第4話
ㅤ僕は毎日彼女の生活に密着した。
ㅤ自分にこんなストーカー気質なところがあったとは、新たな発見だった。
ㅤ彼女の職場にも一緒に行き、彼女の仕事ぶりを応援した。
ㅤ薄毛の上司が彼女を頭ごなしに怒鳴った時には、思わずそのハゲ頭を叩いてしまった。すり抜けたけど。
いつも彼女はその上司の頭をみるクセがあった。
その頭が輝いているのが気になるのか、それとも……。
最近その上司の頭には、イタズラな妖精達が住み付いていた。上司からしたら数少ない貴重な髪の毛にぶら下がっては、『たのし~!』と騒いで、キャハハハ! と遊びまくる小さな存在達だ。
僕は初めてそれを見た時ゾッとした。
ㅤ可愛らしい仮面を被った恐ろしい妖精達は、その上司の頭を短期間のうちにひどい薄毛へと進行させていったのだ。
「かわいくって、ずっとみてたい」
愛音は薄毛の上司の頭に視線をやりながら、うっとりとしてそんなふうに呟いてしまったものだから、その上司の逆鱗に触れたのだ。
それからというもの、愛音は薄毛上司に目をつけられるようになってしまった。
そんなことでパワハラは勃発するのかと、薄毛の上司を軽蔑したが、致し方ない気もする。
なぜなら愛音は、頻繁に薄毛上司の頭上で遊びまくる妖精達にチラチラと視線を送ってしまいがちだったからだ。そして仕事が疎かになる。上司としては挑発されていると被害妄想に陥っても仕方がないだろう。故に愛音は度々その上司に頭ごなしで叱られる事が多くなっていた。
『おい。愛音はお前のハゲをみてるんじゃなくって、その上のかわいいのを見てるだけなんだ。だからそうも怒らないでやってくれよ』
そんな事を言ったって無駄だとは分かっているが、こうも彼女が叱られっぱなしでは見ていられない。
「へっくしょん!?」
オフィス内に彼女の大きな疑問形のくしゃみが響き渡った。ドスの効いたすごいボリュームのくしゃみだった。
ㅤ皆はビクンと身体を跳ねらせた。驚いた様子で彼女に注目してから、クスクスと笑いだす。僕も視線をやると、彼女は薄毛上司の頭をガン見していた。
さらにもう一度、へっくしょん!? と疑問形のくしゃみを豪快にしてから、気まずそうにパソコン画面に顔を隠した。
ㅤイタズラな妖精たちは、薄毛上司の頭の上で、『すべり台だ~!』とキャッキャと言いながら、楽しげに遊んでいる。
ㅤところで、愛音はなぜこの妖精達を飛ばさないんだと、疑問に思った。
愛音はコイツらに、日頃から『カワイイ…』と、うっとりした目で呟いていた。
お気に入りだから飛ばさないという事なのか?
だとしたら、同じように飛ばされない僕も愛音に気に入られているということなのかもしれない。
確か以前、同僚の女達と好みのタイプを語り合う女子トークを盗み聞きした事があるが、愛音はその時、
『フェロモン爆発してるダンディなおじさんかな? ちなみにそういう紳士は、おじさんじゃなくってオジサマと言うべきね』
と応えていた。
それからと言うもの、僕は自分の姿がどんなものなのか気になるようになっていた。
しかし街のショーウィンドウをチラ見しても、ガッツリと鏡を見つめたって、僕には自身の姿を確認する術はなかった。
もしかしてもしかすると、意外にも僕は愛音好みのフェロモンが爆発しているダンディな紳士なのかもしれない。そんな都合のいい事を考えて、とても気分が良くなった。
『おいキミ達。もっと面白いところへ連れて行ってあげるよ』
薄毛上司の頭の上にいるイタズラな妖精達を手のひらに載せると、
『キミらの住処は今日からここだ』
スキンヘッドの課長の頭の上に乗せておいた。
『うわ~、ツルンツルンだぁ~!!』
『この頭はもっとすべりがいいね~!!』
『ありがと~う!!』
妖精たちは、スキンヘッドを気に入ったらしかった。これからは薄毛上司の抜け毛も治まるだろう。僕もたまには人の役に立てたと、大満足したのだった。
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