第9話 1分1秒でも長くあなたといたい

 西本さんの脅し?により、女子3人は、立ち去っていった。すると、前島さんは西本さんをぎゅっと抱きしめた。


「西本さん、ありがとう。カッコ良かったよ!」

「何かあったら私に任せてください」

「北村くんも私のために怒ってくれてありがとう。嬉しかったよ」


 そう言って、前島さんは、俺に向かって笑顔でニコッと笑いかける。


「さて、ランチタイム再開しよっ」

「そうですね」

「だな」


 椅子に座ると昼食を再開し、楽しいランチタイムを過ごした。


 昼食の時間から放課後まで先ほどの3人がまた前島さんに近づいてくるかと思い、時々、見ていたが、何もなく安心した。


(接触はなし……西本さんの発言の効果か)


 放課後になると前島さんは、グループの子と帰るそうで俺にバイバイと言ってから教室を出ていった。


 以前の俺なら女子とこういうのはなかったなぁと思いながらリュックに教科書を入れていると誰かが俺の席の前に立った。


 誰だろうかと顔を上げるとそこにはロングヘアで黒いリボンを両サイドにつけたクラスメイトの高峰梨子たかみねりこがいた。


 入学してから一度も話したことがなく、怖い雰囲気をいつも醸し出している女子だ。


 確か、西本さんの隣にいつもいる人。だから多分、西本さんの友達なのだろう。


 高峰さん、いつも怒ってるような感じがして近寄りがたいんだよなぁ。


「ちょっといい?」

「……俺?」

「そう、あなた」

「まぁ、この後予定ないからいいけど」

「そう。じゃあ、聞くけど、どんな手を使って西本を落としたの?」

「……落とした? 何の話かわからないんだけど」


 本当にわからないのだが、高峰さんは、嘘つかないでと言いたげな表情で片手を机に置いて人差し指をトントンと叩く。


「西本は男子に興味なしっていいながらあなたのことはよく見てるのよ」

「俺のことを?」


 そう言えば、俺がよく本を読んでいることを西本さんは知っていた。それはただ一度見かけたから知っているだけだと思っていたが、違うのだろうか。


「暇さえばあれば北村くん、北村くん。試験前から北村の話ばかり聞かされるわ」

「ほ、ほんとか? 夢とか……」

「何言ってるの? 西本があなたのこと好きなのかどうか知らないけど、面倒な人にロックオンされたってことだけは伝えておくわ」

  

 ロックオンって何だよ。それに西本さんは、前島さんのために怒れる人で優しい人なのに面倒な人って……。


「伝えるってどうして高峰さんは俺に伝えてくれたんだ?」

「まぁ、頑張ってと同士になりうる人に言いたかっただけ」

「よくわからないが、少し性格悪くないか?」

「そう? じゃ、伝えたから私は行くわ」


 最後の最後まで何を言いたかったのかわからなかったが、高峰さんは立ち去っていった。


 そして高峰さんと入れ替わりで西本さんが俺に話しかけてきた。


「北村くん。この後、予定はありますか?」

「ないけど、どうかしたの?」

「では、今から私の家に来ませんか? 美味しいクッキーがあるんです」


 両手を合わせてニコッと微笑む西本さんを見ていると先ほど高峰さんが言っていたことを思い出す。


 面倒な人って言っていたけれど、やっぱり俺は、落ち着きがあって優しい人としか思えない。


「どうですか? この前の約束、忘れてませんよね?」

「もちろん、覚えてる」

「では決まりですね。帰ってから集合だと遅くなりますからそのまま一緒に帰りましょう」


 そう言って西本さんは、片手を俺の目の前に差し出す。どういう意味なのかわからないが、握手なのかもしれないと思い、手を出すとぎゅっと優しく手を握られた。


「恋人っぽいことしてると勘違いされそうだけど」


 教室にはまだ何人か残っている。手を繋いだままだと付き合っていると思われる気がする。


「私は構いません。1分1秒でも長くあなたといたいと思っていますので。ですが、困らせたいとは思っていませんので手を繋ぐのは我慢しますね」


 するっと手を離し、微笑む彼女の表情を見て、俺はまた高峰さんの言葉を思い出す。


『暇さえばあれば北村くん、北村くん。試験前から北村の話ばかり聞かされるわ』


(……好意を持たれてる……のか?)


 勘違いだと恥ずかしいので一先ずは好意を持たれているとは思わないで置くことにした。



***



 2回目の西本さんの家。この前来たばかりのはずなのに今日は前より緊張していた。前回は、前島さんもいたが、今日はいない。だから緊張しているのかもしれない。


「そう言えば、今日、高峰さんから西本さんはよく俺のことを見てるって言っていたんだけど、何か用があったりした?」


「! い、いえ、特にありませんよ。梨子さんが私以外に話しかけるなんて珍しいです。彼女と何かお話ししたのですか?」


「……えっと、大したことは話してないんだけど、西本さんがよく俺のことを話してるって高峰さんが教えてくれて」


 隠す内容でもないと思い、高峰さんが言っていたことを教えると西本さんは、顔を赤くした。


「よ、よく話すのは本当です。北村くんと過ごす時間がとても楽しかったので友人に話したんです」

「そう、なんだ……」


 ほら、やっぱりそうだ。友達に楽しいことを共有したくなるのは俺もよくわかる。好意を持たれているとか考えた自分が恥ずかしい。


「お茶を用意しますね。北村くんは、ソファに座って待っていてもらえますか?」

「手伝いは……」

「大丈夫です。1人でできますので」

「わかった」


 西本さんに言われた通り、俺はソファに座り、読みかけの本を読む。


 やはりミステリー小説は読んでいて面白い。すぐに展開が読めないところが。


 読み始めて数ページ読み終えたその時、人の気配がして顔を上がると目の前には西本さんがいた。


「に、西本さん?」

「ふふっ、集中しているところもいいです……。すみません、本を読んでいたところ邪魔をしてしまい」

「いや、大丈夫だよ。あっ、紅茶淹れてくれてありがとう」

「どういたしまして。さて、楽しくお喋りしながらクッキーをいただきましょう」


 西本さんは、そう言って俺の隣に座り、紅茶をゆっくりと飲んだ。





【第10話 頼られなかったより頼られた方が嬉しい】

★次話、西本栞編完結です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る