偽装百合から始まる私たちの話

アイズカノン

第1話

 時折、考えてしまう。

私は果たして普通の恋をできるのだろうか……と。

「はぁ……。」

 私はとある一軒家の前で躊躇していた。

友達というほどよく会話もしなければ。

特に弱みとか金銭的な主従関係でもない間柄の家の前。

そりゃあ躊躇だってしたくなる。

(もう覚悟を決めてやりますか……。)

 私は意を決して家のベルを鳴らした。

ドタドタドタと聞こえてくる足音。

明らかに慌てた様子だった。

「ごめん紗夜さよ、お待たせ。」

 ガチャッと玄関の扉を開けた少し金色に近い明るい茶色のストレートロングヘアに、琥珀のような綺麗な瞳の少女が姿を現した。

彼女は【不知火夕姫しらぬいゆき】。

一応、私の彼女だ。

うん、彼女……。

女の子同士の恋愛関係。

「どうしたの?、上がらないの?。」

「ごめん、不知火さん。ちょっとぼーっとしてた。」

「夕姫。」

「へ?。」

「夕姫……でしょ。紗夜がしっかり恋人やるなら名前で呼ばないとダメでしょ。」

「そう……だね……。夕姫。」

「っ……、早く入って……。」

「うん、よろしくね。夕姫。」

 顔を紅く染め上げた不知火さ……はぁ、夕姫は慌てた様子で玄関からすぐの階段を駆け上がった。

そんなに名前呼びが恥ずかしいなら『そうさせなきゃいい』のに……。


 私は玄関で黒い学生靴ローファーを脱いで、夕姫のものと思われる茶色の靴の隣に置いた。

ちょっと寄り添う形に崩れちゃったけど気にしない。

 夕姫が駆け上がった階段を軌跡を辿るように登っていく。

制服のミニスカと長く煌びやかな髪の毛隙間からチラチラと大人チックな下着が見え隠れしていたのをよく目に焼き付けてた。

(流石にこんなやましい気持ちを持ってるなんて言ったら、私を嫌って別れてくれるだろうか……。)

 そんな不確かな想いを胸に私は夕姫の部屋の扉を開けた。




♡☆♡☆♡☆♡




 きっかけはほんの些細な出来事だった。

ある放課後の帰り道。

私はいつものように本屋やレコードショップによって、情報収集して帰ろとした矢先のこと。

「なんなですか貴方。」

「お嬢さん、今から俺と一緒に遊びに行かない。」

「えっ……、普通にいやですけど。」

「そう言わずに。」

 明らかに嫌な顔をされ、塩対応を同年代であろう少女にされてるのに、あの大学生らしき男の人はそんなのお構い無しに自分の都合を押し付けている。

綺麗な金色のような茶色のロングヘアに琥珀のような瞳の少女。

あぁ、知ってる。

不知火夕姫さんだ。

クラスでも常に人の集団にいる人。

窓際でただただ本を読んだり、外を眺めてる私とは相容れない存在。

 運の悪いことに彼女は新入仕立てたの調子に乗った男子大学生に絡まれてしまったようだ。

この辺は大学とも電車で数駅しか離れてないほど近く、若者向けサブカルのが集まる街でもあるため、そこにやって来る女子狙いの男子もちらほらいる現状。

基本的に私のように専用のスキル持ちか、もしくは複数人で回ることが安全とここに来る女子たちの共通認識になっていた。

おそらく不知火さんは初めて来たのだろう。

友達を誘えばいいものを、なんで1人でやってきただか……。

「こっちが下手に出ればいい気になりおって。」

「いやっ。」

 はぁ……、こういう輩ってなんで自分が下にいると思うのか理解できん。

明らかに威圧的な態度だとうに……。

「まあ、仕方ないか。」

 そう口ずさんだ矢先。

私の身体は2人の間に割って入っていた。

「誰かな?、君は。」

「私?、私は……、あぁ、この子の彼女。ちょうどここでデートの待ち合わせしてただよね。夕姫。」

「彼女……?、デート……?、えっ?。」

「何言ってるのかな君。女の子同士でなんて……。」

「貴方こそ、こんな場所で、そんな時代錯誤なこと言いますか?。」

「ちっ……、あぁ〜あ。興味無くなった。あとは2人でごゆっくり……。」

 明らかに不機嫌で憎悪のこもった態度で男子大学生は去っていった。

まあ、最低限の理解はしてくれたから良しとしますか。

それにしても全く口達者な私の舌。

いつからこうなっただっけ?。

「あの……、あの!。」

「えっ、何?。」

 不知火さんに呼びかけられて、私は意識を現実の階層に持ってきた。

長袖の白いブラウスに黒い無地のミニスカート、青いハーフネクタイの制服。

同じ制服なのに着る人でこうも印象が変わるのかと嫉妬の混じった感想が私の中で巻き起こった。

それに近いから香水の香りが直接来る。

陽気なひまわりのような優しい香り。

それでいて、鼻に優しい適当な濃度。

香り1つですらこんなに強いのかこの子は。

「さっきはありがとうございました。叢雲むらくもさん。」

「うん、別に良いよ。私が好きでやったことだし。」

「それでも……。」

「じゃあ、今日一日、デートしようよ。」

「えっ?。」

「それがお礼ってことで。」

「ちょっと待ってよ。」

 こうして、たった一日のデートが始まった。

本屋にレコードショップ、サブカルの店にメイド喫茶、ほかも色々と内外を見て回った。

クラスの美少女をわずか一日だけの、それも放課後の微かな刹那の一時だけど、独り占めした。

もうそれだけで十分だった。

だって私は……。

「今日はありがとうございます。紗夜さん。」

「良いよ。それに私のわがままに付き合って貰ったからね。」

 そう言って別れた。

二度とこんなことは無いという想いを載せて別れた。

別れたはずだったのに……。




♡☆♡☆♡☆♡




 時間は戻って夕姫の部屋。

ちょっとファンシーさと大人っぽさが同居する思春期の部屋。

太陽のような陽気な香水の香り。

そんな空間に女の子同士。

何も起きないはずもなく。

いや、起こってしまった。

「私をこんな気持ちにさせた紗夜は、悪い子だ。」

「ごめん……。」

「だから……責任、取ってよね。」

 その眼差しには見覚えがあった。

私が好きになった女の子に向けてた視線。

恋と性欲の入り交じった卑しい視線。

だからこそ私は……。

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