第50話

「俺、バンド始めるまで、少し荒れてたんだよ。たまにバイクでよく来てた。ここには……」



「……荒れてた? どうして?」



こんなに優しい人なのに?


ちょっと意外だった。



NATSUは、小さな街の明かりを愛おしそうに見つめたまま、低い響く声で話し始める。




「オヤジが酒乱で、母ちゃんを殴る蹴るで、俺は " 早く離婚しちまえばいいのに " ってずっと思ってたけど」



「…………けど?」



母とも殆ど離れていたし、父親なんて始めから居なかった私は、NATSUの話をボンヤリと聞いていたのだけれど、





「病気で死ぬまで、母さんは…我慢してた」








…低い声が少し震えてるのに気付くと、こっちまで苦しくなった。



そうだ。


おばさんに、


NATSUも、高校生の時にお母さんが亡くなったって聞いた。







「俺は強くなりたい、弱い人間にはなりたくない」





「………NATSUは強いんじゃないの?」




強くなきゃ


ステージであんなふうに、みんなを魅了することなんて不可能だよ。




「俺は、母さんもオヤジからも逃げてた奴だから、後悔が多くて……。


今は逆に、弱いやつ見てたら守ろうって支えなきゃって思うんだ」





弱いやつ……。



NATSUは、小さく微笑んで、私を指差した。

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