第2話
ㅤ僕は色々と考えに考えた末、
「……なあ。今日のキミ、背筋がすごすぎるよ。不自然なぐらいにね。自分で触ってみなよ」
と、オブラートに包んだ指摘をした。
彼女はキョトンとしながら、右手で背中を触った。
そしてすぐに、面白いぐらいに顔を真っ赤に染めた。耳まで赤くなっている。
「やだ! どこみてんのよ! このヘンタイ!」
彼女はそんな暴言を吐くと、慌ててその場から立ち去った。
多分女子ロッカーにでも直しに行ったのだろう。
しばらくして帰ってきた彼女は、何事もなかったかのように涼しげな顔をしていた。
良かった。
これで彼女の恥を未然に皆に知られず防ぐ事が出来たのだから。
嫌われようが、僕は彼女に対して正解の行動を取ったのだと思おう。
彼女はとってもかわいい。
颯爽と風を切り、髪をかきあげて真っ直ぐと僕の所へとやってきた。
「さっきはお世話さま」
彼女は僕に冷えた缶コーヒーを差し出してきた。
ㅤ僕が毎日飲んでいる、お気に入りの缶コーヒーだと言いたい所だが、生憎ミルク入りの物で、ブラックコーヒーではなかった。
銘柄は合ってるが惜しい!! でも超絶嬉しいぞ!!
ㅤこれは彼女の落ち度ではない。
ㅤ常日頃、『コーヒーはブラックがいいね!』 と主張しなかった僕の落ち度だ。
「さっきは教えてくれたのに、ひどいこと言ってごめんね。…でも言っとくけどあれ、ギャグだから!」
彼女は視線だけ逸らして、缶コーヒーを僕に押し付けてきた。
僕は、『ありがとう』と言ってヒヤリと冷たいそれを受け取った。
「そうか。春野さんのことだから、きっとそうだと思っていたよ。おもしろかった。次のギャグも期待してるよ!」
僕は、ギャグだと言い張る彼女の気持ちを否定せず、その冷えた缶コーヒーを封切り一口飲んだ。
ミルク入りのコーヒーがこんなにも美味く感じるのは、きっとこの缶コーヒーが特別なものだからだろう。僕はその味の奥の奥の、そのまた奥深くまで味わった。口の中で転がしたりして、ワインソムリエみたいに。
「あのブラ、被るタイプのだったから気づかなかったの……。でも、なんとなく違和感は否めなかったわ。…でも、まさかこんな……」
彼女はいじけたように呟いた。
ギャグって言っておきながら被るタイプだなんてカミングアウトしてくる彼女に、僕はコーヒーを吹き出しそうになってしまった。
間違いを認めたくなくて強がりたいのか、詳細を暴露したいのか、どっちだよ?
「被るタイプのギャグだったんだね。おもしろかったよ。ごちそうさま」
僕は缶コーヒーを、彼女に乾杯をするかのように少しだけ掲げた。
彼女は僕の耳元に、
「絶対絶対、ぜーったいに、誰にも言わないでね!」
と言って去っていった。
その後ろ姿を見送ると、背中にはまだ二つのコブが残っていた。
まだラクダじゃないか!
何してんだよ!
僕の心臓は最高潮に暴れだした。
……やっぱり、ギャグなのか!?
キミがラクダになっても・・・ 槇瀬りいこ @riiko3
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