」
キャビンアテンダントのアナウンスが流れた。マムシちゃんは、ハッと目を覚ました。
「もう着いたの……?」
眠気眼をこするマムシちゃん。
飛行機は、着陸し、那覇空港に到着した。
「はい合宿免許の方は、こちらに並んでくださーい!」
ガイドさんが、旗を上げて指示している。合宿免許の生徒たちが集まってきた。
「よっこいせっと!」
マムシちゃんは、持ってきたキャリーバッグを置いた。
「あっ。あれが合宿免許のガイドさんか。よーし、沖縄の合宿免許で、車の免許を取ってやるんだ!」
マムシちゃんは、合宿免許のために、わざわざ沖縄へ来たのだ。
合宿免許の生徒たちは高速バスに乗って、自動車学校へと案内された。マムシちゃんは、またバスの中でも寝た。いびきをかいてもたれかかってくるので、隣の女学生は困った。他の学生たちは、沖縄の澄んだ青い海に感動しているのに、一人だけ寝ているなんて、もったいない。
バスに揺られ十分。自動車学校に到着。まず学生たちは、教室へ案内された。さっそく、学科教習が始まるのだ。
「さんざん寝たし、余裕で受けれるっしょ!」
と、マムシちゃんは気分がよかった。
「はーい教習始めまーす」
教員が入ってきた。
「はいまず十ページ開いてくださいね」
言われたとおり、開いた。
(なにこれ? なにが書いてあるかわかんない……)
開いてすぐ思ったマムシちゃんの感想。
「赤信号は進んじゃいけませんよ? 黄色は、安全に停止できない速度で走ってる場合のみ、進行できますよ。青信号は、微妙ですけど、すぐ進行しないで、安全を確認してから進行してくださいね」
「え? 赤?青? 渡るな?」
意味がわかっていないマムシちゃん。
「手信号は、対面する交通に関しては、みんな赤ですよ。両手を広げている警察官と平行する交通は青、両手を上げている警察官と平行する場合は黄色ですよ。わかりましたか?」
「こんなのほんとにいるのかな?」
マムシちゃんの思ったこと。確かに、手信号なんて、見たことない。
こうして、聞いたことも見たこともない用語やルールを一時間も聞いているうちに、だんだん頭がボーッとしてきた。マムシちゃんの目がつぶれていく。頭がカクン、カクンとなっている。
「くかー……」
そしてついに、寝た。
「おいそこ!」
大声で目が覚めるマムシちゃん。
「教習中は居眠り禁止だよ。今度やったら退場だからね?」
「あ、はいすいません……」
教員に居眠りで怒られるのは、高校生以来だった。恥ずかしかった。
やっと一時間経ち、十分間の休憩が始まった。しかし、休憩がおわれば、また教習が始まる。
「地獄だ……。第一段階十時間一日中聞き続けるなんて、地獄だあ!」
今すぐにでも帰りたい気分になった。
「ていうか沖縄にせっかく来たのに海に入れない、水族館に行けない、サトウキビかじれない、サーターアンダギー食べれないなんて最悪じゃん! せめて観光くらい取り入れてよね! やんなっちゃう!」
一人で怒っているマムシちゃんに、唖然としている学生たち。
「なんだお前。観光したいのか?」
「当たり前でしょ!」
マムシちゃんは、振り向き様に答えて、ポカンとした。
「へえー。できるといいな」
そこにはスーツを着た、金髪で銀色のピアスを付けた、好青年がいた。マムシちゃんは、顔をぽっと赤らめた。
「か、かっこいい……」
「そんなことより教習が始まるぞ? 早く席に着け」
と言って、好青年は去っていった。
「ここの教員さんかな? 自動車学校の教員って、怖いおじさんのイメージあったけど、あんなかっこいい人もいるんだ……」
うっとりしている。
「ねえねえ君第一段階の子?」
おじさんが聞いてきた。
「え? あ、はい!」
「私今から担当する教授ですけど、そろそろ始まるから座ってくれる?」
「あ、あ、はい……」
マムシちゃんは、席に着いた。
一日かかった地獄の学科教習がおわった。マムシちゃんも、他の生徒たちも、クタクタだった。
「これで学科教習第一段階は終了です。明日は技能教習第一段階をクリアしてもらいます」
「てことは、一日運転か……」
それもそれで疲れそうだと思うマムシちゃんだった。
合宿免許の生徒たちは、高速バスで、ホテルへ向かう。マムシちゃんは、ホテルが楽しみだった。
「クク! わくわくするなあ。あっ」
ふと、窓を見た。そこには、昼間出会った、あの好青年の教員がいた。
「明日技能教習で、いっしょになってくれるといいな……」
と、期待するマムシちゃんだった。
「わあー! すごーい!」
ホテルで出た豪華な沖縄料理に感激するマムシちゃん。ゴーヤチャンプル、海ぶどう、もずく、サーターアンダギー、サービスで、生のサトウキビがあった。
「でもでも。極めつけは……」
沖縄にいるカエル、オキナワアオガエル、ヒメアマガエル、アマミアオガエルが生きたまま皿に出されていた。カエルたちは、青い顔をして、おびえている。
「おいしそう!」
マムシちゃんと、その他カエルを好むヘビたち(擬人化)が、そろってよだれを垂らした。
「それじゃ、いただきまーす!」
カエルに飛びつくマムシちゃんは、思った。
(なるほど! これが観光か!)
翌朝。朝は七時に起きて、バイキング。好きなだけカエルやトカゲ、ネズミが食べられる。ご飯をおえたら、七時半にはバスに乗って、自動車学校に着くのは八時。朝八時から、技能教習が始まる。
「よろしくお願いします!」
「はいよろしく。とりあえずまずは発進と停止の練習ね」
一人学生が、教習に取りかかった。
「私誰かなあ? いまだに呼ばれないんだけど」
名前を呼ばれた学生は、その教員と技能教習を行う。十分、二十分、三十分……。マムシちゃんは、まだ呼ばれない。とうとう、一人だけロビーに立たされた。
「え、ウソー……」
こうなると、不安になるのも無理はない。マムシちゃんはあわてた。その場で意味がないのにあわてた。
「どうしよどうしよどうしよ〜!」
パニックになった。ニホンマムシは、毒があるから強そうなイメージがあるけど、実際は違う。おとなしいし、こっちがなにもしてこなければかみついてもこない。だから、強いのは毒性だけかもしれない。
「うわーん!!」
ついに泣いた。昔から、不安が高まると泣くクセがある。
「うわーん!!」
「すいませーん。前の人延長しちゃってて、遅れましたあ。マムシさん……」
教員が来た。泣いているマムシちゃんを見て、唖然としている。その教員は、マムシちゃんに話しかけた、あの好青年だった。
「おい泣いてんじゃねえよ」
マムシちゃんの肩を叩いた。マムシちゃんは泣くのをやめて、好青年に顔を向けた。
「お兄……さん?」
涙越しに、イケメンが見える。
「ぐすっ……。泣きすぎて、イケメンが見えるようになってる……。あははは……」
「いや、俺今日一日あんたの担当する教員なんすけど?」
呆れている好青年。
ようやく落ち着いたマムシちゃんを、教習車へと案内した好青年。
「始めに、俺はアカマタ。沖縄ではハブに並ぶほど気性が荒いと言われているヘビ。今日一日、お前の教習に付き合ってやるんだ。覚悟しとけよ?」
「は、はい」
「よーし。まずは乗り込め」
「はいー!」
マムシちゃんは、教習車のドアを開けて、乗り込んだ。
「うわあすごーい! 車って、こんな感じなんだ」
ハンドルを握って、感激した時だった。
「バカ野郎!!」
アカマタから、怒声を受けた。
「なな、なに!?」
「お前教本読み込んだのか? 乗る前に、車のまわりを確認しろ。んで、ドアは開閉時、安全確認を忘れるな」
「え、ええ? でも、乗るだけなのに、安全確認なんかしなくても……」
「免許取れなくてもいいのか!!」
怒鳴られた。
「いやですう!!」
マムシちゃんはもう一度乗り方をやり直して、ようやく発進までたどり着いた。
「おし、じゃあ発進するぞ」
「はーい。えーっと……。まずなにしますか?」
「チッ」
「し、舌打ち?」
「お前ほんとに教本読んだのか? まず座席の位置はアクセルブレーキを踏んだ時、ひざがわずかに曲がる程度に、背もたれはハンドルを持った時、ひじがわずかに曲がる程度、ルームミラーは後方が見える位置に、シートベルトの確認だろうが」
「えーっとえっと……。ざ、座席の位置ってどう変えるんですか?」
「ズコッ!」
呆れるアカマタ。
「下をよく見てみろ! レバーがあるから、そこで足の位置は調整しろ! 背もたれも同じだ! よく見ろ!」
「そ、そんなに怒らなくても……」
「いいからやれ! 今日中に第一段階おわらないといけないんだぞ!」
「わ、わかったよもう……。えーっとえっと〜」
座席の調整ができずに約十分が経過。しびれを切らしたアカマタが、マムシちゃんに寄った。
「足元を調整するレバーは、ここだよ!」
アカマタは親切に、助手席からマムシちゃんのシートのレバーに、手を触れてくれた。
「レバー引いてるから、調整しろ」
「えっ!? こ、このままっ?」
マムシちゃんはテンパった。だって、助手席からわざわざレバーを引いてくれたから。
でもとりあえず、アクセルブレーキまでひざがわずかに曲がる程度にまで調整した。
「背もたれはここだ」
次は、背もたれを調整するレバーを引いてくれた。マムシちゃんはドキドキした。だって、男の人とすごく密接しているから。
(これって、教習だよね?)
とは思ったけど、ハンドルをひじがわずかに曲がる程度まで握れるようにした。シートベルトを着けて、ようやく発進準備が完了した。
ブーン! エンジンキーを回すマムシちゃん。
「おいおい。ブレーキ踏んどけよバカ」
ムッとするマムシちゃん。
(なんなのそんなことくらいで。ひどい言い方!)
「早くチェンジレバーをPからDに変えて、発進してくれよ」
「はいはいわかりましたよ。やればいいんでしょやれば」
ムッとしながらチェンジレバーを動かすマムシちゃん。PからDに変った時だった。
「わっ! 動いてる動いてる!」
なぜか、車が勝手に動くのだ。ゆっくり、ゆっくりと。
「バカ! ブレーキ踏めブレーキ!」
あわてて注意するアカマタ。
「なんで勝手に動いてるの?」
「んなこといいからブレーキを踏め!! あぶねえだろが!!」
マムシちゃんたちの乗る教習車が停まった。これは、クリープ現象といって、オートマ車は、ブレーキを踏んでいなくても、勝手に動いてしまうのだ。
「アクセルはじんわりと踏むんだ」
「じんわりと?」
マムシちゃんは、一気にアクセルを踏んでしまった。
キキーッ! 急ブレーキがかかった。
「!?」
ブレーキを踏んでいないのにかかったので、驚くマムシちゃん。
「補助ブレーキが俺のところにあるからまだ安心だけど、お前それ実際の道路でやったら事故るかんな?」
にらまれた。
さて、ようやくして、校内にある、コースを走る。
「ここからカーブが深いから、ハンドルはよく切れよ?」
「はい! おりゃあ!」
ハンドルを勢いよく切った。急ブレーキがかかった。
「ハンドルの持ち方もわからんのかアホ!!」
続いて。
「右左折の練習をする。ここは教習所だけど、実際の交差点だと思ってやれ」
「はい!」
マムシちゃんは、勢いよくハンドルを回した。すると、マムシちゃんたちの乗る教習車が、くるくるとその場を一回転したのだ。
「目が回る〜!」
目を回すマムシちゃん。
「ブレーキブレーキブレーキ!」
注意するアカマタ。
そんなこんなで、初の技能教習は波乱万丈であった。おわる頃に、教員から今日の注意すべきポイントなどを聞くわけだが。
「マムシ、お前運転の素質ないな」
「そんな……。でも私始まったばかりだし、運転はおろか、学科の知識も一ミリも知らないんですよ?」
「とぼけるな! 自動車免許の試験はな、そんな甘っちょろい気持ちで受けるもんじゃねえんだよ!」
いきなり大声を上げられ、驚くマムシちゃん。
「仮免試験、卒検、県学科試験を合格するやつには、学校に来る前から試験対策をしてるやつだっているんだよ。お前はなんだ? 予習もなにもしないでここへ来たのか。沖縄に遊びに来たのか。片腹痛いわ!」
「……」
「お前みたいなの、今回の合宿免許来たやつには五万といるだろうよ。そんなやつは、もう今日中に荷物まとめて帰ってもらっていいよ」
「……」
「まあとりあえず今日はおわりね」
と言って、アカマタが立ち去ろうとした時。
「遊びに来たんじゃないもん……」
「あ?」
「免許取得に来たんだもん……。免許取得に来たんだもん!」
マムシちゃんが、泣くのを必死にこらえていた。
「いや、予習もなにもしないでここに来たんでしょ? じゃあもうそれ遊……」
「免許取得に来たんだもん!! なによ! 自分はいきり立ってばかりいて、なにも知らない私をバカにして……。少しは……少しはこの気持ち理解してよ!!」
泣きながら訴えるマムシちゃんを見て、頭をかいたアカマタ。
「そ、そりゃあ沖縄で遊びたいけどさ……。でも……。勉強だってしてるんだからね?」
「泣くな!」
突然、マムシちゃんの頭に、手をポンと置いてきた。マムシちゃんは涙目のまま、呆然とした。
「車の免許を取るってことは、リスクを背負うってことでもあるだろ? 無知なお前には、それを知ってもらいたいんだ」
「私に?」
「当たりめえだ」
頭から手を離す。
「ほら、ホテル行くバスが行っちゃうぞ。今日はもう休め」
「……」
鼻をすするマムシちゃん。久しぶりに泣いた気がした。
翌朝も八時から技能教習。
「ハンドルはもっとゆっくり切れ!」
「バック下手くそだなあ!」
「クランクは先の状況を見てハンドルをうまく使え!」
とまあ、相変わらずマムシちゃんはアカマタに怒られ続けた。
唯一、直進とカーブだけは、うまくできるようになってきた。もちろん、右左折も。
「始めからできててほしかったな」
うまいからって、安々とほめてくれない。
「たまには素直にほめて!」
こうして、マムシちゃんの技能教習第一段階目は、おわった。
そのまた翌日。ついに、仮免試験が来た。
「どうしよう〜。いまだに練習問題八十点代しか取れない……」
あせるマムシちゃん。
「だと思ったぜ」
書類で、頭をポンと叩く誰か。マムシちゃんは振り向いてみた。
「あ、アカマタ!」
「アカマタ教授だろ?」
「あんたなんか教授なんて敬意示す必要ないわよ!」
「あっそ。じゃあ、こいつは必要ないか」
書類を掲げた。
「なにそれ?」
「耳貸せ」
顔を赤らめるマムシちゃん。でも、耳を貸した。
「今日の試験に出てくる問題の答えだ」
「!」
思わず声が出そうになるマムシちゃん。必死で抑えた。
「どうせお前はここまで来ても覚えてくるようなやつじゃないと思ってたし、特別だ。でも、俺のこと教授じゃないと思ってんなら、いいか」
「教授! いりまーす!」
強引に試験問題の答えを取り上げるマムシちゃん。
「都合のいいやつ」
呆れるアカマタ。
「まあ、試験さえ突破できれば、お前は第二段階、仮免合格だ。がんばれよ」
「う、うん。がんばる……」
教習中いちいちうるさいし、口が悪いし、泣かされるしで、ろくな思い出がないと思っていたけど、ここまでしてくれるんだから、感謝しないとなと思うマムシちゃんだった。
「とりあえず、これ暗記しなきゃ」
試験問題の答えの暗記を始めた。果たしてこれで仮免が受かったのか……。運がいいのか、それとも問題がよかったのか、無事受かったという。もちろん、技能検定もね。
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